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海宝 「周作というキャラクターは、最初から最後まで変化する人間ではない」と一豪さんはおっしゃっていました。結婚したときから周作なりにすずに愛情や優しさを注いでいますが、すずが置かれている状況に追い詰められたとき、(周作の)優しさは優しさと感じられない瞬間もあって、決して伝わりやすい人物ではないと思います。ただ、最終的には、周作の優しさを感じてもらえると思うし、それが一豪さんが描きたい周作像なのかなと僕は感じました。
村井 すずは最後の最後に、周作の隣にずっといていいんだと実感できるのだと思います。もちろん、それまでもそう考えていたと思うけれども、最後に周作の包み込むような優しさが見えてきて、「やっぱり周作がいないといけない」という思いにつながるように思います。
海宝 最後のシーンに周作が出てきたときに、ホッとしてもらえたらいいなと。
村井 それは感じる。すずに何か影響を与えなくてはと思ってこれまで稽古をしていましたが、(通し稽古を終えて)そうではなくて、広い心でただ受け止めてあげるというのが良いのかなと考えています。口数は少ない男ですが、心の広い男なんだというのは感じます。
海宝 でもそれもすずのメンタリティーによって変わってくる。お客さまがさまざまなものを投影して深読みしてしまうというのが、一豪さんの狙いなのかなと思います。
村井 今回は、舞台の構成上、時系列通りに物語が進むわけではないんですよ。原作の流れとは少しだけ違うところがあって、それによって周作の存在感はより増すのかなと思います。すずが人生や戦争、そしてさまざまな出来事によって揺れ動いている中で、動かない周作がいる。だから、最後に寄り添えるのかなと思います。
村井 決して軽く考えているわけではないですが、重く考えすぎてもいけないと思っています。今回、われわれがこの作品を演じる上で気を付けたいのは、「大変な目に遭ってかわいそうでしたね」と思わずに演じなければいけないということです。「かわいそうに」というのも差別なんですよ。広島に原爆が落ちてしまって悲惨な状況にあったけれども、それでもなんとかして生き延びようとして、日本を再興しようと前向きなエネルギーがあったと思います。だから、同情の気持ちでは演じてはいけないと僕は思っています。もちろん、 原爆の悲惨さや被害に遭われた方の現実はしっかりと勉強して、理解した上でのことですが、僕は「悲しい物語」を演じるつもりはありません。この作品は、それを伝える物語ではないと思うので。それでも生きていこうというエネルギーをお見せしたいなと思います。
海宝 原作漫画を読んだときに、悲惨な出来事が起きてもそこに立ち向かってたくましく生きていく姿が描かれているのが印象的でした。例え、子どもを失ったとしても生きていかなくてはいけなくて、生理的な現象は起きるわけです。そうして時が経っていき、痛みや苦しみは消えはしないけれども、生きていく中で笑いが生まれていく。この作品は、それを描いている作品で、僕はそこにすごさを感じました。なので、良大くんが言った通り、悲惨さばかりを考えて、自己憐憫(れんびん)的な表現をしてしまうと、原作が意図したものとは違う方向に行ってしまうと思います。そこは大事に演じていきたいと思っています。
海宝 僕はまだ行ったことがないんですよ。なので、今回の広島公演で訪れるのが初めてです。せっかく行くのだから、いろいろと勉強してから行きたいなと思っています。僕の父親がプラモデルが好きで、戦艦大和などをよく作っていたんですよ。プラモデルそのものというよりも、そこにまつわる歴史が好きだったようで、子どもの頃から戦艦大和や航空母艦の話をたくさんしてくれました。なので、今回、改めていろいろと勉強できたらと思います。
村井 実は、僕の祖父は、第二次世界大戦後、シベリアで抑留されていたんです。それがようやく解放されて、帰ってきた場所が呉だったそうです。それを聞いて衝撃で。今回の楽曲の中で「黄昏(たそがれ)拝んだ欄干越しの海」というフレーズが出てくるのですが、まさにそれを祖父は見ていたのだなと思うと、運命を感じました。
海宝 それはすごいね。よくぞ生きて帰ってきてくれたね。
村井 本当に。祖父が生きてなかったら、僕も今いないですから。なので、この作品にはすごく縁を感じています。
(取材・文・写真/嶋田真己)
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