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「これから撮る映画の中であの泣き方をしたら、彼女のまねをしたと思ってください」
これは、今年のカンヌ国際映画祭で審査員長を務めた女優のケイト・ブランシェットが語った言葉だ。ここで言う「彼女」とは、最高賞パルム・ドールを受賞した『万引き家族』に出演した安藤サクラのこと。
ブランシェットと言えば、『キャロル』(15)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17)など数多くの作品で活躍し、2度のアカデミー賞受賞歴を誇る現代最高の女優の一人。その大女優がこうコメントしたのだ。もはや、安藤が日本を代表する女優であることに異を唱える者はいないだろう。
では、安藤はどのような道をたどってここへたどり着いたのか。今まで数多くの作品で名演を披露してきた彼女だが、改めて振り返ってみると、2007年に、父・奥田瑛二が監督した『風の外側』の主演でデビューしてから、まだ10年ほどであることに驚かされる。
『かぞくのくに』(12)では、かつて北朝鮮へ渡り、病気治療のために来日した兄と再会する在日コリアンの2世を演じて、日本と北朝鮮との間で翻弄される人々の複雑な心情をにじみ出させた。
『0.5ミリ』(14)で演じたのは、トラブルに巻き込まれて一文無しになりながらも、さまざまなワケあり老人たちの家に押しかけてたくましく生きる介護ヘルパー役。
『百円の恋』(14)では、自堕落な生活の中からボクシングに目覚めていく30代女性に扮(ふん)して、女性版“ロッキー”とでも言うべき役柄を熱演。ボクシングのトレーニングはもちろん、自堕落な女性をリアルに演じるため、体重を増やして髪もボサボサにするなど、徹底した役作りを行なった。
いずれも一癖ある役ながら、体当たりするかのような魂のこもった演技は、見る者の胸を打ち続けた。その熱演は高く評価され、11年以降、キネマ旬報ベスト・テン、ブルーリボン賞といった国内の映画賞を続々と受賞。演技派女優としての評価は揺るぎないものとなっていった。
瞬く間に演技派女優としての階段を駆け上がった安藤が、日本を代表する映画監督・是枝裕和の『万引き家族』に出演することになったのは、必然と言ってもいい。
その一方で、いわゆる“人気女優”とは一線を画す個性を武器に活躍してきた安藤は、「それでも、生きてゆく」(11)、「ゆとりですがなにか」(16)といったテレビドラマに出演しながらも、どこか“玄人受け”にとどまるところがあった。