前田敦子「三島監督でなければ断っていた」 三島有紀子監督「プロポーズするような気持ちで前田さんにオファー」 相思相愛の初顔合わせが生んだ入魂作『一月の声に歓びを刻め』【インタビュー】

2024年2月9日 / 12:41

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-『息子の部屋』と同様に、本作の根底に存在する「子どもに対する親の目線」は、これまでの三島作品にも共通するモチーフですね。

三島 私自身、特に意識しているわけではないんです。ただ、社会の最小単位である家族の中にある“血縁ゆえの違い”に以前から関心があって。

前田 一口に家族と言っても、みんなそれぞれ違いますからね。血はつながっているけど、違う人間だし…という葛藤は一生続くんだろうなと、私もよく考えます。

三島 日本では血縁の家族関係が重視されますが、今は“血のつながらない家族”というスタイルも見つけていくべき時代ではないのかなと。だから余計に、血のつながった人と、つながらない人を描きながら、そういう「家族みたいな関係」を見つめていきたいと思っているんです。それがひいては、日本人が長い間放置してきた「男性・女性含む性の問題」にもつながるのではないかと。

-本作を経験して、前田さんはどんな手応えを感じていますか。

前田 今回は、今までにない作品を皆さんと一緒に作ることができた感覚がすごくあります。私はこの世界に入ってもうすぐ20年ですが、自分がお芝居に求めているものが、とても難しいものなんだと、最近気付いたんです。慣れてくると、形にはまったお芝居をする方が、より多くの人に伝わりやすいと考えがちです。でも、それは私がやりたいことではなくて。それよりも、この作品のように、みんなと一緒にものごとを深く追求していく方が、性に合っている。そういう意味で今回は、私にとってとても意味のある経験ができました。

-ここで改めて伺いますが、三島監督は前田さんのどこに、れいこを見いだしたのでしょうか。

三島 劇中、れいこは元恋人のお葬式にやってくる形で登場し、日常生活は描かれていません。それでも、ただ悲しんでいるだけでなく、普段は営業の仕事をしながら、笑顔でたくましく生きているれいこの日常を感じさせてほしかったんです。また、れいこが自分のつらい過去と心情を吐露するまでの過程では、きちんと計算されたお芝居が必要なのと同時に、彼女が歩く街に吹く風や音、花の匂いといったその場の空気を全身で伝えてほしかった。そういう難しい条件をすべてクリアしてくれたのが、前田さんでした。

-今のお話を伺い、前田さんがれいこ役にぴったりだったことがよくわかりました。では、映画が完成した今のお気持ちは?

前田 あの時、お断りしなくて本当によかったです。改めて、これからも困難に飛び込んでいきたいと思いました。簡単なことだけやっていると、枯れていくだけですから。しかも、映画は1人で孤独に作業するのではなく、監督やスタッフの皆さんと一緒に形にしていくもの。だからこそ、「絶対に無理」というものに挑戦していきたいです。

三島 そう言って頂けて良かった。前田さんのそういった渇望しているところも大きな魅力です。私も今回、自分の過去の生傷を見つめ直すことになりましたが、そうやってのたうち回っている私の姿を見た前田さんや他のキャスト、スタッフのみんなが映画にしてくれました。そういう意味では、それこそが私に刻まれた「歓び」だったんだな、と今は思っています。

(取材・文・写真/井上健一)

『一月の声に歓びを刻め』(c)bouquet garni films

『一月の声に歓びを刻め』

2月9日(金)テアトル新宿ほか全国公開

出演:前田敦子、カルーセル麻紀、哀川翔

   坂東龍汰、片岡礼子、宇野祥平

   原田龍二、松本妃代、とよた真帆

脚本・監督:三島有紀子

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