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前半の山場、ストックホルム編を終え、新たなステージに入った大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。時代は明治から大正に移り、次のオリンピックに向けて動き出した金栗四三(中村勘九郎)だったが、予定されていたベルリンオリンピックが中止との報せが入る。果たして、四三の未来は…?
「日本人とオリンピックの歴史」という触れ込みで始まった物語は一見、オリンピックに挑む男たちの熱血ドラマと思われるかもしれない。だが、ここまで見てきた視聴者なら、それだけではない豊かなドラマが繰り広げられていることを知っているはずだ。
見ていて驚かされるのは、当時の日本人の「スポーツ」に対する考え方だ。今、私たちは当たり前のようにスポーツを楽しんでいるが、当時は「スポーツ」という概念自体が存在しなかった。「運動はあくまでも体を鍛えるために行うもの。楽しむものではない」というのだ。
その状況から、いかにスポーツが普及していったのか。その歩みが興味深い。第14回では、四三がドッジボールの原型である「円形デッドボール」を楽しむ様子が見られたが、今後は箱根駅伝や女子スポーツ選手の誕生なども描かれる予定だ。今、私たちがスポーツを楽しんでいる裏にこんな出来事があったのかと、歴史を発見する面白さがある。
また、主題となるオリンピックを巡るドラマでは、数々の難問に直面しながらも「スポーツを通じた世界平和」というオリンピックの理念を貫こうとする嘉納治五郎(役所広司)の姿が印象的だ。私たちはしばしば、目の前にある現実の問題とオリンピックを結びつけて考えがちだ。だが、オリンピックが世界平和につながると信じる嘉納の思いは、そんな次元を超越している。理想主義とも言えるが、その姿を見ていると、自分たちがどのようにオリンピックと向き合うべきか、改めて考えさせられる。
そんな骨太なテーマを秘めながら、重さを感じさせないのもこのドラマの魅力だ。それに一役買っているのが、落語を使った軽妙な語り口。「落語は不要」との意見も見かけるが、仮に落語パートをなくした場合、今よりも全体のムードが重くなるのではないか。まして、これから物語が戦争の時代に突入していくことを考えると、その傾向はより強まるはず。だがそれは、脚本家・宮藤官九郎の意図するところではないのだろう。