「今こそ、強い立場の者が弱い者に手を差し伸べることが必要」『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』エドアルド・デ・アンジェリス監督【インタビュー】

2024年7月3日 / 08:00

 1940年。イタリア海軍の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、船籍不明の船を撃沈するが、それは中立国ベルギー船籍の貨物船カバロ号だった。サルバトーレ・トーダロ艦長(ピエルフランチェスコ・ファビーノ)はカバロ号の乗組員たちを救助して最寄りの港まで運ぶことを決めるが…。第2次世界大戦中の実話を基に、戦時下でも失われることのなかった海の男たちの誇りと絆を描いたエドアルド・デ・アンジェリス監督の『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』が、7月5日から全国公開される。「イタリア映画祭2024」のために来日したアンジェリス監督に話を聞いた。

エドアルド・デ・アンジェリス監督 (C)エンタメOVO

-本作は実話の映画化ですが、このクラシックな題材をなぜ今映画化しようと思ったのでしょうか。

 この映画の主人公のサルバトーレ・トーダロという人は、軍の中では伝説的な人物ですが、一般的にはほぼ知られていません。彼のことを語りたいと思ったのは、今のイタリアの政治状況に対して反発するような要素を持っていたからで、彼について語ることは意味があると思いました。とても古く、かなりの時間がたった話なので、それを今語り継ぐことは、自分たちの責務ではないかと思いました。

-オープニングの字幕スーパーに「海では誰もが神からの救いの腕1本の距離」という、 ウクライナ人艦長に救われたロシア人遭難者の言葉が出ますが、これは現代性を持たせるというか、今の情勢とこの物語を重ねるような意図があったのでしょうか。

 そうですね。あの言葉については、映画の編集作業をしている時に知ったのですが、自分が今、過去と現在をつないでいるという意味で、すごく象徴的な話だと思いました。こうした海のおきては、当然ながら私たちのDNAにも刻み込まれたものであると思います。今こそ、強い立場の者が弱い者に手を差し伸べることが必要なのではないかと思います。

-この映画で描かれた潜水艦「コマンダンテ・カッペリーニ」は、イタリアからドイツに行って、さらに日本に来て、最後は日本で沈められるという数奇な運命をたどります。日本ではドラマ化もされましたが、この潜水艦の数奇な運命についてはどのように感じますか。

 何か神秘的な謎めいたサインかなと思います。この話はすごく魅力的でもあると思うのですが、この潜水艦が日本で息を引き取り、それについてのドラマが日本で作られたことは、すごく象徴的な感じもします。

-この映画では、潜水艦内の極限状態での海の男たちの絆が描かれています。私はドイツ映画の『Uボート』(81)を思い起こしました。他にも潜水艦の映画はたくさんありますが、今回参考にしたり、影響を受けたようなものはありましたか。

 もちろん他の監督の作品や、戦争映画、海での戦いを描いた映画は見ました。ただ、自分が正しいと思った方法は、実際に潜水艦を作って、その中で役者に演じさせることでした。役者に現実に戦争を体験させて、平和を夢見させ、海水でぬれて、それから火事も起きて、火に包まれるところもある。寒さを甲板の上で感じることや、恐怖で身が震えるとか、そうしたものを実際に体感してもらい、その様子を描くことが自分の取るべき形なのではないかと思ったので、実際に原寸大の潜水艦を作って撮影することにしました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

橋本愛 演じる“おていさん”と蔦重の夫婦は「“阿吽の呼吸”に辿り着く」【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年8月16日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。本作で蔦重の妻・ていを演じているのは、今回が4度目の大河ドラマ出演で … 続きを読む

山里亮太「長年の“したたかさ”が生きました(笑)」 三宅健太「山里さんには悔しさすら覚えます(笑)」STUDIO4℃の最新アニメ『ChaO』に声の出演【インタビュー】

映画2025年8月15日

 『鉄コン筋クリート』(06)、『海獣の子供』(19)を始め、個性的なアニメーションを次々と送り出してきたSTUDIO4℃。その最新作が、アンデルセンのおとぎ話『人魚姫』をベースに、人間の青年・ステファン(声:鈴鹿央士)と人魚王国のお姫さま … 続きを読む

ウィリアム・ユーバンク監督「基本的には娯楽作品として楽しかったり、スリリングだったり、怖かったりというところを目指しました」『ランド・オブ・バッド』【インタビュー】

映画2025年8月14日

 ラッセル・クロウとリアム・ヘムズワースが共演し、戦場で孤立した若手軍曹と、彼を後方から支援する無人戦闘機のベテラン操縦官の闘いを活写したサバイバルアクション『ランド・オブ・バッド』が8月15日から全国公開された。米海軍全面協力のもと、入念 … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(1)“たまたま”が導いた講談の道

舞台・ミュージカル2025年8月14日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼みなさん、こんにちは  日本の伝 … 続きを読む

原嘉孝×いとうあさこ、timelesz加入後初の舞台主演に「timeleszを背負っています」 舞台「ドラマプランニング」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年8月11日

 脚本家・演出家の山田能龍、いとうあさこによる劇団山田ジャパンの2025年9月公演「ドラマプランニング」にtimeleszの原嘉孝が出演する。  本作は、テレビ業界におけるドラマ制作現場を舞台とし、ほれ込んだ漫画の映像化で初のチーフ作品を担 … 続きを読む

Willfriends

page top