倒幕のために動き出した西郷吉之助(鈴木亮平)は、幕府と敵対する長州との連携を模索する。やがて薩長同盟となって実を結ぶ両藩の橋渡し役を務めるのが、幕末の風雲児・坂本龍馬だ。幕末の英傑の中でも一際人気の高いこの人物を演じるのは、これが7度目の大河ドラマ出演となる小栗旬。坂本龍馬という役への思い、プライベートでも仲の良い鈴木亮平との共演について語ってくれた。
-坂本龍馬について、会見で「冒険家のような人物」とおっしゃっていましたが、具体的にお芝居としてはどのように?
「冒険家」というのは心の中で思っていることで、それが自分の作っているキャラクターに表れているのかどうかは分かりません。ただ、この作品の龍馬は、西郷さんに「広い世界に出て商売がしたい」と語るような人。それはこの時代、「何言ってんだ?」と思われるぐらい途方もない話です。でも、龍馬自身は心からそう思っている。もっと言うと、「自分が行ったことのない場所を全部見たい」と。だから、そういう思いがあるからこそ、こういう行動をする、というふうに見えればいいなと思いながら演じています。
-役作りの上で工夫した点は?
懐手は坂本龍馬のキーポイントなので、できるだけやるようにしています。髪の毛は、監督の希望もあって今回は結わずに。ただ、藩主など身分の高い人の前に出るときだけは、怒られそうなので一応、結っています(笑)。刀については、ピストルを持っているので、小刀はいらないだろうと、大刀だけを身につけることにしました。とはいえ、剣術そのものはきちんとやってきた人なので、刀の差し方などは、撮影前に北辰一刀流の道場できちんと教えてもらっています。
-小栗さんが考える坂本龍馬の魅力とは?
僕たちは電話やメールなど、ツールがたくさんある時代に生きていますが、龍馬が生きていた頃は、誰かと関係を作ろうと思ったら、自分の足で会いに行くしかない。唯一の通信手段である手紙でさえ、何日後に着くのか、本当に届いたのかどうかも分からない。そんな時代にこれだけの人に会いに行って、その人たちの間を取り持ったというのは、ちょっと想像を超えています。そのバイタリティーに関しては、ただただすごいなと。しかも、彼はそれほど弁の立つ人間ではなかったと思うんです。にもかかわらず、言葉なんかしゃべれなくたって、どうにかなると思っていた。そこがまたすごいなと。僕なんか、アメリカに行ったらビビってしまって大変です(笑)。
-今回の龍馬の見どころは?
今までいろいろな物語に登場してきましたが、西郷さんと一緒に雨漏りを修理する、みたいな話はなかったのではないかと。革命とは少し離れた日常の中にいる龍馬を表現できたのは、面白い部分ではないでしょうか。
-小栗さんと鈴木亮平さんの仲の良さは有名ですが、改めて大河ドラマで共演した感想は?
やっぱり、熱い気持ちになります。知り合ったのは24歳頃ですが、あの頃一緒に一生懸命に演じていた人が、干支(えと)が一回りして12年ぐらいたってみたら、大河ドラマの主役をやっている…。そう考えると、人生って面白いな…と。
-現場で演じている鈴木さんの印象は?
背負っているものが大きいので、大変ですよね。月曜日から金曜日まで、リハーサルをやって、撮影をして…。土日は薩摩弁をチェックしながら、せりふを覚えて…。これを1年以上続けているのは、本当にすごいこと。今回、僕が思ったのは、やっぱり方言が難しい。方言に頭がいってしまうと芝居がおろそかになるし、逆に芝居に熱を入れると、方言が違うと注意されるし…。ちょっと僕には難しそうなことを、頑張ってやっているなと。
-大河ドラマの主演を務めることに対しては、どんな印象を?
それだけ長い間、一つの役をやり切るということは、ものすごくやりがいのあることでしょう。全てやり切ったときの達成感や、そのときに自分に返ってくるものも大きいに違いありません。ただその一方で、ひたすら出口の見えないトンネルを走っているような状態が続くと思うんです。そうすると、不安になったり、苦しくなったり、自分を見失う瞬間もあるはず。僕だったら、途中でノイローゼになってしまうかも(笑)。だからこそ、それをやると決めて、続けてきたことに対しては、とてつもない尊敬を覚えます。それは亮平くんだけでなく、過去、大河の主演を務めてこられた方たちは、本当に皆さんすごいなと。ただその一言です。
-現場では、鈴木さんを中心に俳優同士で話し合い、お芝居を作っている部分もあるようですね。
それぞれ意見を持って議論ができるというのは、いい関係性を築いている証拠です。その点は、亮平くんがリーダーシップを発揮して、意識してそういう現場を作ろうとしたからこそ。僕も、亮平くんと共演したシーンでは、気になったところについてディスカッションをして変更したこともあります。
-改めて坂本龍馬を演じるお気持ちを。
坂本龍馬を演じたいと思っている人は、たくさんいます。僕自身もいろいろと幕末の歴史を学んできた中で考えると、やっぱり一番カッコいいキャラクター。そういう人物をやらせていただけるのは、ありがたいし、うれしいです。それだけに、賛否両論あるとは思いますが、変に気負わず、僕なりの坂本龍馬を演じていきたいです。
(取材・文/井上健一)