【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

2025年7月3日 / 11:00

▽長い時を刻む、大衆文化とは異なる魅力

-Kカルチャーが世界で注目される今、今回のような舞台表現はKカルチャーの中にどう位置づけられると思いますか?

 K-POPや映画などの大衆文化も素晴らしいですが、伝統芸術はそれよりもはるか以前から続いている文化です。私たちは、その伝統をただ守るだけでなく、現代的にどう再解釈するか、若い世代がどう自分たちの色に染め直すかを扱っています。なので、より長い時間を扱っていることに大きな意味があるのかなと思います。

-今後、Kカルチャーはどうあるべき?

 とても難しい質問ですが、韓国には本当に多様なジャンルの芸術家がいます。それぞれが考えを持ち、悩み抜きながら活動していて。それらが、それぞれの場所で自分の表現を続けること、そしてその多様性に注目が集まることが、もっとも自然で確実な発展だと思います。全員が大衆芸能に偏る、あるいは(そうなることはないでしょうが)伝統芸能に偏るのではなく、それぞれが自分の持ち味を発揮していくことで、韓国文化の豊かさが伝わっていくのだと思います。

-今回の舞台でも伝統と現代が融合していました。こういったことを意識的に行っているのですね。

 はい。私自身、伝統音楽を専攻してきたのですが、正直「伝統だけ」だと難しく、とっつきにくい部分もあると思います。だから、演じる側も、見る側も楽しめるようにしたい。伝統と現代、舞踊と音楽、アートと職人、そうした「出会い」をテーマに作品をつくっています。

職人が舞台上で仕上げた扇子と螺鈿作品

▽にじみ出る感情や味わいが韓国らしさ

-今後、日韓文化のコラボ舞台が生まれる可能性は?

とてもあると思います。美術は大きなプロジェクトになるので個人では難しいですが、国の支援があれば実現可能だと思います。音楽に関してはもっと簡単に、日韓の若い伝統音楽家が出会い、考えを共有し、新しいものを作り出していくという流れがつくれるはずです。実際に、今年の年末には日中韓の伝統音楽家が集まる公演を企画しています。美術についても、日韓の職人と演奏者がコラボできたらいいですね。とても大変だとは思いますが、きっと楽しいものになると思います。

-日本文化と比べて、韓国文化の特徴は?

 難しい質問ですね(笑)。日本の伝統を深く学んだわけではないですが、自分は韓国の伝統音楽をベースにしているので、個人的な印象としてお話しします。韓国の音楽は、形式がきっちり整っておらず、「恨(ハン)」や「興(フン)」といった感情や味わいがにじみ出るような部分がある気がします。日本の伝統音楽は形式が整っていて無駄がなく、洗練された印象を受けることが多いです。

-最後に、メッセージをお願いします。

 私たちの公演をご覧になった方はお分かりだと思いますが、私たちは一つの型にこだわらず、さまざまな形、さまざまな味を見せていきたいと考えています。伝統だけでもなく、現代だけでもなく、音楽・舞踊・美術などが交わることで新しい表現が生まれます。ぜひ、もっと多様な文化を一緒に楽しんでいただけたらうれしいです。

フィナーレで、二人の職人と並んで立つイ・インボさん(前列左から2番目)


プロフィール
84年生まれ。舞台演出家。リキッドサウンド代表。ソウル大学音楽学部国楽科卒。テグム(管楽器)専攻。フランスパリ第8大学演劇科学士・修士卒。2015年にリキッドサウンドを設立。同年、「舞踊劇 見えない境界」で演出家デビュー。代表作は「ギン:演戯解体プロジェクトⅠ」。2025年4月、韓国全州市にある国立無形遺産院で「職人の時間」を初演。

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

山時聡真、中島瑠菜「倉敷の景色や街並みや雰囲気が、僕たちの役を作ってくれたという気がします」『蔵のある街』【インタビュー】

映画2025年8月19日

-この映画の主役は倉敷という街とそこに暮らす人たちだと思いましたが、演じながらそういうことは感じましたか。 山時 僕たちのお芝居がどうこうというよりも、本当に倉敷の景色や街並みや雰囲気が、僕たちの役を作ってくれたという気がします。これは自分 … 続きを読む

ファーストサマーウイカ「それぞれの立場で“親と子”という普遍的なテーマについて、感じたり語り合ったりしていただけたらうれしいです」日曜劇場「19番目のカルテ」【インタビュー】

ドラマ2025年8月17日

-主演の松本潤さんとお芝居で対峙(たいじ)してみての印象を教えてください。  松本さんは、演じられている徳重先生と共通して、とても包容力のある方だと感じます。現場でもオフでも、相手を受け止めて認めた上で、的確かつ愛を持ってアプローチされるの … 続きを読む

橋本愛 演じる“おていさん”と蔦重の夫婦は「“阿吽の呼吸”に辿り着く」【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年8月16日

-そんな魅力的な蔦重を演じる横浜流星さんの座長ぶりはいかがでしょうか。  横浜さんは、蔦重さんをどう演じるか、常に誠実に真面目に考えていらっしゃいます。そういう空気がスタッフやキャストにも伝播し、しっかり取り組もうという空気感が現場全体に生 … 続きを読む

山里亮太「長年の“したたかさ”が生きました(笑)」 三宅健太「山里さんには悔しさすら覚えます(笑)」STUDIO4℃の最新アニメ『ChaO』に声の出演【インタビュー】

映画2025年8月15日

-ネプトゥーヌス国王役の三宅さんはいかがでしょうか。人魚という設定の上に、娘と接するときと、それ以外では雰囲気がだいぶ違いますが。 三宅 ネプトゥーヌス国王は、「屈強で、威厳があり、でも娘に甘い」。最初にその3つのファクターを大事に、と伺い … 続きを読む

ウィリアム・ユーバンク監督「基本的には娯楽作品として楽しかったり、スリリングだったり、怖かったりというところを目指しました」『ランド・オブ・バッド』【インタビュー】

映画2025年8月14日

-リアム・ヘムズワースとラッセル・クロウを演出してみていかがでした。  2人とも自分が演じるキャラクターを見いだすための努力を惜しまず、そのキャラクターの中にある真実や誠実さを見つけてくれます。さらにそのキャラクターにエンタメ性や楽しさも持 … 続きを読む

Willfriends

page top