「井伊家をいかに守っていくのか、南渓さんは相当苦心したに違いありません」小林薫2(南渓和尚)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

2017年9月24日 / 20:46

 武田軍の侵攻により、井伊谷が焦土と化した。直虎(柴咲コウ)が守って来たものが次々と失われる一方で、井伊谷の民は復興に動き出し、成長した虎松(菅田将暉)も帰還するなど、未来への希望も見えてきた。井伊家が絶えた後も井伊谷を守ろうと尽力してきた南渓和尚は、今後も直虎や虎松を支えて行くことになる。演じる小林薫が、長期に渡る撮影で感じたこと、長い間見守ってきた直虎に対する思いを語った。

南渓和尚役の小林薫

-最初のころにお話を伺った際、長い間、大河ドラマに出演してこなかった理由の一つとして、「1年間の撮影は大変だから」とおっしゃっていました。これまで撮影してきて、今のお気持ちはいかがですか。

 健康面も含めてコントロールして行かなければならないので、やっぱり大変だなという気持ちが半分ありますが、こういう機会でなければ出会えない人とも出会えるので、面白いです。僕の身近なところで言うと、昊天役の小松(和重)くんみたいに、小劇場でずっとやってきた人の仕事に対する捉え方や芝居に対する取り組み方なんかは非常に面白いし、ムロ(ツヨシ)くんみたいに、いろいろ活躍している人を見ると、やっぱりセンスが違うなと思います。そういういろいろな人たちから刺激を受けるので、充実感みたいなものはあります。

-第36回で、井伊家再興を諦めるべきか悩む直虎を抱きしめる場面がありました。あの時の南渓和尚の思いはどんなものだったのでしょうか。

 いろいろな気持ちがあったのでしょうが、野球の監督みたいな立場だったのではないかと。例えばプロ野球の試合で、孤軍奮闘するピッチャーが限界を越えているんだけど、誰かが言わないと自分からは降りないだろうということがあります。そんな時、監督がマウンドに行って「もういいよ」と声を掛ける。そんな役割だったのかなと思っています。

-直虎は当主の座を降りて還俗しましたが、南渓和尚としてはホッとしている感じでしょうか。

 寂しい気持ちもあるんでしょうけどね。将棋でも、場合によっては一手打つだけで情勢が全く変わることがあります。周りを敵に囲まれてどう切り抜けるかでいっぱいいっぱいの時もあれば、チャンスだから攻めていくべきだと強気に転じる時もある。あの時は、どう考えても大きな流れには逆らえないし、孤軍奮闘している姿も痛ましい。だから、とりあえず、もうここは畳もうという判断をしたのでしょう。

-その一方で、井伊家がなくなったことを諦めきれない虎松に「殿ではないから、もう従わなくてもよい」と炊きつける一幕もありました。

 子どものころのおとわ(=直虎)と同じように、勝気な虎松の行動を見て、「この子は自らの運命を切り開いていく力がある」と感じたのでしょう。いずれ武勲の一つでも立ててくれれば、井伊家の再興もあり得るのではないか…そんなところが本音ではないかと。直虎を当主にしたことを反省する場面もありましたが、実は南渓さんは個人を犠牲にさせているところがあります。

-それはなぜでしょう。

 やっぱり当時の人間なので、この人も井伊家ありきなんです。そのために、誰をマウンドに上げて、救援を挟んで誰を抑えにするのがいいのか、みたいなことを考えていた。だから、振り返ってみると南渓さんは結構、矛盾しているんです。とはいえ、江戸時代のように安定している時ならともかく、どんどん地図が塗り替えられていくような時代ですから、土地や人のつながりを含めて、井伊家をいかに守っていくのか、相当苦心したに違いありません。

-次回から菅田将暉さん演じる虎松が本格的に活躍しますが、共演した印象は?

 菅田くんとはこれまで2回ほど共演しているので、縁があるなと感じています。体の線が細いという印象でしたが、リハーサルを見ていたら非常にパワフルで驚きました。直虎とけんかする場面でも負けていなかったので、すごいなと。そういう強気な部分を表現できる役者さんとして、菅田くんが起用されたのでしょう。

-南渓和尚がいつも抱いている猫“にゃんけい”が評判ですね。

 実はにゃんけいさんのアップなんかは、単独で撮っているんですよ。それでいい表情を使われたりすると…やっぱり負けますよね(笑)。撮影中は、猫のご機嫌も取らなきゃいけないので大変です。懐の中に入れていたらおとなしくしてくれるかと思いきや、何が気に食わないのか、もそもそし始めたり…。それが気になって、ほとんど芝居っ気がなくなってしまう時もあります(笑)。でも、それも面白いです。こないだ2代目に代わって、今度はキジ虎の猫になったので、仲よくやっていきたいです。

-これからドラマは終盤に向かっていきますが、序盤と比べて、柴咲コウさんの変化は感じますか。

 やっぱり変わったんじゃないでしょうか。最初のころは、「こうしなければいけない」、「こうしたい」という気持ちから、必要以上にプレッシャーや気概を感じている節がありました。でも、どんなに力加減を知っている人でも、大河ドラマの主演ということになれば、最初はプレッシャーを感じない人はいません。今はもう当主を降りて、農民として暮らしていますから、少し肩の荷が下りたような感じがあります。「われが井伊直虎である」と名乗ってりりしく当主の座に就いた第12回から、ずっと男顔負けの力強さがありましたが、今は非常にナチュラルな雰囲気になっています。

-これまで南渓和尚を演じてきて、難しさを感じる部分はありますか。

 南渓さんのキャラクターは、10人いれば10通りの解釈があるだろうと思うぐらい幅があるんです。他の人がやったら、もっと豪快な人物になったかもしれません。本当は、もっとふざけた感じでもいいのかもしれませんが、その先に人の生き死にがつながってくると思うと、あまりふざけることもできない。自分の中でブレーキがかかってしまうんです。それがもしかしたら、ちょっと人物を小さくしているのかなと思うこともあります。だから、そのギリギリのところを狙って演じていますが、難しいですね。今でも毎回、手探りです。悪く言えばその場しのぎですが、本当に何とかしのいでいっている感じです。

(取材・文/井上健一)


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

佐々木蔵之介「この映画を見た後で自分の気持ちがさまようようなところがあるので、誰かと一緒に見てほしいと思います」『名無し』【インタビュー】

映画2026年5月22日

 その男が右手で触れた瞬間、相手は消え、死が訪れる。世にも奇妙な凶器なき犯行と謎に包まれた動機とは…。俳優だけでなく、脚本家、映画監督としても活躍する佐藤二朗が、初めて漫画原作を手がけたサイコバイオレンスを、自らの主演・脚本、城定秀夫監督で … 続きを読む

宮野真守&神山智洋、初共演の二人が作り上げる、劇団☆新感線のドタバタ音楽活劇ミステリー 「多幸感にあふれた作品をお届けしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年5月22日

 宮野真守と神山智洋(WEST.)が出演する、2026年劇団☆新感線46周年興行・夏公演 SHINKANSEN☆RSP 怪奇骨董音楽劇「アケチコ!~蒸気の黒ダイヤ、あるいは狂気の島~」が、6月12日から上演される。本作は、脚本に劇作家の福原 … 続きを読む

「豊臣兄弟!」第19回「過去からの刺客」慶の心を動かした小一郎の言葉【大河ドラマコラム】

ドラマ2026年5月21日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=羽柴秀吉/池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中。5月17日に放送された第19回「過去か … 続きを読む

唐沢寿明「こんなにひどい男をやってよかったのかなという後悔はちょっとありました」『ミステリー・アリーナ』【インタビュー】

映画2026年5月21日

 推理力に覚えのある解答者たちが、国民的な人気を誇る推理ショーを舞台に、頭脳戦を繰り広げるさまを描いた深水黎一郎の同名小説を、堤幸彦監督が映画化した『ミステリー・アリーナ』が、5月22日から全国公開される。本作でクレージーな天才司会者・樺山 … 続きを読む

川島鈴遥、森田想「この映画は、ちょっと落ち込んだ時とかに見るといいかもしれません。きっと心が軽くなります」【インタビュー】『いろは』

映画2026年5月21日

 長崎で巻き起こる「ドロドロのダメ男巡り」と「ヒリつく姉妹の絆」を描いた青春ロードムービー『いろは』が5月22日から全国公開される。妹の伊呂波を演じた川島鈴遥と姉の花蓮を演じた森田想に話を聞いた。 -最初に脚本を読んだ時の印象から伺います。 … 続きを読む

page top