【インタビュー】『グリーンブック』ピーター・ファレリー監督「『グリーンブック』のおかげで、あと2本ぐらいは映画が作れます(笑)」

2019年3月5日 / 19:01

 先に行われた第91回アカデミー賞授賞式で、作品、脚本、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)を受賞した『グリーンブック』のピーター・ファレリー監督が来日し、インタビューに応えた。本作は、黒人ピアニストのドクター・シャーリー(アリ)と、イタリア系白人のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)という、異なる世界に住む2人の旅の様子を、実話を基に、ユーモアとペーソスを交えて描いたロードムービー。これまでコメディー映画を中心に撮ってきたファレリー監督が新境地に挑んだ作品でもある。

ピーター・ファレリー監督

-まず、アカデミー賞受賞おめでとうございます。これまで一緒にコメディー映画を撮ってきた“コメディーの仲間たち”の反応はいかがですか。

 (日本語で)ありがとう。仲間たちはもうジェラシーの塊です(笑)。まさかオスカーを受賞するなんて思ってもいなかったので、自分でも驚いたけど、友人たちはもっと驚いている感じです。これは本心ですが、この映画を作っているときに、オスカーのことなんて考えたこともありませんでした。もともと僕はコメディー映画を作ってきたけど、コメディーはオスカーとはあまり縁がないので遠い存在でした。なので、「もしかすると…」と、意識し始めたのは授賞式の2カ月ぐらい前からでした。

-受賞後に、ヴィゴ・モーテンセンやマハーシャラ・アリとは何か話をしましたか。

 授賞式の後は、人々がまるで動物園のように押し寄せてきて、「こんなモブシーンは見たことがない」という感じだったので、2人と会話はできませんでした。なので、数日後に改めて集まって話をしました。2人とも素晴らしい人間性の持ち主ですし、出会った瞬間から馬が合いました。映画作りの最中は、互いに絆ができるものですが、この映画では特に深いものができました。みんなで「いろいろあったけど、この映画を作って本当に良かったよね」と話をしました。
 ただ、この仕事の寂しいところは、撮影中は何カ月も一緒にいるのに、撮影が終わったら、例えば、ヴィゴはスペインに戻り、マハーシャラは次の撮影のためにアーカンソーに行き、私は家に帰りと、まるで学校の卒業のように、毎日会っていたのに急に会えなくなってしまうことです。『メリーは首ったけ』(98)のキャメロン・ディアスとも、撮影後は10回ぐらいしか会っていません。

-この映画が、これまでの白人と黒人によるバディムービーと大きく違うのは、互いが相手に対して抱いているステレオタイプのイメージを覆したところだと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

 確かにこの映画は、全く個性の異なる2人のキャラクターが、旅を通して共通点を見つけていく話です。例えば、シャーリーがYMCAで警官に捕まり、それをトニーがお金で解決した翌日、シャーリーがトニーに謝罪すると、トニーが「こんなことは俺が勤めていたナイトクラブでは珍しくない。世の中は複雑なものさ」というシーンがあります。あの瞬間からトニーは、シャーリーが、自分が黒人に対して抱いていた一元的なステレオタイプのイメージの人ではなくて、多面的な人物だと思い始めます。そして、そこから互いに変化し、成長していったのです。 
 誰もが初対面の相手には先入観を持ってしまいますが、その人を知るに従い、実際はそうではなく、もっといろいろな面を持った人だと知るわけです。それはこの映画の2人にも言えることだし、僕はこの物語のそういうところに引かれたんです。

-この映画を撮るに当たって、参考にした映画などはありましたか。

 特にありません。僕が今まで作ってきた映画、例えば『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94)にも、『キングピン/ストライクへの道』(96)にも、『メリーに首ったけ』にも、少なからずロードムービーの要素がありますから。僕自身、車で旅をするのが大好きなのですが、車で移動するという環境は、非日常なので、自分はアウトサイダー的な立場になるし、相手に対してもオープンな気持ちになれると思います。だから僕はロードムービーが好きなのかもしれません。「ロードムービーを作ろう」といつも意識しているわけではないのですが、「ロードムービー」と聞くと「それ、いいかもね」となるところはあります(笑)。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

【映画コラム】実話を基に映画化した2作『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』『栄光のバックホーム』

映画2025年11月29日

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(12月5日公開)  太平洋戦争末期の昭和19年。21歳の日本兵・田丸均(声:板垣李光人)は、南国の美しい島・パラオのペリリュー島にいた。漫画家志望の田丸はその才能を買われ、亡くなった仲間の最期の雄姿を遺族 … 続きを読む

氷川きよし、復帰後初の座長公演に挑む「どの世代の方が見ても『そうだよね』と思っていただけるような舞台を作っていきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月29日

 氷川きよしが座長を務める「氷川きよし特別公演」が2026年1月31日に明治座で開幕する。本作は、氷川のヒット曲「白雲の城」をモチーフにした芝居と、劇場ならではの特別構成でお届けするコンサートの豪華2本立てで贈る公演。2022年の座長公演で … 続きを読む

Willfriends

page top