【コラム】『ベルファスト』だけじゃない! 人気スター出演の名作、力作が勢ぞろい。映画が描いた北アイルランド紛争

2022年3月23日 / 16:18

 3月28日(日本時間)に授賞式が行われる米国のアカデミー賞で、作品賞など7部門にノミネートされた注目作『ベルファスト』が3月25日から公開される。1960年代末、紛争が勃発した北アイルランドの都市ベルファストを舞台に、1人の少年と家族の日常をモノクロの映像美の中につづった作品だ。

 製作・監督・脚本を務めたケネス・ブラナーの自伝的要素を含み、故郷への思いとノスタルジーにあふれた温かな物語となっている。

『ベルファスト』(C)2021 Focus Features, LLC.

 この物語の背景にあるのが、「北アイルランド紛争」だ。くしくも、北アイルランド紛争を扱った映画は、『ベルファスト』のほかにも高評価を得たスターの出演作や、巨匠の名作、力作がそろっている。ここでは、その一部を紹介したい。

 まず簡単に、北アイルランド紛争について説明しておきたい。イギリスの西に位置するアイルランド島は、イギリス(正式名称:グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)領の北アイルランドと、南部の独立国アイルランドに分かれている。

 このうち、北アイルランドの領有を巡って、南北アイルランドの統一を目指す一派(ナショナリスト)と英国残留派(ユニオニスト)の間で繰り広げられた争いが、「北アイルランド紛争」だ(現在は和平が成立)。

 『ベルファスト』では、英国からの移民で多数派を占めるプロテスタントが、アイルランドの土着民にルーツを持つ少数派のカトリックを攻撃する形で紛争に火がつくが、これが次第に英国残留派と南北統一派の対立に重なり、激化していく。(プロテスタント、カトリックともにキリスト教の宗派。逆に、南部のアイルランドではカトリックが多数派)。

 この紛争のそもそもの発端となったアイルランド独立戦争を描いた映画が、『マイケル・コリンズ』(96)だ。主演は『スター・ウォーズ』シリーズのクワイ・ガン・ジン役などで知られる北アイルランド出身のリーアム・ニーソン。

 独立戦争を経た1921年、アイルランドは英国からの独立を果たすが、このとき、プロテスタントが多数派を占める北部6州が「北アイルランド」として英国領に残り、南部と分断されるまでの経緯が描かれている。これが、後の北アイルランド紛争の火種となった。

 この作品でアイルランド独立の英雄マイケル・コリンズを演じたニーソンは、ベネチア国際映画祭で男優賞を受賞。作品自体も最高賞となる金獅子賞に輝いた。アラン・リックマン、ジュリア・ロバーツも共演した大作だ。

 ちなみに、同じ独立戦争を背景にした作品には、『インセプション』(10)、『ダンケルク』(17)などクリストファー・ノーラン作品の常連キリアン・マーフィ主演の『麦の穂をゆらす風』(06/カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞)、巨匠デビッド・リーンが、アイルランドの雄大な自然をバックに、英国将校とアイルランド人女性の悲恋を描いた大作『ライアンの娘』(70/アカデミー賞撮影賞など2部門受賞)などもある。

 一方、紛争激化の転機として今も語り継がれる1972年の「血の日曜日事件」を描いた『ブラディ・サンデー』(02)は、後に『ボーン・スプレマシー』(04)などの『ボーン』シリーズを手掛けるポール・グリーングラス監督の出世作。ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した本作で注目を集め、ハリウッドに進出した。

 北アイルランドで南北統一を求めるデモに参加していた住民に英国の軍隊が発砲した事件の映画化で、臨場感あふれるドキュメンタリータッチの演出は、後の『ユナイテッド93』(06)や『キャプテン・フィリップス』(13)に受け継がれている。

 
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