エンターテインメント・ウェブマガジン
同じ戦国時代を舞台にした昨年の「真田丸」では、“ナレ死”が話題になった。次々と物語から姿を消していく武将たちのその後を、ナレーションで締めくくるやり方だ。今川家滅亡後の氏真の生きざまなどは、まさにこの“ナレ死”に相当する部分だ。
だがこの作品では、北条、徳川と渡り歩き、信長の前で蹴鞠(けまり)を披露する氏真の姿を丁寧に描いて見せる。そして話を戻せば、直虎も氏真と同じく戦国の敗者である。つまり本作は、“ナレ死”の“ナレ”の部分にスポットを当てたドラマと見ることもできる。
戦いに敗れた者が死を選ばず、いかにその後を生き抜くことで、志を後世につないでいったか。
これこそが、本作の描こうとしたものではないか。そしてそれは、決して400年以上前の出来事ではなく、今を生きる私たちにも通じる物語だ。命を落とすかどうかの違いはあっても、生きる上でさまざまな困難に直面し、時に勝負に敗れるのは現代も変わりない。だがそんな時、敗者でありながら過酷な時代を生き抜いた直虎や氏真の姿を思い出すことで、勇気づけられる人もいるはずだ。
残り2回、戦国の敗者たちのたくましい生きざまを描いた物語が、どのような結末を迎えるのか。それを見届けた私たちこそが、彼らの思いを受け継ぐことになるに違いない。(井上健一)