エンターテインメント・ウェブマガジン
秀でた武芸の腕前を駆使して直虎(柴咲コウ)を支える井伊家家臣・中野直之。当初は女性の直虎が当主となることに強く反発したものの、今では信頼関係も芽生え、最も近い家臣として付き従っている。武芸に精通する反面、怒りっぽい一面もある直之を、表情豊かに演じるのは、『ちはやふる -上の句-/-下の句-』(16)をはじめ、多くの作品で活躍する若手俳優の矢本悠馬だ。演技に対する思いや撮影の舞台裏について聞いた。
撮影が始まって4カ月ぐらいたちますが、緊張しっ放しです。キャストやスタッフの皆さんと仲良くなりましたが、ずっと緊張していて、リラックスできるシーンは一つもありません。「本番!」の声が掛かると、いまだにせりふを忘れそうになるほどです。
同世代の俳優が集まった朝ドラの時と違って、大河の現場は第一線で活躍してきた先輩しかいません。いろいろ教えてもらえて有り難いのですが、もらってばかりなのがプレッシャーです。きちんと演技でお返ししなければというストレスがありますが、それぐらいのストレスがあった方が人生は楽しいですよね。だから、ものすごく楽しくて、現場では僕が一番笑っていると思います(笑)。
非常に真面目で、根っからの武士です。武士は、僕にとってはファンタジーみたいなもので、想像上の存在でしかありません。だから、演じるに当たって、“いきなり怒ってほしい”と指示された時は自分の中で整理がつかず悩みました。しかし、僕みたいなゆとり世代とは真逆だと考えたら、直之という人物が理解できました。つまり、父親や育った場所で教えられたものがすべてだと信じて、それを信念として規律を守って生きている人たち。そう考えて、怒っているせりふは直之という人間が、“これは絶対に正しい”と信じているものなんだと思ったら、演じやすくなりました。それでようやく、台本と自分と直之の三つが一つになりました。
見ている方に「毎回、同じ怒り方をしている」と思われるのは、役者としては不本意なので、どうやって怒るかということはかなり考えています。大きい声を出すばかりではなく、静かに怒ったり、間を取って怒ったり、スッと怒ったり…。こうした方が、柴咲さんの次のせりふに影響が出るんじゃないかということも考えながら…。柴咲さんからは「本当に腹が立った」と言われたこともありますが、僕としては「やった!」という感じです(笑)。柴咲さんだけでなく、他の人にもその矢は向かいますが、相手が違うと湧いてくる感情も変わってくるので、お芝居の奥深さを実感しています。
殺陣は初めてですが、大河であんなカッコいいシーンをやらせてもらえて有り難いです。難しかったですが、以前から剣を使う場面はあったので、第15回は割と抵抗なく演じることができました。ワクワクする気持ちもあって精神的にもかなりいい状態で、1週間ぐらい前からイメージトレーニングを重ね、前日には「ここはこうしよう」みたいなことをずっと考えていました。ところが当日になって、急に殺陣の内容が練習していたものと変わってしまい、かなり焦って頭の中が真っ白になりました。1回目の撮影ではせりふを完全に忘れてしまったほどでした。でも、そうは見えなかったらしく、財前(直見)さんがすごく褒めてくださいました(笑)。
それほど意識して演じているわけではありませんが、時々、僕自身も筧さんに雰囲気が似てきたと感じることがあります。例えば、直之の感情が変化する場面で、僕自身の気持ちがなかなか追いつかない場合があります。そんな時、井伊家を愛し、笑顔でいろいろな人と仲良く接していた直由の血が直之にも流れていると考えると、スッと入っていけるんです。似ていると感じるのは、そういう時ですね。筧さんがどう思われるかは心配ですけど(笑)。
最初は「僕との芝居はやりづらくないかな」と心配していましたが、最近は台本を読んだ瞬間に「こうくるだろうな」と、なんとなく反応が予想できる安心感が生まれてきました。それは、柴咲さんだけではなく、ずっと一緒にいる井伊家のメンバー全員に言えます。台本を読んでいても、現場に来ても、井伊家の場面は落ち着きますし、お芝居がやりやすいです。僕と柴咲さんが仲良くなってきた様子が、殿と直之の関係にも表れていると思うので、いい感じになっています。最近、井伊家のメンバーは家族みたいですよ。みんなで食事に行った時も、現場そのままみたいな関係で。財前さんがお母さん、たけさん(梅沢昌代)がおばあちゃん、殿はお姉さん、(高橋)一生さんはお兄さん…僕はいじられ役でした(笑)。
いろいろなものを受け入れていく姿勢のある直虎は、堅物な直之とは真逆の存在です。僕が初めて直虎をすごいと思ったのは第15回(4月16日放送)。今川の刺客に襲われていた直虎を助けに駆けつけた場面で、「来てくれたのか、直之」と言うんです。それまで散々けんかしていた相手に、こう言える姿勢。僕だったら、嫌いな相手が助けに来たら、「助けてほしくないんだよ」と言ってしまうに違いありません。だからその時「この人は、殿の器だな」と感じました。それに加えて、こっちが何か言えば遠慮なく言い返してくれるところが信用できます。最初のころは心配な部分もありましたが、今は殿と一緒にいて不安は全くありません。本気でリスペクトしています。
(取材・文/井上健一)
ドラマ2025年4月1日
3月31日から放送スタートしたNHKの連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルに、何者でもなかった朝田のぶと柳井嵩(北村匠海)の2人が、数々の荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『 … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年4月1日
坂本昌行と増田貴久をはじめとした豪華キャストが出演するミュージカル「ホリデイ・イン」が4月1日から開幕する。本作は、1942年に公開された映画『Holiday Inn』(邦題『スウィング・ホテル』)をもとに舞台化されたミュージカル作品。「 … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年3月29日
2024年5月にスタートした、吉田鋼太郎が芸術監督を務める【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】。待望の二作目となる「マクベス」が、藤原竜也を主演に迎え、5月8日から上演される。藤原に初めて挑む「マクベス」への思いや吉田とのクリエイトに … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年3月28日
「週刊少年ジャンプ」で2020年5月まで連載していた吾峠呼世晴による大ヒット漫画『鬼滅の刃』。2020年に初めて舞台化されて以降、シリーズを重ね、4月11日からはシリーズ5作目となる、舞台「鬼滅の刃」其ノ伍 襲撃 刀鍛冶の里が上演される。 … 続きを読む
映画2025年3月28日
『BETTER MAN/ベター・マン』(3月28日公開) イギリス北部の街に生まれ、祖母の大きな愛に包まれながら育ったロビー・ウィリアムズ。1990年代初頭にボーイズグループ「テイク・ザット」のメンバーとしてデビューし、ポップスターの道を … 続きを読む