脚本・監督タナダユキ、大島優子主演の映画『ロマンス』が8月29日から全国公開される。箱根の景勝地を舞台に、ロマンスカーのアテンダントの北條鉢子(大島)と映画プロデューサーの桜庭(大倉孝二)とのたった1日の出会いと別れを描く本作は、大島にとってはAKB48卒業後、初の主演映画。本作が7年ぶりのオリジナル作品となったタナダ監督が、母親への複雑な思いを抱く鉢子を演じた大島や、本作に込めた思いについて語る。
-本作は、大島優子、箱根、ロマンスカー、というとてもユニークな設定が目を引きますが、映画化の経緯を教えてください。
大島さんがAKB48からの卒業を発表した直後に、本作のプロデューサーから「大島優子さんで何か撮りませんか」というお話を頂きました。でも、きっといろんなオファーが来るだろうから企画が通るわけがないと思い、話半分で聞いていたんです(笑)。ところが、どうやら本当に動き出しそうだ、となって驚きました。
私はもともと大島さんのファンでしたが、『ふがいない僕は空を見た』(12)で脚本を書いていただいた向井康介さんも彼女のファンだったので、黙っていたら怒られると思って相談したら、「こんな話はどう?」と骨組みを書いてくださったので、それを基に私が脚本を書きました。全ては大島優子さんありきで始まった映画です。
-映画監督として大島さんのどんな点に注目していたのですか。
これは私が勝手に抱いていたイメージなのですが、AKB48時代の大島さんをテレビで見ていた時に「小さいころに見たお姉さんみたいだ」と思ったんです。全てを了解した上で引き受けて、やっているような、すごく大人の感じがしていました。もちろん彼女は明るくてかわいいところが前面に出ていますが、どこか影を感じる部分もあって、ドラマを感じさせる人だと思い、ずっと気になっていました。でも、まさか国民的アイドルだった彼女を主演にした映画が撮れるとは思っていませんでしたけど(笑)。
-映画化が決まった後、彼女をどんなふうに撮ろうと考えましたか。
大島さんが自分の意志でAKB48を卒業した後だったので、作る側としては「大島優子は女優なんだ」ということを前提に、彼女のお芝居をきちんと見せられる作品にしたいと思いました。それに、最初からかわいいだけの彼女を撮るつもりはなかったので、AKB48時代からのファンの方も、今の女優としての彼女に興味がある方も「ああ、大島優子ってこんな表情をするんだ」と感じてもらえるようなお芝居を撮ろう、と。大島さんには「ぎりぎりのブサイクな顔でお願いします」と言ったこともありました(笑)。
-ただの観光映画とは違う、冬枯れの箱根の風景が印象的でした。
もともとは晴れの設定だったので、こんなに雨に降られるとは思っていませんでした(笑)。でも、結果的には鉢子と桜庭の心情に合っているのではないかと思っています。
-この映画は鉢子と桜庭の1日だけの旅を描いていますが、実は鉢子とお母さんの関係がメーンテーマですね。
昔に比べると、最近は母親との関係について思い悩んでいる人の声が届くようになってきたと思います。それを映画に入れたいと思いました。そしてこの映画では、母親に対する思いが揺れ動く主人公を描きたいと考えました。最後は鉢子の笑顔で終わりますが、実は彼女が抱える問題は何も解決してはいません。ただ、彼女の心の持ちようが前向きなものに変わっただけなんです。
-最後に監督がこの映画に込めた思いを。そして観客や読者に向けての一言をお願いします。
誰かと出会うということは、やがて必ず別れが来るということ。長く生きれば後悔ばかりが募る。そんな今の自分の思いがあってこの映画が生まれました。ただ、今までの私の映画とは少し違って、肩の力を抜いて見ていただけるものにしたいと思いました。鉢子と桜庭の珍道中を楽しんでください。そして映画は公開されたら観客のものだと思っていますので、自由に感じていただけるとうれしいです。
(取材/文・田中雄二)
『ロマンス』
8/29(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開