【インタビュー】作家・又吉直樹「しんどかったけど、めっちゃ楽しかった」 純文学作品『火花』でお笑いの世界を描く

2015年3月19日 / 13:31

 お笑いコンビ、ピースの又吉直樹氏の小説『火花』(文芸春秋)が11日に単行本として発売され話題を集めている。16日までに4刷となり、発行部数は計35万部に。純文学作品としては異例のヒットとなった。『火花』は、先輩芸人と彼を尊敬する後輩の2人を中心にお笑いの世界の悲喜こもごもを描いた作品。又吉氏に小説の魅力、作品に込めた思いを語ってもらった。

小説『火花』を出版した又吉直樹

-芸人随一の読書家として有名ですが、小説を書こうと思ったきっかけは?

 エッセーを書いていたので、文章を書くこと自体は慣れていたんですけど、小説は全く違うもの。それでも、ある時急に書きたいという欲求が湧き上がってきたんです。

-それが初の中編小説に。

 芸人の世界の先輩後輩の上下関係という設定だけ決めて、後は何の制限もつけずに書きました。だからより自分に近い言葉でストレートに書けました。

-登場人物の言葉には又吉さんの考えが盛り込まれているんですか?

 この登場人物ならなんて言うかなあと考えるんです。先輩芸人の神谷が「美しい世界を全力で壊す。ぶっ壊したらさらに美しい世界が、そこに現れるんや」と言いますが、書く前から頭の中にあったのは「美しい世界を全力でぶっ壊したら、笑いが生まれる」というところまで。でも、その後の「ぶっ壊したらさらに美しい世界が現れるんや」というのは神谷の言葉。それには自分でもびっくりしたんです。神谷の言った理論が今度は僕の中に入ってきて、さらには小説の構造全体に影響を与えていったんですよ。

-そういう言葉が飛び出してきた時はどう思いました?

 相変わらずやなと思いました。僕は何かに反応することや摩擦の結果でしか、自分の考えていることを超えられないんです。10代のころから、偶然性とかに結構ゆだねてきたんで。

-神谷と後輩の徳永という2人の芸人の壮絶さというものは普段から感じているのですか?

 芸人ほどあほで楽な商売はないという人もおるかもしれませんし、こんな壮絶な人もいます。徳永が物事をシリアスに捉え過ぎるので、神谷がここまですごくなったのかも。

-風景描写も読み応えがあり、余韻が残ります。

 近代文学が好きなんです。太宰(治)、芥川(龍之介)、(夏目)漱石、谷崎(潤一郎)とかばかり読んでましたから、風景描写がやたら長い(笑)。会話以外は密度濃く書いてしまうんです。

-一番難しかったのは?

 普段は1日で1万文字書けますが、小説は5時間ぐらい休まずに書いても原稿用紙で3枚とか4枚しか書けないんです。全然違う時間の流れ方をしていたのかもしれませんね。

-今後はどう考えていますか?

 何も考えてません。「書きたいな」というテンションが上がってきた時に、何を書くかを具体的に考えた方がいいかと思っているんです。ただ、小説書くのはめっちゃ楽しかった。どんどんできていく喜びがありますから。一回小説書いたら絶対癖になるみたいですね。

-読者やファンの方へ。

 自由に読んでください。ただ本や小説って面白いなって思ってくれたら、誰か他の作家の小説でいいから、2冊目に行ってほしいです。そういうきっかけになればいいですね。

 (聞き手=エンタメ批評家・阪清和)

 

【又吉直樹(またよし・なおき)】お笑いコンビ「ピース」のボケ担当。雑誌にエッセーなどの連載を多く持ち、随筆集や自由律の俳句集も出版している活字好きとして知られる。

 

 


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】俳優同士の演技合戦が見ものの3作『爆弾』『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』

映画2025年11月1日

『爆弾』(10月31日公開)  酔った勢いで自販機を壊し店員にも暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男(佐藤二朗)。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。  やがてその言葉 … 続きを読む

福本莉⼦「図書館で勉強を教え合うシーンが好き」 なにわ男⼦・⾼橋恭平「僕もあざとかわいいことをしてみたかった」 WOWOW連ドラ「ストロボ・エッジ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 福本莉⼦と⾼橋恭平(なにわ男⼦)がW主演するドラマW-30「ストロボ・エッジ  Season1」が31日午後11時から、WOWOWで放送・配信がスタートする。本作は、咲坂伊緒氏の⼤ヒット⻘春恋愛漫画を初の連続ドラマ化。主人公の2人を軸に、 … 続きを読む

吉沢亮「英語のせりふに苦戦中です(笑)」主人公夫婦と関係を深める英語教師・錦織友一役で出演 連続テレビ小説「ばけばけ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」。明治初期、松江の没落士族の娘・小泉セツと著書『怪談』で知られるラフカディオ・ハーン(=小泉八雲)夫妻をモデルに、怪談を愛する夫婦、松野トキ(髙石あかり)とレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ) … 続きを読む

阿部サダヲ&松たか子、「本気でののしり合って、バトルをしないといけない」離婚調停中の夫婦役で再び共演 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月31日

 宮藤官九郎が作・演出を手掛ける「大パルコ人」シリーズの第5弾となるオカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」が11月6日から上演される。本作は、「親バカ」をテーマに、離婚を決意しているミュージカル俳優と演歌歌手の夫婦が、親権を … 続きを読む

高杉真宙「見どころは、何よりも坂口健太郎さんと渡辺謙さんの演技だと思います」『盤上の向日葵』【インタビュー】

映画2025年10月30日

 『孤狼の血』で知られる柚月裕子の同名小説を映画化。昭和から平成へと続く激動の時代を背景に、謎に包まれた天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)の光と闇を描いたヒューマンミステリー『盤上の向日葵』(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松 … 続きを読む

Willfriends

page top