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「これまで頼朝さまを支えてきたように、これからは私を支えてください。お願い」
こう語った亡き源頼朝(大泉洋)の妻・政子(小池栄子)は、懐から何かを取り出すと、弟の義時(小栗旬)の手に握らせる。
義時が手を開くと、そこにあるのは小さな観音像。「姉上…」とつぶやいた義時は、「鎌倉を見捨てないで。頼朝さまを。頼家を」という政子の言葉に促されるように、観音像を握りしめると、決意のまなざしで政子を見つめる。
NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。7月3日に放送された第26回「悲しむ前に」のラストで繰り広げられた主人公・北条義時と姉・政子との息詰まるやり取りだ。
主君・頼朝の葬儀と2代目鎌倉殿・源頼家(金子大地)への代替わりを無事に済ませ、故郷・伊豆に帰って静かに暮らしたいと申し出る義時と、それを翻意させようとする政子。
ここで政子が手渡した観音像がその決定打になったわけで、無言で決意を固める義時を演じた小栗の表情には、その複雑な思いがにじんでいた。だがこのとき、観音像に込められていた思いとは何なのか。これまでのやり取りから、それを探ってみたい。
まずこの観音像は、この回の冒頭、昏睡状態に陥った頼朝のもとどりの中から出てきたものだ。それを受け取ったということは、義時が頼朝の意志を継いだといえる。
この観音像が初めて登場したのは第5回「兄との約束」だ。“打倒平家”を旗印に挙兵した頼朝は、石橋山の戦いで大敗。義時ら、わずか数名の味方と共に辛うじて逃げ延びた洞窟の中で、もとどりの中から観音像を取り出すと、「3歳の頃から肌身離さずおる。わしの首が敵の手に渡ったとき、もとどりからこれが出てくれば、皆、あざ笑うであろう。ここに置いておく」と語り、かたわらの岩の上に置く。
それを見た土肥実平(阿南健治)が、思わず「かわいい観音様でございますなあ」と声を上げる。
また、その由来については、第24回、鎌倉殿の座を狙っていると頼朝から疑われた弟の範頼(迫田孝也)の救済嘆願に訪れた頼朝の乳母・比企尼(草笛光子)が、こう語っている。
「お立場は、人間を変えますね。優しい子でした。私が差し上げたかわいらしい観音様をあなたは、ご自分の髪の中にしまわれて。『尼の思いは、片時も忘れません』と。あのときのあなたは、どこへ行ってしまわれた?」
このとき、頼朝は「観音様は捨て申した。挙兵のとき、源氏の棟梁として、甘く見られてはならないと。こうやって、私は命をつないできたのです!」と答えたが、それがうそだったことが第26回で明らかになったわけだ。
つまり、この観音像は、頼朝がもともと持っていた優しさの象徴であり、うそをついたということは、その優しさを押し殺して生きてきたことになる。これまで何度も非情な決断を下してきた頼朝だが、ここから「他人を信用できない孤独な人物」というだけでなく、より複雑で奥行きのある人物像が浮かび上がってくる。