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【インタビュー】『アンダー・ユア・ベッド』高良健吾、30代で迎えた変化 「キツくて嫌だった」ハードな役が「ご褒美」に

 『殺人鬼を飼う女』『呪怨』などの作家・大石圭の原作を基に、『バイロケーション』『氷菓』の安里麻里が監督を務めるミステリー映画『アンダー・ユア・ベッド』。さて、どんな話だろうと資料を手に取ると、「のぞいていたい。このままずっと―」のキャッチコピーとともに、ベッドの下にはいつくばって女性の足に目をやる、不気味な中に寂し気を漂わせた高良健吾の姿があった。その瞬間、これぞ高良の真骨頂!と思わずニヤリ…。本作主演を「ご褒美」と喜ぶ高良に、その胸中を聞いた。

高良健吾

 高良といえば、『蛇にピアス』『ソラニン』『横道世之介』『多十郎殉愛記』など、代表作は多ジャンルにわたるが、2年前、29歳のときのインタビューでは、10代後半から20代前半は「自殺」「犯す」「殺す」など暴力や死を伴う役が比較的多く、「キツくて嫌だった」と漏らしていた。一方で30代を目前にして、「同じような役に20代とは違うやり方で再挑戦したい」と意気込んでいた。

 そして30歳(撮影時)で迎えた本作は、11年前にたった一度だけ名前を呼んでくれた女性に執着する孤独な男の“狂気の愛”を描いた物語。男・三井直人は、彼女の家の近所に引っ越すだけではなく、自宅に侵入、監視、盗撮、盗聴を繰り返し、オムツまでして彼女のベッドの下で数時間を過ごすという、かなり“ヤバい”男。しかしその狂気は、幼い頃から存在感がなく、誰からも名前すら呼ばれたことがない寂しい過去に起因する…。

 自身も納得する「暗い」「ミステリアス」といったパブリックイメージにハマる役で、キャスティングの際、安里監督もプロデューサーも「これ以上の俳優はいない」と即決したという。もちろん、難役をこなす演技力も期待されてのことではあるが、高良は「役者なのでどういうイメージを持たれてもいいですけど、ストーカー役ですよね。複雑ですね…」と苦笑い。

 とはいえ、「30代最初の年にいろいろな役を頂いた中で、久しぶりに、苦しくてヒリヒリした痛みが伴う役がもらえたことはご褒美だと思いました。純粋に楽しかったです」と心の底からの笑顔も見せた。

 「キツくて嫌だった」ハードな役が、いつの間にか「ご褒美」に変わっていた。その理由を問うと、「若い頃は役に成り切ることで、その役が抱えている問題を自分の問題にし過ぎて、役がイエスと言えば、自分がノーと思っていてもイエスにしなきゃいけないと考えていたのでキツかったです。でも、僕は役に成り切るより、役として作品の中に存在したいので、そのためには役と自分の間にフィルターがあってもいいと思うようになりました」と返答。本作では、「役の問題を自分の問題にし過ぎず、一定の距離感を持って向き合えました」とうれしそうに話した。

 演じ方を変えようとしたきっかけは、お人好しの青年役で主演した6年前の映画『横道世之介』(13)までさかのぼる。試写を見たとき、高良は「この役はもうできない…」と感じると同時に、過去の作品のどのキャラクターも、身を削るような“成り切る”作業をしていたため、「二度とできないと思う役だらけで、それではいけない、身が持たない」と痛感したという。

 では、なぜそこまで自分を追い込んでいたのか? それは、「役者の寿命を短く考えていた」から。だが、「体力に限界があるスポーツ選手などと違い、役者は死ぬまで続けられるから、もっと長いスパンで考えていいと思ったときに気持ちが楽になりました」と打ち明けた。

 「20代のうちに何でもできるようにしないといけないとか、1~2年かけてできないことは諦めるしかないとか思っていたけど、5~10年かけてもいいし、20代でできないことは30代で、30代でできないことは40代でできるようになればいいと考えられるようになりました。白黒をつけたがる方だったけど、グレーゾーンを許せるようになったかな」と続ける。今回の変化は、『横道世之介』を発端に、約6年もの歳月をかけてようやく体現できたことなのだ。

 一定の距離をもって捉えた三井について、高良は「全ての行動は共感できないです。でも、純粋で真っすぐな彼が、幼少期からその存在を誰からも認めてもらえず、孤独やつらさ、寂しさを感じていたことは理解できるから、彼の行動についていくことができました」と述懐。「オムツをはくシーンは恥ずかしかった」とはにかみながらも、三井のひたむき故の行動や、ついドジをやらかすシーンを挙げ、「そういうところがかわいいですよね」と愛情ものぞかせた。

 また、R18指定を受けた本作は、激しい暴力や性的描写もあるが、「そういう悲惨な描写も覚悟してオファーを受けているので、特にプレッシャーなどはありませんでした」と明かすと、「遠慮なく、熱量があった現場は幸せでした」といとおしそうに振り返った。

 共演した、三井が執着する女性で、夫からDVを受けている佐々木千尋役の西川可奈子、三井が千尋を監視するために開業した観賞魚店の常連客・水島役の三河悠冴ら若手俳優の必死に食らいついてくる姿を見て、「この人たちとこれから、この世界で一緒に年を重ねていくのか…」と感慨に浸る瞬間もあったようだ。

 安里監督との初タッグも新鮮で、「とても丁寧な方で、現場に入るとその日撮影するシーンの方向性を話し合ったり、確認し合ったりする時間があり、こういうやり方は今までなかったですね」としみじみと語った

 以前は、そんな現場でやり切る芝居が「全て」だったそうだが、今は「欲が出てきて、結果もほしい」と目を輝かせる高良。無欲だったこれまでも、称賛の声、名誉ある賞、演じ切った充足感、次につながるテクニック…いろんな“結果”はついてきた。それでもあえて口に出す高良。欲を出しはじめた男は“ヤバい”…。

(取材・文・写真/錦怜那)

(C)2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

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