【コラム 2016年注目の俳優たち】 第31回「望みを捨てぬ者だけに、道は開ける」 総括「真田丸」

2016年12月20日 / 15:06
昌幸(草刈正雄)が息子たち(大泉洋、堺雅人)に真田の心を伝える名場面

昌幸(草刈正雄)が息子たち(大泉洋、堺雅人)に真田の心を伝える名場面

 ついに「真田丸」が完結した。最終回は、徳川家康(内野聖陽)の首を狙う真田幸村(堺雅人)の奮闘から、矢沢三十郎(迫田孝也)との別れ、佐助(藤井隆)の年齢が判明するサプライズまで、盛りだくさんの内容で、拡大版にもかかわらず、あっという間の55分だった。終了直後から「真田丸ロス」なる言葉も生まれ、ネット上には別れを惜しむ声があふれている。

 「真田丸」がこれほどの人気を得た要因の一つに、三谷幸喜の見事な脚本に応えた俳優たちの熱演があることは言うまでもない。

 例えば、本コラム第14回でも触れたように、真田信幸(大泉洋)の正妻から侍女となったこうは、途中で退場する可能性もあった。それが真田家の嫡男・信吉(広田亮平)の母にまでなったのは、ひとえに長野里美の好演があればこそ。

 三谷も当サイトのインタビューで、「僕の中で、役者さんによって一番成長した役は、おこうさんと本多正信(近藤正臣)です」と語っている。長野がいなければ、最終回で描かれた信吉と弟・信政(大山真志)のエピソードは、全く違うものになっていただろう。

 また、印象的な場面の幾つかが、脚本にはないアドリブだったことも出演者たちの口から明かされている。その際たるものは、第49回「前夜」ラストの幸村ときり(長澤まさみ)のキスシーン。これは、堺が提案し、長澤が「しゃべりながら」というアイデアを加えたもので、見る者の胸を打つ名場面となった。

 この他、第48回「引鉄」には、大蔵卿局(峯村リエ)が一緒に食事をする息子の大野治長(今井朋彦)に「タコ」と一言言い、タコの煮物を口元に運ばせる場面がある。ほんのわずかではあるが、2人の親子らしさが伝わるほほ笑ましい一幕だった。だがこのせりふも脚本にはなかったことを、峯村が「スタジオパークからこんにちは」出演時に明かしている。

 物語を盛り上げ、名場面を生んだ俳優と脚本家の鮮やかなコラボレーション。その根本にあるものは、真田昌幸を演じた草刈正雄の次の言葉に集約されているように思う。

 「僕ら役者は三谷さんに愛されているという感じがします」(当サイトのインタビューより)

 三谷が作品と俳優たちへの愛情を脚本に注ぎ込み、俳優たちがそれに応える。その幸福な出会いから生まれたのが「真田丸」だったのだ。もちろん、多くのスタッフがそれを支え、視聴者の応援もその後押しとなったに違いない。

 本コラムでは、これまで30人近い「真田丸」出演者を取り上げてきたが、残念ながら紹介できなかった俳優も多い。

 「黙れ、小童!」の名せりふを生んだ室賀正武役の西村雅彦、信繁(幸村)を見守り続けた上杉景勝と直江兼続主従を演じた遠藤憲一と村上新悟、そして高梨内記役の中原丈雄、真田信尹役の栗原英雄、堀田作兵衛役の藤本隆宏ら真田家臣団…。その他、全ての出演者が視聴者を魅了した1年だった。

 そして物語が完結した今、別れを惜しむわれわれ視聴者はどうしたらいいのか。ひとまず、12月30日(金)放送の総集編で1年を振り返るとして、問題はその後だ。今のところ、スピンオフ制作の予定はないという。

 だが「真田丸」には、第1回「船出」の昌幸から最終回の茶々(竹内結子)まで、何度も繰り返されてきた言葉がある。

 「望みを捨てぬ者だけに、道は開ける」

 幸い、クランクアップ後のインタビューからは、主演の堺自身もスピンオフに乗り気な様子が伝わってくる。勝利を信じて大坂の陣を戦い抜いた幸村のように、望みを捨てず、思いを伝え続ければ、道は開けるに違いない。

 「ではおのおの、ぬかりなく」

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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