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【インタビュー】『ビジランテ』大森南朋「こういう映画はずっとあり続けてほしい」鈴木浩介「篠田麻里子さんからは母性の強さを感じました」桐谷健太「監督の中の“毒”みたいなものが映画になった」

 『22年目の告白-私が殺人犯です-』(17)の大ヒットも記憶に新しい入江悠監督が、自らのオリジナル脚本で挑んだ『ビジランテ』が12月9日から全国公開された。入江監督の地元・埼玉県深谷市でロケを行ない、父の死をきっかけに再会した一郎、二郎、三郎の三兄弟が運命に翻弄(ほんろう)されていく姿を、ハードなバイオレンス描写とともに描いた。三兄弟役でトリプル主演を務めた大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太に撮影の舞台裏を聞いた。

(C) 2017「ビジランテ」製作委員会

-すさまじい熱量にあふれた映画でした。入江監督のオリジナル脚本ということですが、最初に台本を読んだときの感想はいかがでしたか。

大森 台本には描かれていない部分が多かったので、実際に現場に行ってみないと分からない、監督の頭の中にあることがたくさんあるんだろうなと思いました。とはいえ、こういうことがやりたいんだろうなという、入江監督の世界を読み取るきっかけにはなったような気がします。

鈴木 重いな…と思いましたね。

大森 楽しめました?

鈴木 楽しんで演じられるような役柄ではなかったので…(笑)。台本を読んだときは緊張しました。大変な撮影になるんじゃないかと、目に見えない重圧を感じて。でも、一郎や三郎を見たら、南朋さんはすごく大変そうだし、健太も大変なシーンがたくさんあるし、それに比べれば、俺はまだ二郎でよかったな…と(笑)。

桐谷 二郎は二郎で大変ですよ。

鈴木 そうですね。三者三様で大変な台本だなって…。

大森 誰にもなりたくないですし。

-桐谷さんはいかがでしょうか。

桐谷 監督はどうしてこういう話を書こうと思ったのか、知りたくなりました。監督が脚本を書くと、俺はすごく信頼感が増すんです。ただ、三郎をどう演じたらいいかは全然分からなかった。でも、撮影が始まるとき、三郎の格好をして深谷に立ってあの寒い風を受けた瞬間に、何かを感じたというか…。三郎はこういう歩き方するんだろうなと思ったんですよ。それは、この深谷の空気を知っている監督が書いたからで、それを知らない俺に分からないのは当たり前だなと。

-皆さん仲が良さそうですが、劇中では一郎に対して二郎と三郎が対立する形で兄弟らしさがよく出ています。現場はどんな雰囲気だったのでしょうか。

大森 現場は和気あいあいとしていました。

桐谷 3人一緒の時はよくしゃべりました。南朋さんとも浩介くんとも面識があった上での三郎役だったので、待ち時間は2人に甘えさせてもらいました。もともと仲の悪い兄弟ではなく、千切れてしまった絆がまた戻るのかどうか…という部分もあったので、そういう仲の良さが、三郎を演じる上で役立ちました。

-入江監督とは、役について現場でどんなお話をされましたか。

鈴木 僕はほとんど話していないです。健太がコミュニケーションを取っているのを見ている感じで(笑)。やり方は人それぞれですし、やってみて感じたことでしかできないから…。もっとこういうふうにやりたいんですけど…なんて話すと、逆にハードルが高くなる気がしますし。

大森 僕も演出の話みたいなものはあまりしなかったです。「この作品終わったら、次は何入るんですか?」「『サイタマノラッパー』です」「忙しいですね」みたいな世間話ばかりで(笑)。

-現場はずっと和やかな雰囲気だったのでしょうか。

大森 はい。ハードな話ですけど、過酷なシーンの時に緊張感が漂うぐらいで、特にピリピリした現場ではなかったです。

-皆さんの熱演に加えて、二郎の妻・美希を演じた篠田麻里子さんが、女性の強さやしたたかさを感じさせて強く印象に残りました。共演した感想はいかがでしょうか。

鈴木 僕は共演が二度目ぐらいなんですけど、今回改めて気付いたのは“母性”ですね。女性のしたたかさのベースにある母性みたいなものを、篠田さんからすごく感じました。手のひらの上で転がされている二郎としては、その器の大きさの中で生きていればいいかなという、ある種の諦めや楽な体勢に甘えている部分があるんだろうなと。そういった感じが出せたのは、篠田さんが持っている母性の強さがあればこそです。

-お二人の関係はどんなふうに作っていったのでしょうか。

鈴木 撮影に入る前に唯一、篠田さんとだけリハーサルをやらせていただいたんです。その時、監督ともコミュニケーションを取りながら、どういう感じにするかというところを徐々に作っていきました。手のひらで転がされていたり、包まれていたり、突き放されたり…というあの感じは、リハーサルで構築できたような気がします。

大森 僕は直接向き合ってお芝居することはなかったですが、映画を見たらすごく存在感があったので、AKB48のイメージは越えてきたなという風格を感じました。

桐谷 監督も篠田さんのところはこだわっていました。「ここはこうで、ここはこうで…」と細かく演出していたことを覚えています。

-現在の日本映画は、暴力的な描写を避けた口当たりのいい映画が増えています。そんな状況の中で、こうしたバイオレンス満載の映画に出演することについて、どんなことを感じていますか。

大森 僕もこういう作品は好きなので、入江監督がやりたいことをやるとこういう映画になるんだと思うと、そういう人はやっぱりいてほしいです。なかなか難しい世の中ですけど、こういう映画はずっとあり続けてほしいです。

鈴木 どんなジャンルでも、相手の目を見てコミュニケーションを取っていくというお芝居は一緒です。その辺は変わりません。この映画で僕はそれほどバイオレンスには関わっていませんけど、2人が殴り合うシーンを近くで見たりすると、やっぱり緊張感が出てきますね。

桐谷 監督の中の“毒”みたいなものが映画になった作品だと思うので、エネルギーにあふれています。この映画を見終わって、攻めているなと思ったし、カッコいいなと思ったし。僕らは役者なので、キラキラした青春映画に出ることもあれば、こういうのにも出るし、いろんなすてきな作品に出たいですから。こういう映画も大好きなので、無くならないでほしいです。

(取材・文/井上健一)

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