「この映画はトム・ハンクスにとっての『生きる』になったのではないかと思います」 『オットーという男』マーク・フォースター監督【インタビュー】

2023年3月9日 / 08:00

 いつもご機嫌斜めで、隣人からも疎まれているオットー(トム・ハンクス)は、人知れず孤独を抱え、自ら命を絶つことを考えていた。ところが、向かいの家に越してきた陽気なマリソル(マリアナ・トレビーニョ)とその家族が、なにかと邪魔をして、なかなか死ぬことができない。だが、そのマリソル一家が、オットーの人生を変えてくことになる。スウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』(15)をマーク・フォースター監督がリメークした『オットーという男』が3月10日から全国公開される。フォースター監督に主演のハンクスのこと、映画に込めた思いなどを聞いた。

マーク・フォースター監督(左)とトム・ハンクス

-監督の前作『プーと大人になった僕』(18)も、この映画も、人生のやり直しや再生がテーマでした。このテーマに対するこだわりや、なぜこのテーマに引かれるのかを教えてください。

 僕自身、人間というものを信じています。楽観主義的というか、人類に対して希望を持っています。なので、そういうテーマにインスピレーションを感じます。僕は常にポジティブでありたいし、トンネルの先には必ず光があると思っているタイプなので、そういう物語に引かれるのだと思います。今回、すてきだと思ったのは、オットーの周りにいるキャラクターが、皆それぞれ違うバックグラウンドを持っていることでした。その人たちが一つになることで、オットーが改めて生きる理由を見つけていく。そこにとても引かれました。

-今回、監督のオファーを受けたときに、自分の中のどんな部分がこの映画に生かせると考えましたか。

 僕が最初にこの話と出会ったのは小説を読んだときでした。それで映画になっていることを知り、その映画(『幸せなひとりぼっち』)を見てみました。それで興味を持って脚本家やプロデューサーに連絡してみると、トム・ハンクスも興味を持っているという話になって、みんなで集まって企画が動き始めました。今でこそトムは名優中の名優ですが、80年代は『スプラッシュ』(84)や『ビッグ』(88)といったコメディー映画で活躍していました。その後、シリアスなものが続きましたが、この話なら、ユーモアのある面白いトムという部分も出せるし、ドラマの部分も描ける。陰と陽、光と闇の両方が出せるのではないか思いました。自分なら、その両方のトーンが撮れると思いました。

-実際にトム・ハンクスと仕事をしてみて、いかがでしたか。

 もちろん、トムはハリウッドでも指折りの人柄の良さで知られていますが、まさにそういう人でした。この作品の企画から撮影まで、長期間、共に過ごして思ったのは、トムの仕事に対する姿勢の素晴らしさでした。例えば、撮影現場には朝はもちろん定刻通りに来て、トレーラーに戻ることは一切ありません。ずっと現場にいて、準備ができたら、そのシーンを撮るという感じでした。結果的に、朝から夕方までずっと現場にいるんです。僕はそんな俳優は今まで見たことがありませんでした。しかもトムは40年以上もスターであり続けている人なんです。それなのに、仕事に対する情熱が、最初の頃と全く変わっていないんです。まるで小さな子どものように、演技をすること、映画を作ることを愛しているんです。そういう俳優と初めて出会いました。

-トム・ハンクスとマリアナ・トレビーニョとのシーンで、特に印象に残っているものはありますか。

 トムは、最も偉大な俳優の一人だと思います。マリアナはメキシコで目覚ましい活躍をしていますが、僕にとっては新たな発見でした。2人は、とてもいい相性を持っていると思います。僕は、マリアナが演じたマリソルが、絶対に諦めないところが大好きです。それはオットーが心を開くまでノックし続けているように思えました。彼女の存在があったからこそ、オットーは改めて生きる理由を見つけることができたのです。そこがとても美しいと思いました。

-オットーの若き日を、トム・ハンクスの息子のトルーマンが演じていましたが、撮影の様子はいかがでしたか。トムは息子の演技について何かコメントしていましたか。

 トムはトルーマンの演技に関しては何も言っていませんでした。僕は、トルーマンは80年代のトムにすごく似ていると思ったので、出演してほしいと思いました。彼は撮影監督を目指していて、演技には特に興味はないということだったので、説得して出てもらったのですが、カメラの前でもひるむこともなく、しっかりと演技をしてくれて、期待に応えてくれました。トム・ハンクスの息子というだけでプレッシャーがあるので、あえてトムは何も言わなかったのかもしれません。

-以前、トム・ハンクスの主演で、黒澤明監督の『生きる』(52)をリメークするという話がありました。それは実現せず、昨年イギリスでリメークされましたが、トムにとっては、この映画がその代わりのような感じもしました。

 クロサワの名前が出るだけで光栄で、大いなる誉め言葉だと思います。僕も、この映画はトムにとっての『生きる』になったのではないかと思います。今回のオットーというキャラクターは、とても普遍的なものです。例えば、シェークスピアのキャラクターもそうですが、この話の舞台を私の出身地であるスイスや、日本、南米などに移しても成立します。自分の周りに実際にオットーのような人物がいたりもするでしょう。なので、この原作がまた違う国で再解釈されて、つづられるかもしれないと思います。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

佐々木蔵之介「この映画を見た後で自分の気持ちがさまようようなところがあるので、誰かと一緒に見てほしいと思います」『名無し』【インタビュー】

映画2026年5月22日

 その男が右手で触れた瞬間、相手は消え、死が訪れる。世にも奇妙な凶器なき犯行と謎に包まれた動機とは…。俳優だけでなく、脚本家、映画監督としても活躍する佐藤二朗が、初めて漫画原作を手がけたサイコバイオレンスを、自らの主演・脚本、城定秀夫監督で … 続きを読む

宮野真守&神山智洋、初共演の二人が作り上げる、劇団☆新感線のドタバタ音楽活劇ミステリー 「多幸感にあふれた作品をお届けしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年5月22日

 宮野真守と神山智洋(WEST.)が出演する、2026年劇団☆新感線46周年興行・夏公演 SHINKANSEN☆RSP 怪奇骨董音楽劇「アケチコ!~蒸気の黒ダイヤ、あるいは狂気の島~」が、6月12日から上演される。本作は、脚本に劇作家の福原 … 続きを読む

「豊臣兄弟!」第19回「過去からの刺客」慶の心を動かした小一郎の言葉【大河ドラマコラム】

ドラマ2026年5月21日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=羽柴秀吉/池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中。5月17日に放送された第19回「過去か … 続きを読む

唐沢寿明「こんなにひどい男をやってよかったのかなという後悔はちょっとありました」『ミステリー・アリーナ』【インタビュー】

映画2026年5月21日

 推理力に覚えのある解答者たちが、国民的な人気を誇る推理ショーを舞台に、頭脳戦を繰り広げるさまを描いた深水黎一郎の同名小説を、堤幸彦監督が映画化した『ミステリー・アリーナ』が、5月22日から全国公開される。本作でクレージーな天才司会者・樺山 … 続きを読む

川島鈴遥、森田想「この映画は、ちょっと落ち込んだ時とかに見るといいかもしれません。きっと心が軽くなります」【インタビュー】『いろは』

映画2026年5月21日

 長崎で巻き起こる「ドロドロのダメ男巡り」と「ヒリつく姉妹の絆」を描いた青春ロードムービー『いろは』が5月22日から全国公開される。妹の伊呂波を演じた川島鈴遥と姉の花蓮を演じた森田想に話を聞いた。 -最初に脚本を読んだ時の印象から伺います。 … 続きを読む

page top