二人の妹と母を守って奮闘する小橋常子(高畑充希)を描く連続テレビ小説「とと姉ちゃん」。6月3日から子役の根岸姫奈に代わって、小橋家の三女・美子を演じているのが杉咲花だ。当初は途中からの参加に戸惑いもあったという。撮影前の心境と合わせ、次女・鞠子を演じる相楽樹と共に、役作りへのこだわりや、避けては通れない、戦中、戦後の撮影エピソードを語った。
-杉咲さんは出来上がったチームに途中から入る感じでしたが、現場の様子はいかがでしたか。
相楽 最初のころから、私ととと姉と美子の三人で連絡先は交換していたので、連絡を取り合ったり、一緒にご飯を食べに行ったりはしていました。撮影前から花ちゃんにはスタジオに遊びに来てもらったりもして、少しずつ関係を築いていきました。
杉咲 私は途中からということで、ちゃんと家族に見えるかなという不安もありましたし、最初はやはり緊張しました(笑)。でも、連絡先を交換していたこともあって、とと姉が現場でも盛んに話し掛けてくれて、そういうこと(準備)をやっていたのと、いないのとでは全然違うなと思いました。
-今回演じている三姉妹は、どんな三姉妹だと思いますか。また、役作りで気に掛けた点はありますか。
相楽 私が演じる鞠子は真ん中。とと姉は猪突猛進にガーッといく感じで、美子は美子で思った感情をすぐに口に出しちゃう子。鞠子はその真ん中で、姉でも妹でもあるので、その二人の関係をうまく取り持てるのは鞠子しかいないと思って、互いに対する接し方みたいなことはいつも気に掛けていました。
杉咲 美子をどう演じようかというよりは、みんなで“ちゃんと家族でいられたらな”という思いが一番にありました。だいぶ撮影も進んできているので、今では頭で考えなくても“家族”という感じがするのですが、最初のころに「敬語をやめてもいいですか」と二人に尋ねました。そうしたら何か変わるかもしれないと思って…。やっぱり敬語をやめたら違いました。
-それぞれの役柄に対して、自分と似ているなと思う部分、共感する部分はありますか。
相楽 私は三きょうだいの長女なので、最初は「自分は常子っぽいかな」と思っていたのですが、演じてみると意外と自分は鞠子の方が近かったかなと思います。「きょうだいのために何かしよう」と思うのは私も一緒ですが、鞠子は常子ほど先を考えずに突っ走ることはないし意外とクール。(叔父さん役の向井理演じる)鉄郎さんに向ける鞠子の冷たい目が、お父さんがおやじギャグを言った時に見せる私の目と同じでした(笑)。
杉咲 美子は食べるのが好きですが、私も好きです。あと、美子は縫い物や編み物など細かい作業をやるシーンが多いです。普段の私はあそこまではしませんが、縫い物の練習はすごく楽しみながらやりました。
-朝ドラ出演は、相楽さんは「ゲゲゲの女房」に続く2作目。杉咲さんは初出演です。朝ドラというと女優さんの登竜門的な位置づけですが、憧れみたいなものはありましたか。
相楽 ありました。朝ドラって有名でも無名でも、みんなが一つの役に向かってオーディションを受けますし、一つのチャンスとしてもとても大きいものだと思います。「ゲゲゲの女房」にツーシーンぐらい出していただいたあたりから、朝ドラを意識していて、いずれはガッツリ出たいなと思っていたので、今回、実現して良かったです(笑)。
杉咲 自分自身というよりは家族や事務所の方がすごく喜んでくれて、そこで朝ドラの影響力の強さというのを実感しました。個人的には「朝ドラに出たい」というよりは、たくさんの作品に携わりたいという思いが強かったです。たくさんの人が楽しみに待ってくれている朝ドラの現場に携われるのはやはりうれしいです。
-朝ドラの現場で、先輩俳優の姿から学ぶことはありますか。
杉咲 最近、(花山伊佐次役の)唐沢(寿明)さんが出演され始めたのですが、今までの現場とはガラッと雰囲気が変わりました。唐沢さんが、毎回、役に対して違うアプローチの仕方をされていて、アドリブがすごいんです。私たちはもう笑うのをこらえるのに必死で…(笑)。楽しみながら演じられている姿が、私にはとても衝撃的だったというか、こういう現場との関わり方、役の作り方があるんだと思いました。
-唐沢さんは、テークごとに違うアプローチをされるということですか。
杉咲 テストやリハーサルを繰り返すのですが、毎回違うことをされています(笑)。
相楽 「俺は自爆した…」「樹、こういうのはまねするなよ」って言われました(笑)。
-ドラマでは戦中、戦後のエピソードも出てきます。これまで描かれた明るい雰囲気から一転しての撮影で感じられることはありますか。
相楽 戦時中の撮影は、食事も“すいとん”だけという感じになって、「森田屋」さんの時のような豊かな食事からは一変します。みんな空腹だし、眠れないし、家も明かりを暗くしなければならない。食事と部屋がそうなるだけで気分もどんどん下がってしまいます。
杉咲 鞠姉の言うように、やっぱり戦時中の撮影は本当に演じていて苦しかったです。いつ空襲警報が出るのか 分からないし、寝ている時に慌てて起きて、防空壕に入って…というのを繰り返して、誕生日もお祝いどころではない。演じていると気分が沈みました。
-でもそんな中でもたくましく生きていく小橋家の姿があるわけですね。
相楽 はい。やっぱりそういう大変な時期だからこそ、かか(木村多江)がお花を生けたり、美子が飾りをつけたりと、ずっと「とと姉ちゃん」の中で大切にしてきた、ささやかな幸せを大切にし、少しでも明るく乗り越えていこうとする小橋家の姿が描かれています。また、戦後のシーンになると、戦中の苦しみを乗り越えた分、鞠子も美子もとても強くなったなと感じます。小橋家は、全員女性ですが、戦争を切り抜けてきた女性のたくましさというのが、戦後の“雑誌を出す”ということにつながっていくのだと思います。
杉咲 戦争の話が終わると、闇市のシーンが出てきます。闇市は、お金を盗もうとする人がいたりして、なかなか苦しい場所ではあるんですが、とにかく戦争から生き延びた人たちの集まりでもあるので、ある意味、エネルギーが満ちあふれているんです。そこで私たちも、生きていることを実感して再生しようとします。小橋家の女性たちの強さ、たくましさを感じてほしいと思います。