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「朝ドラとの出会いは運命」母として、女優としての歩みを信じ、重責を担う母親役に挑む 松嶋菜々子(柴田富士子)【「なつぞら」インタビュー】

 戦災孤児の奥原なつ(広瀬すず)を引き取り育てる、北海道・十勝で酪農を営む柴田家の母・富士子を演じる松嶋菜々子。私生活でも母となり、「ひまわり」(96)以来、23年ぶりに朝ドラに帰って来た松嶋にとって、前作は女優として生きる決意をさせてくれたという。では、本作にはどんな思いをめぐらせているのだろうか…。

柴田富士子役の松嶋菜々子

-久しぶりの朝ドラの現場はいかがですか。

 スケジュールの過密さに、私もこれをこなしていたなぁ…と懐かしさを覚えています。がむしゃらに走るしかなかった、あのときの必死さがよみがえります(笑)。撮る量が多いので、当時は「朝ドラか、昼ドラか」と言われるぐらいきつかったのですが、これをやると他に怖いものがないぐらい心身が鍛えられるので、すずちゃんも経験値が上がると思います。

-オファーを受けたときのお気持ちは?

 「次に朝ドラに出るなら母親役だね」とスタッフに言われたことがあったので、現実となり光栄で信じられない気分です。朝ドラから始まり、そこから歩んできた約四半世紀の女優人生の一つの区切りになると思いました。

-富士子は優しく、たくましく、なつとの関係に戸惑いながらも、わが子同然に育てようと務める女性ですが、演じる上で心掛けていることはありますか。

 戦争孤児としての試練を背負ったなつが、北海道で培った開拓精神を胸に人生を切り開いていくのがメインストーリーなので、母としては娘に新たな試練を与える必要はなく、愛情を注ぐのが一番だと考えています。その中でも、葛藤や互いに遠慮することもありますが、そこは素直に表現したいですね。そう思えたのは、私も子育てに向き合ってきた経験があるからかもしれません。自分が一生懸命にやってきたことを信じ、富士子に投影して演じています。

-撮影中の印象的なエピソードをお聞かせください。

 富士子がなつに自分の母への思いを語るシーンがあるのですが、「ひまわり」にも似た感じのやりとりがあったことを思い出しました。当時、母親役の夏木マリさんの演技を見て感動したし、なんて重たい役なんだろうと感じたことも覚えています。今、自分がその役回りを担うことは感慨深く、どれだけ表現ができるだろう……と悩みましたが、演じるのは自分でしかないのだから、今のままの私がやればいいと思い取り組みました。

-現場はどのような雰囲気ですか。

 皆さん、朝ドラがどういうものか、また、撮影がいかにきついかを理解しているので、最初から「みんなで仲良く楽しくやりましょう」「家族になりましょう」という感じでした。初めて北海道ロケに行ったときは、みんなで縄跳びをしたり、食事に行ったりもしました。すずちゃんが東京でのシーンを撮って3週間ぶりに柴田家に戻って来たときは、「ほっとする。久しぶりに会えてうれしい」と言ってくれて、私も「体調は大丈夫だった?ちゃんと食べていた?」と本当の母のようになっていました(笑)。

-広瀬さんとは初共演ですが、どのような印象を持たれましたか。

 天性の女優ですね。かわいらしくて、頑張り屋で、安定感もあるので、こちらが支えようなどと余計なことを考える必要はなく、富士子としてなつに全力で向き合っています。

-なつの幼少期を演じる粟野咲莉ちゃんの大人顔負けの演技にも注目が集まっていますね。

 役にピッタリですよね。なつは戦争孤児として苦労したこともあり、少し子どもらしくないところがありますが、咲莉ちゃんも気配りができてとても大人びているので、思わず本当は何歳なんだっけ?と考えてしまい、感心するばかりです(笑)。

-北海道弁にも挑戦されていますが、出来栄えは?

 自信はないです(笑)。父母の実家が東北で、方言が少し似ているから東北に引っ張られることもあるので、一生懸命頑張っています。その土地の方の独特の雰囲気は方言によって生まれるともいえるので、方言を話すことは奥が深いなと感じています。

-北海道ロケの思い出を教えてください。

 北海道ロケをすごく楽しみにしていたんです。食事はおいしくて、大自然にも癒やされました。人生でやりたいことの一つだったワカサギ釣りにも音尾(琢真)さんに連れていっていただき初挑戦しました。釣ってすぐに天ぷらにして食べたんですが、すごくおいしかったです。

-もし、朝ドラ3回目のオファーがあったら受けますか。

 もし3回目があるならおばあちゃん役だと思いますが、声を掛けていただけたら光栄なので、ぜひやらせていただきたいです。

-松嶋さんにとって朝ドラとは?

 「ひまわり」のヒロインは、自ら願ってというよりもチャンスを与えていただいたという感覚でいました。あのときをきっかけに女優をやっていく決意をして人生が変わったので、出会いは運命的だったと思います。仕事と子育てとを積み重ねてきた中で「なつぞら」の母親役で声を掛けていただき、そこに不思議なご縁を感じていました。私生活と朝ドラの波が似ているので、3作目がもしもあるならば、きっと自分にとって運命なのかもしれませんね。

-最後に読者にメッセージをお願いします。

 朝、カーテンを開けて外の天気がいいと、ふっと心が軽くなりますよね。「なつぞら」は、まさにそういうドラマだと思います。なつが試練を背負いながらも周りに支えられ、葛藤しながら一生懸命に生きる姿や、家族の温かみ、近所との触れ合いなど、古き良き日本も描かれているので、全部が見どころです。ぜひご覧ください。

(取材・文/錦怜那)

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