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「こういう大河ドラマが見たかった。自分たちが暮らす時代に近づいてきた第2部は、とても生々しく感じます」リリー・フランキー(緒方竹虎)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

 ロサンゼルスオリンピックに向け、日本水泳の強化に取り組む田畑政治(阿部サダヲ)は1931(昭和6)年、完成したばかりの神宮プールで日米対抗戦を実施し、大成功を収める。相変わらず本業である新聞記者の仕事そっちのけだが、そんな田畑を温かく見守るのが、上司の緒方竹虎。後に政界に進出し、副総理にまで上り詰める大人物だ。オリンピックに情熱を注ぐ田畑のかたわらで、緒方自身はジャーナリストとして五・一五事件や二・二六事件といった激動の昭和史に直面することとなる。演じるリリー・フランキーに、撮影の舞台裏を聞いた。

緒方竹虎役のリリー・フランキー

-緒方の役作りはどのように?

 最初にいろいろな資料を頂いて読んでみました。そうしたら、最終的には政治家になって、かなりの地位に就く立派な人だったそうで。だから、本来であれば、もっとドンと構えているべきなのかもしれませんが、何しろ一緒にいるのが田畑。あまり重々しくしていると、なにかかみ合わない(笑)。だから、威厳みたいなものは忘れて、ちょっと軽いボケも入るような人にしなければいけないのかな…と。とりあえず、後々どうなっていくのかは、今は忘れるようにしています(笑)。

-当時の新聞社や新聞記者に対しては、どんなイメージを持っていますか。

 今、大手新聞社の社員だったら超エリートですが、当時の新聞記者は「嫁に出してはいけない」と言われていたぐらいで、新しいメディアで一山当てようという山師のような人間の集まり。だから、一つのニュースを手に入れるため、今では考えられないようなことも、たくさんやっていたに違いありません。当然、いろいろな付き合いもあっただろうし、当時はコンプライアンスの意識も、今よりずっと低かったわけですから。

-そんな記者たちを束ねる緒方ですが、田畑のどんなところが気に入っているのでしょうか。

 どちらかというと、緒方は入社試験で田畑を落とそうとした方なんですが…。ただ、現代を基準に考えると不適合な人間に見えるかもしれませんが、山師の集まりだった当時の新聞社の中には、そんな人も多かったのではないかと。そういう意味では、緒方はハチャメチャな田畑に、新しい時代を作ってくれそうな“生きのよさ”みたいなものを感じていたのではないでしょうか。

-そんな田畑を演じる阿部さんの印象は?

 珍しい動物を見ているような感覚ですね(笑)。存在感はかわいらしいのに、ものすごいエネルギーがあって、ワンカット、ワンカットがとても印象的。ものすごく楽しいです。

-新聞社のほか、緒方は頻繁にバー「ローズ」に出入りしますね。

 バーの場面は毎回、飲み屋らしいユーモアがあって大好きです。新聞社よりもずっと気楽なので、僕も緊張せずにやっています。(ママのマリーを演じる)薬師丸(ひろ子)さんが田畑の生命線を伸ばそうとして、包丁を手にする場面(第26回)なんかは、「それまでは何だったんだ」というぐらいのコメディー調。僕のお芝居も、その前とは全く変わってしまっているし…(笑)。「これからこのパターンでいくのかな…?」と思ったので、あの場面はものすごく印象に残っています。

-バーの場面、撮影時の現場の雰囲気は?

 すごくいいです。薬師丸さんはとてもすてきな方で、あんなに健やかな方はいません。そんな薬師丸さんに、最初のシーンで阿部さんが「やい、ババア!」みたいなことを言っていたので、「さすがにこれは…」と思って、「よくそんなひどいことが言えますね」と苦言を呈したんです。そうしたら、「だって、台本に書いてあるんだもん!」と(笑)。

-一方で、新聞社の場面はいかがでしょうか。

 バーとは対照的ですね。新聞社のシーンは、非常にオッサンたちがやかましい(笑)。いつもみんなで言っていますが、撮影が終わると、喉がものすごく痛くて…(笑)。ものすごい大声でしゃべるので、知らないうちに、みんな声が大きくなってしまうんです。

-緒方は、五・一五事件や二・二六事件といった歴史的な事件にも遭遇します。そういう場面を演じてみた感想は?

 やっぱり、ものすごく重い気分になりますよね。例えば、戦国時代の物語で戦が起きたとしても、遠い昔の話なので、どこか“エンタメ感”があり、それほど血なまぐささは感じません。でも、五・一五事件や二・二六事件は、近代の出来事なのでずっと身近。軍のクーデターで大臣が殺される…みたいな出来事は、たった1人が死ぬだけでも、ドスンとくるものがある。そういう暗い時代の中で、スポーツやオリンピックで世の中を明るくしようとした田畑さんの行動には、大きな意味があったのではないかと、改めて思いました。

-宮藤官九郎さんの脚本の印象は?

 宮藤さん自身はとても真面目な人なのに、真剣にふざけることができるんですよね。しかも、「あまちゃん」(13)で「ここまでふざけても大丈夫」という経験をしている分、今回はどう面白くするかというコツを、しっかり押さえている。第2部では、阿部さんや皆川猿時(松澤一鶴役)さんなど、宮藤さんのなじみの顔ぶれがさらに増えたので、ますます水を得た魚のようになっている気がします。演出陣も、宮藤さんの台本の良さを生かすため、グルーブ感が出ていればいい、という方針のようで、言葉遣いなどで細かい注意を受けたことはありません。

-この作品の見どころは?

 僕はこういう大河ドラマが見たかったんです。同じ歴史ものにしても、時代劇とは違うものも、たまには見たいじゃないですか。特に第2部は、より自分たちが暮らす今の時代に近づいてきたので、とても生々しく感じます。例えば、女性のスポーツにしても、今、当たり前に見ることができるのは、こういう人たちが努力を積み重ねてきたおかげだということが分かる。しかも、それは遠い昔ではなく、ついこの間のこと。1964年の東京オリンピックにたどり着くまで、こんなにいろいろなことがあったんだと、すごく興味を引かれます。そういうことを知ることができるのは、このドラマの大きな見どころではないでしょうか。

(取材・文/井上健一)

緒方竹虎役のリリー・フランキー

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