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父・義元(春風亭昇太)の死後、祖母・寿桂尼(浅丘ルリ子)と共に今川家を守った氏真。しかし、一大勢力を築いた戦国大名・今川家を滅亡に導いた張本人として、歴史的な評価は厳しいものが多い。ドラマ本編でも、寿桂尼に頭が上がらず、義元の死を知って激しくうろたえるなど、およそ名君とは呼び難い場面が続く。だが、演じる尾上松也はそんな氏真の生き方を「戦国時代としては先進的」と評価する。その真意、役に込めた思いを、熱っぽく語ってくれた。
大河ドラマへの出演は4回目になりますが、大人の役者として、こんな大役を頂いて長期間出演させていただくのは今回が初めてです。僕の中では、子どものころに初めて出演させていただいた「八代将軍 吉宗」(95)の思い出が強く残っていて、NHKのスタジオに来ると、祖父母の家に来たような懐かしさを感じてリラックスできるので、とてもやりやすいです。今回の出演が決まった時も、「またあのスタジオで仕事ができるんだ」とうれしかったです。
氏真という人は、文化的なことには長けていたものの、軍事面での才能には乏しかったと言われています。しかし、僕なりに勉強して分かったのは、それは氏真自身が望んだことではなかったということです。そこには、父・義元の教育方針が大きく影響しています。自分と参謀である太原雪斎の関係を、氏真と竹千代(後の徳川家康)にも当てはめていた義元は、自分を名武将に育て上げた雪斎の教育を竹千代に受けさせ、氏真は自由奔放にと考えたようです。ですから、氏真には武将としての素養を磨く機会がなかったんです。
あの時、氏真が受けた衝撃は、天と地がひっくり返るほどだったに違いありません。当時の今川にとって、桶狭間は勢力拡大の単なる通過点に過ぎませんでした。氏真自身も「父上、行ってらっしゃい」くらいの感覚でいたことでしょう。それが、予期せぬ事態に遭遇して、突然、自分が後を継ぐことになった。頭が真っ白になったはずです。彼は、そのための教育を受けずに育ってきましたから。これから何が押し寄せて来るのか分からない恐怖。さらに、代わりに自分が戦場に赴くのかもしれないという恐怖。恐らく彼の中で、そういった恐怖の連鎖が起きていたと思うんです。ある意味、よくおかしくならなかったなというタフさを感じるほどです。
そうなんです。今川家が滅亡したというのは、戦国武将としての今川家が潰れたということであって、今川の名前は明治まで残りますから。晩年は、家康とも仲良く過ごしていたようですし。これがもし、氏真が軍略に優れていて、血眼になって父親のあだ討ちを仕掛けていたら、きっと家康や織田信長に殺されていたに違いありません。ですから、今川家が明治まで残ったのは、氏真だったからこそとも言えます。
誰もが天下統一を目指し、味方や親が殺されたらあだ討ちをするのが当然という戦国時代で、野心を抱かず、争いごとも好まない生き方というのは非常に先進的で、現代にも通じる考えの持ち主だったのではないでしょうか。今川家の歴史を語る時、どうしても、桶狭間で義元が亡くなって今川家は滅亡、で片付けられがちです。ですが、当時は“愚将”と評価された氏真の苦悩や考え方、生き方というのは、現代の人たちにこそ響くものがあるのではないかという気がしています。その辺りを模索しながら演じています。
前半と後半で、寿桂尼に対する氏真の考えはだいぶ変わって来ます。前半は、父親を失って右も左も分からない中で寿桂尼の存在は支えになります。しかし、ある程度の年月を重ねて、自分がやらなければという自覚を持った時、寿桂尼の指示の的確さや鋭さには及ばないという事実が、嫉妬めいた感情に変わっていきます。頼りになる一方で重荷でもあるという、とても複雑な感情です。その辺りの変化もこれから出てくるので、楽しみにしていただきたいです。
「おばば様」とお呼びするのが申し訳ないぐらいお美しくてお若い方です。僕は今回、初めて共演させていただきましたが、役と違って普段は本当に気さくな方で、スタッフの皆さんにも気配りをされています。去年の12月には僕の芝居も見にきてくださいました。ですが、お芝居をする時は、本当に目つきが変わります。前半の氏真は、おばば様に頼るしかないという状況で、おばば様もそれはよく分かっている。そこから生まれる危機感や緊迫感が全身から湧き出ていて、ご一緒しながら、おのずとこちらも緊張してしまうところがありました。
大河ドラマは、基本的に実在の人物を演じる分、その人物の歴史を自分の中にしっかり落とし込んでおくことが大事だと思います。きちんと生きていた証があるということを意識しなければいけないという点が、他の時代劇とは違います。もちろん、他にも史実を描いた作品はありますが、大河ドラマは期間が長い分、それをより意識する責務があるような気がします。
僕にとっては日常的なことなので、自分ではあまり意識していませんが、確かに着物のさばき方で苦労したことはありません。先日、リハーサルで僕が書状をパッと開いて読む場面を演じたところ、それを見ていたムロツヨシさんが、「すごくきれいだった!」と喜んでくださったことがあります。僕としては、今までのお芝居で慣れたことなので、何げなくやっただけなのですが、ムロさんはそれがうまくできなくて苦労していたそうです。でも、そう言われると逆に意識してしまい、その後のリハーサルでは失敗してしまいました(笑)。
(取材・文/井上健一)
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