いとうあさこ、愛のある「ババア」に「やった!」 愛称で呼ばれて生まれた“個性”【インタビュー】

2024年3月2日 / 08:00

-現在は、お笑いの仕事をしながらも、劇団「山田ジャパン」の公演にコンスタンスに出演しています。演劇が、ライフワーク的なものになっているのでしょうか。

 ライフワークという言葉の意味をきちんと認識できていないかもしれませんが、私の中で大切な存在です。ここに来ると、やっぱり演劇が好きなんだって確かめられるんです。いつも楽しい。普段はピンなので、人と何かを作ったり、集団でオチに向かって笑いを作っていくのも、楽しいです。

-では、いとうさんにとって「笑い」とはどんなものですか。

 私は、本当に小さい頃からドリフの公開収録を見に行っていたくらい、お笑いが大好きでした。当時は、そうしたお笑い番組がたくさんありましたよね。とにかくずっと見ていました。「笑い」って、本当にすごいと思うんです。よく役者さんが泣かせるのは簡単だけど、人を笑わせるのは大変だと言うけれど、いやぁ。そりゃ笑わせるの大変ですが、泣かせるのも大変ですよね(笑)。

-「笑わせる側」に立ちたいと思ったのはどういった思いからだったのですか。

 単純に、人を笑わせたい、幸せにしたいと思ったから。なんて言えたらすてきですが(笑)、自分のためですね。人が笑っているのが好きなんですよ。笑っているのを見るとアドレナリンが出て自分がうれしくなるんです。お笑いの世界に入った後も、イヤな思いをしたり、スベって落ち込むこともありますが、そこから復活するのはまた“ウケること”以外はないんですよ。人に笑っていただくことで、自分も幸せになっているんだと思います。

-今回の舞台「愛称蔑称」は“あだ名”をテーマにした作品ということですが、脚本を読んでどんな感想を抱きましたか。

 今はあだ名ではなく、みんな「さん」付けをしなくてはいけないというところから(劇中では)議論が始まるのですが、私の世代だとその感覚が分からない。そういう時代なんだということは理解しますし、あだ名によって嫌な思いをした人もいっぱいいるというのも分かるのですが、線引きの難しさを考えながら日々、稽古をしています。私自身は「あーちゃん」と呼ばれてきました。中三の頃にウーパールーパーが流行って、私の顔が似ているというので「ウーパー」とか「ルーパー」と呼ばれたことはありましたが、それ以外はずっと「あーちゃん」だったので、あまりあだ名というものはなくて。だからなのか、40歳をすぎて「イッテQ」に出るようになって「ババア」って呼ばれるようになった時に、「やった!」と思っちゃって(笑)。私にアイデンティティーや個性ができたって。改めて考えてみると、立木(文彦)さんのナレーションのお声や番組を作っている皆さんの愛情を感じるから、「ババア」と言われても悪口じゃないと思えるからかもしれません。やめてくださいと言われることもありますが、すごく難しいですよね。自分は気に入っちゃってるから(笑)。でも確かに愛情のある「ババア」はいいけど、もし、その辺で知らないやからに絡まれて「おい、クソババア」って言われたら、「なんだよ、お前」ってなりますよね。そう考えると、本当に難しいテーマではあるなと思います。もしかしたら正解は一生出ないのかもしれないし、それぞれの意見があっていいと思いますが、お客さまにとっても身近に感じられる題材だと思うので、一緒にああだこうだ、考えていただけたら。

-最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージを。

 重複いたしますがいろんな方が直面する可能性のある、難しい問題ではありますが、そうした討論会にお客さまも参加するような気持ちで見ていただけたらと思います。ただ、そうはいってもコメディーでもありますので(笑)。楽しく気軽に見にきていただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 舞台「愛称⇆蔑称」は、3月7日~15日に都内・六行会ホールで上演。

山田ジャパン2024年3月公演「愛称⇆蔑称」

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第三十三回「式部誕生」人々を動かす「源氏物語」の存在【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年9月7日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。9月1日に放送された第三十三回「式部誕生」では、「源氏物語」の続きを執筆するため、内裏に出仕した主人公・まひろ(吉高由里子)の日常と、中宮・彰子(見上愛)との出会いが描かれた。  彰子の住まいで … 続きを読む

山口紗弥加「自分が役に乗っ取られたような感覚です」ネタバレ厳禁のミステリーで入魂の演技を披露「私の死体を探してください。」【インタビュー】

ドラマ2024年9月6日

-そういう意味では、麻美の夫・正隆を演じる伊藤さんのお芝居に助けられた部分も?  もちろん! 伊藤さんのお芝居には本当に助けられました。正隆は最低のクズ男なんですけど、人間力の高い伊藤さんが演じているだけあって、一周回っていとおしくなる瞬間 … 続きを読む

河合優実「すごいところに羽ばたいていく予感はありました」金子大地「面白い映画になるのは間違いないと」恋人役で共演の2人が語るカンヌ受賞作の舞台裏『ナミビアの砂漠』【インタビュー】

映画2024年9月6日

-恋人でありながら緊張感のあるカナとハヤシの関係は、そういう山中監督の演出が生んだものかもしれませんね。現場の様子はいかがでしたか。 河合 ワンシーン、ワンシーン、みんなが面白がりながら撮っていました。「このシーン最高!」みたいな空気が毎日 … 続きを読む

【週末映画コラム】『エイリアン』の“その後”を描いた『エイリアン:ロムルス』/各国の映画祭で注目を集めた心理ホラー『映画検閲』

映画2024年9月6日

『映画検閲』(9月6日公開)  1980年代、サッチャー政権下のイギリス。「ビデオ・ナスティ」と呼ばれた暴力シーンや性描写を売りにした過激な映画の事前検閲を行うイーニッド(ニアフ・アルガー)は、容赦のない冷徹な審査故に「リトル・ミス・パーフ … 続きを読む

紅ゆずるの“ゼロ地点”は「宝塚歌劇団の公演を初めてテレビで見た日」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年9月3日

-ネヴィルと現在の妻のケイ、そして元妻のオードリーが1カ所に集うという状況もまた複雑ですね。  物語の始めはネヴィルとケイとオードリーという三角関係があり、その女性の間で揺れ動く男性のよくある話かなと思ったのですが、進んでいくと全く違う。最 … 続きを読む

Willfriends

page top