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現場では、状況によってせりふをある程度変えなければいけない場合が出てきます。そんなとき、その場ですぐに言葉を生み出さなければいけません。それも単に「こういうせりふだから、直訳でこれ」ではなく、その意図をくんだ薩摩ことばで、しかも、全国に通じるものを考えなければいけない。経験を積むうちにやりやすくなりましたが、最初はそれが難しかったです。また、最初の頃はみんな「薩摩ことばが難しい」と言っていましたが、物語が進み、中央に出てきた頃は、標準語混じりの薩摩ことばに変わってきたんです。そうしたら、瑛太くんなどは「薩摩ことばのままの方が言いやすかった。薩摩ことばがしゃべりたい」と言うようになっていました(笑)。
大河ドラマは、僕にとって甲子園のような特別なステージ。そこにまた帰って来たいという思いでずっと活動してきたところ、故郷・鹿児島を舞台にした「西郷どん」に出演することができました。薩摩ことば指導として1年以上関わってきたことも含めて、愛着も他の作品とは桁違い。その分、ものすごく緊張して、撮影中は毎晩眠れませんでしたが、長い時間を共にしてきたスタッフに囲まれた温かな環境の中、最高のステージでお芝居をすることができました。
これまでいろいろな作品に携わりながら西南戦争を見てきましたが、今回は西郷さんが小吉から吉之助、隆盛へと成長する姿を見てきたので、今までとは思い入れが全く違います。不平士族たちの思いを背負った西郷さんが、ある意味担がれるような形で立ち上がり、大久保さんがそれを抑える…。そんな構図が切ないです。実は、僕の先祖も西郷さんと一緒に西南戦争に従軍しているんです。そんなことを考えていると、時代の流れでやむを得ないことだったとは理解しつつも、涙がとまらなくなってきます。
(取材・文/井上健一)