【週末映画コラム】世界的なスターと恋に落ちた少女の波乱の日々を描く『プリシラ』/昭和初期を思わせるようなレトロな世界観が見もの『クラユカバ』

2024年4月12日 / 08:00

『プリシラ』(4月12日公開)

(C)The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

 

 1959年、西ドイツで暮らす14歳のアメリカ人少女プリシラ(ケイリー・スピーニー)は、兵役中の大歌手エルビス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)と出会い、恋に落ちる。

 やがて彼女は両親の反対を押し切って、テネシー州メンフィスにあるエルビスの大邸宅(グレースランド)で一緒に暮らし始める。これまで経験したことのない華やかで魅惑的な世界に入ったプリシラにとって、エルビスと共に過ごし、彼の色に染まることが幸せだったはずだが…。

 ソフィア・コッポラ監督が、プレスリーの元妻が85年に発表した回想録『私のエルヴィス』を基に、世界的スターと恋に落ちた少女の波乱の日々を描く。

 バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』(22)もそうだったが、これまで“エルビス伝説”の中で描かれてきたプリシラはあくまでも脇役だった。

 自分にしても、彼女のイメージはアーカイブ映像や後に『裸の銃を持つ男』シリーズでレスリー・ニールセンの相手役を務めた際のものでしかなかった。

 ところが、この映画の主役はプリシラで、逆にエルビスが脇役になるところが新たな視点として興味深く映る。しかも、プリシラが体現する60年代のファッション、ヘアスタイル、女性特有の美意識や恋愛感、独特の色使いなどは、ガーリー(少女的)カルチャーの雄とも呼ばれる、ソフィア監督ならではの素材だったと言えよう。

 この映画のエルビスにとってのプリシラは、人形かペットのような存在に映る。そんな現実感のない結婚生活が早晩破綻することは火を見るよりも明らか。やがてプリシラはアイデンティティーを発見し、エルビスから自立していくという流れになる。

 一方、エルビスのマザコンやロリコンぶり。あるいは精神世界、宗教、ドラッグへの依存。ウルスラ・アンドレス、ナンシー・シナトラ、アン・マーグレットら共演女優と浮名を流すプレーボーイぶりといった要素も描かれるが、どちらかといえば、孤独な甘えん坊、大きな子どもという印象を受ける。

 また、『エルヴィス』でも描かれていたが、エルビスはくだらない映画に仕方なく出続けながら、実はちゃんとした俳優になりたいと渇望していたことがこの映画でも描かれる。

 その点で、プリシラと一緒にハンフリー・ボガート主演の『悪魔をやっつけろ』(53)を見て、『波止場』(54)のマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンのようになりたいと本音を語るシーンが印象に残る。

 音楽はフランス出身のロックバンド「フェニックス」が担当。劇中で肝心のエルビスの曲をほとんど流さず、「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」(ラモーンズ)、『ヴィーナス』(フランキー・アバロン)、「アイ・ウィル・オールウェイズ・ラブ・ユー」(ドリー・パートン)など“別の曲”で時代や心情を表現するところは、ちょっとあまのじゃくだが面白い。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

草なぎ剛「やっぱりすごい…。心からリスペクトしています」 風吹ジュン「学ぶことも多く、新しい意識が生まれるドラマ」「終幕のロンド」【対談インタビュー】

ドラマ2025年10月27日

 草なぎ剛主演の月10ドラマ「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜午後10時)。このドラマは、遺品整理人の鳥飼樹(草なぎ剛)が、遺品整理会社の仲間たちと共に、さまざまな事情を抱えた家族に寄り添い … 続きを読む

沢村一樹「勝負は“確認作業”」 孤高の馬主が見つめる“真の競馬”とは 「ザ・ロイヤルファミリー」【インタビュー】

ドラマ2025年10月27日

 勝っても笑わず、負けても怒らない。日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」で沢村一樹が演じるのは、大手人材派遣会社を率いる敏腕経営者で、日本競馬界有数の馬主の一人、椎名善弘。冷静沈着で、どんな勝負にも動じない男だ。そんな椎名を演じるに当たり、本 … 続きを読む

長尾謙杜&山田杏奈&石原慎也(Saucy Dog)が話題の映画でタッグ!「主題歌が主人公たちの気持ちを表している」『恋に至る病』【インタビュー】

映画2025年10月24日

 10月24日公開の『恋に至る病』は、TikTokで話題になるなどティーンを中心に絶大な支持を集める斜線堂有紀のベストセラー小説を映画化した話題作だ。  内気な男子高校生・宮嶺望と学校中の人気者・寄河景。同じクラスになった2人は距離を縮めて … 続きを読む

市毛良枝「現代の家族のいろんな姿を見ていただけると思うし、その中で少しでもホッとしていただけたらいいなと思います」『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』【インタビュー】

映画2025年10月23日

 祖父の他界後、大学生の拓磨は、夫に先立たれて独り残された祖母・文子と同居することになった。ある日、拓磨は亡き祖父・偉志の書斎で、大学の入学案内を見つける。それは偉志が遺した妻・文子へのサプライズだった。市毛良枝とグローバルボーイズグループ … 続きを読む

林裕太「北村匠海さんや綾野剛さんとのつながりを感じました」期待の若手俳優が先輩2人と作り上げた迫真のサスペンス『愚か者の身分』【インタビュー】

映画2025年10月22日

 10月24日から全国公開となる『愚か者の身分』は、第二回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の同名小説を映画化した迫真のサスペンスだ。新宿の歌舞伎町で、犯罪組織の手先として戸籍売買を行う松本タクヤ(北村匠海)とその弟分・柿崎マモル、タクヤの兄貴 … 続きを読む

Willfriends

page top