X


「たけは、体いっぱいおとわを愛して、“おとわさま命”の人でした」梅沢昌代(たけ/梅)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

 乳母として、おとわと呼ばれた幼いころから直虎に仕えてきたたけが、高齢からくる衰えを理由に自ら井伊谷を去っていった。第24回、直虎(柴咲コウ)との別れのシーンに心打たれた視聴者も多いに違いない。そして代わりに登場したのが、たけの姪・梅である。この、たけと梅の二役を演じているのは、舞台からテレビドラマ、映画まで幅広く活躍し、今回が大河ドラマ初出演となるベテラン女優・梅沢昌代。たけの思い出からあっと驚く二役起用の裏側まで、温かな言葉で語ってくれた。

 

たけ/梅役の梅沢昌代

-たけと直虎の別れのシーンが印象的でした。

 年を取ってきちんとお仕事ができなくなり、お家の経済状態も悪いところに、役に立たない自分がいては申し訳ないと思って、里に帰ることを決心したわけです。でもやっぱり後ろ髪を引かれながら、とぼとぼ歩いて行く。そこへ、姫さまが来てくれた。泣こうと思って泣けるものではありませんが、あそこは涙が出ました。ロケ先も木漏れ日があるいい場所で、柴咲さんもとってもいいお芝居をしてくださって…。いいシーンになったと思います。

-ところが、まさか同じ回で梅として登場するとは!

 小林薫さんから、「誰がやるのかと思ったら、おまえさんじゃないか。台本を読んだ時に泣いた涙を返してくれ」と言われました(笑)。でも、そういうところが森下(佳子/脚本家)さんの面白いところだと思って。次回ではなく、その回に出してしまう。「えっ!?」となるところが、私は好きです。財前(直見)さんは、完成した作品を見て「あんなにすぐ梅になった? 本当に涙が乾かないうちに出てきちゃうのね。でもよかったわ」と言って下さいました。

-二役を演じることになった時の感想は?

 びっくりしましたよ! そんなのありなんですかって。どう見たって、同一人物ですから(笑)。番組開始当初の台本が出来上がったころは、やるかやらないか、はっきり決まっていなかったんです。冗談だと思っていたら、梅も演じることになって。たけ、梅ときたので、次は松でも出て来るんじゃないかと、スタッフは言っていますけどね(笑)。60歳を過ぎて初めて出演させていただいた大河ドラマで二役もやらせていただけて、本当に幸せです。

-これまで二役を演じたことは?

 舞台では経験がありますが、テレビや映画では初めてです。森下さんからは「(梅は)キリッとした人で」と言われていたので、マスカラをつけたり、着物も紺色にしたり、外見からキリッとした感じにしています。メークの時間は、たけの倍かかっています。区別するためにほくろを付けたりするのも、悔しいからやっていませんけど、たけの最後の方はかなり老けた感じでやっていたので、「あれ?」と思ってもらえるのではないでしょうか。梅はたけよりしゃべる場面も少なくて、直虎との関係も変わってきます。姫さまとして接してきたたけとは違って、あくまでも殿という距離感ですから。

-今までたけを演じてきて、印象に残った場面は?

 初めての大河ドラマだったので、新井美羽ちゃんが演じたおとわを追い掛けている最初のシーンですね。喜怒哀楽の激しいたけは、ずいぶん走ったり、叫んだりしていましたし。最初はそこでいなくなるのかと思っていたんですけど(笑)。柴咲さんとは、やっぱり別れのシーンです。台本を頂いた時、とてもいい場面だったので、ここは頑張らなくちゃ、という思いがありました。

-たけを演じる上で、苦労したことなどはありますか。

 楽しみたいと思っていたので、苦労はなかったです。小さい時の美羽ちゃんは本当に楽しそうで、彼女を追い掛けていればそのまま感情が出たので、あまり考えず、彼女がやったこと、言ったことに応えるという感じでした。頭をそる場面なんかも楽しそうで、お芝居をしているという顔を全然しないんです。だから、彼女からもらったものを返していたという方が大きいかもしれないです。

-たけとしてずっと寄り添って来た柴咲さんにはどんな印象をお持ちでしょうか。

 南渓さん(小林薫)から教わった「道は幾つもある」というものが、柴咲さんの中にもあるような気がします。普段から、音楽など色々なことをやっていらっしゃいますし。作品についてもすごく考えていて、「ここは良く分からない」という部分はそのままにせず、掘り下げてやってらっしゃいます。

-柴咲さんの成長を感じますか。

 そうですね。1年間、主人公を演じるのは、精神的にも肉体的にも大変なことですから、自分の中でも何かが構築されていくのではないでしょうか。私ですら、そうでしたから。たくさんの人が出入りする中で、残っている人はいろいろな人と出会えるわけですから、そこで積み上げられていくものがあると思います。私も最初は柴咲さんとの会話が少なかったんですけど、撮影が進むうちリハーサルや待ち時間での会話が増えて行き、お互いの距離が近づいていったように思います。

-直虎の母・祐椿尼役の財前直見さんと一緒の場面も多かったですね。

 財前さんは、年はずっと下ですけど、姉御肌で面倒見がよくて気配りもある方です。まるで祐椿尼さんみたいで、戦で亡くなった方の家族にお手紙を一生懸命書いている姿なんてぴったり。現場でも「ここをこうしたら面白くなるんじゃない?」なんて言っている時もあります。

-今振り返って、たけはどんな人でしたか。

 体いっぱいおとわを愛して、“おとわさま命”の人でした。大事で大事でしょうがないけど、小さい時は言うことを聞いてくれないし…。本当はお嫁に行くか、旦那さんを迎えるかして、子どもを生んでほしくて、そのお守りもしたかったのでしょう。他の人が、“殿”、“直虎さま”と呼ぶ中で、1人だけ“姫さま”と呼ぶのも、女性として幸せになってほしいという思いがあったのでしょうね。

-梅沢さんご自身は、梅とたけのどちらに近いですか?

 たけです(笑)。喜怒哀楽が激しいところが似ています。梅は、まだ演じて日が浅いので、この先どうなるのか楽しみです。

(取材・文/井上健一)

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第十八回「岐路」女にすがる男たちの姿と、その中で際立つまひろと道長の絆【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年5月11日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日に放送された第十八回「岐路」では、藤原道長(柄本佑)の兄・道兼(玉置玲央)の死と、それによって空席となった関白の座を巡る道長と藤原伊周(三浦翔平)の争いが描かれた。  妻・定子(高畑充希 … 続きを読む

【週末映画コラム】映画館の大画面で見るべき映画『猿の惑星/キングダム』/“お気楽なラブコメ”が久しぶりに復活『恋するプリテンダー』

映画2024年5月10日

『猿の惑星/キングダム』(5月10日公開)    今から300年後の地球。荒廃した世界で高い知能と言語を得た猿たちが、文明も言語も失い野生化した人類を支配していた。そんな中、若きノア(オーウェン・ティーグ)は、巨大な帝国を築く独裁 … 続きを読む

「場所と人とのリンクみたいなのものを感じながら見ると面白いと思います」今村圭佑撮影監督『青春18×2 君へと続く道』【インタビュー】

映画2024年5月9日

 18年前の台湾。高校3年生のジミー(シュー・グァンハン)はアルバイト先で4歳年上の日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会い、恋心を抱く。だが、突然アミの帰国が決まり、落ち込むジミーにアミはあることを提案する。現在。人生につまずいた3 … 続きを読む

田中泯「日本の政治に対する僕自身の憤りに通じる部分も多かった」世界配信となる初主演のポリティカル・サスペンスに意気込み「フクロウと呼ばれた男」【インタビュー】

ドラマ2024年5月9日

 あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、社会の陰に隠れて解決してきたフィクサー、“フクロウ”こと⼤神⿓太郎。彼は、⼤神家と親交の深かった次期総理候補の息⼦が謎の死を遂げたことをきっかけに、政界に潜む巨悪の正体に近づいていくが…。先 … 続きを読む

海宝直人&村井良大、戦時下の広島を舞台にした名作漫画をミュージカル化 「それでも生きていこうというエネルギーをお見せしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年5月9日

 太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々の姿を淡々と丁寧に描いた、こうの史代氏による漫画「この世界の片隅に」がミュージカル化され、5月9日から上演される。主人公の浦野すず役をWキャストで務めるのは、昆夏美と大原櫻子。すずが嫁ぐ相手の北條周作を … 続きを読む