前田敦子「三島監督でなければ断っていた」 三島有紀子監督「プロポーズするような気持ちで前田さんにオファー」 相思相愛の初顔合わせが生んだ入魂作『一月の声に歓びを刻め』【インタビュー】

2024年2月9日 / 12:41

 『幼な子われらに生まれ』(17)、『Red』(20)などの映画で知られる三島有紀子監督が、自らの体験に基づいて作り上げた『一月の声に歓びを刻め』が2月9日から全国公開となる。三つの島を舞台にした物語のうち、大阪・堂島のれいこを演じるのが、前田敦子。大阪の街角で繰り広げられるれいこの物語からは、相思相愛の初顔合わせが実現した2人の並々ならぬ気迫が伝わってくる。その入魂作が誕生した経緯を、2人の対話から探る。

(左)前田敦子[ヘアメイク:高橋里帆(HappyStar)、スタイリング:有本祐輔(7回の裏)]、(右)三島有紀子監督(C)エンタメOVO

-本作は、三島監督が幼少期に経験した性被害をモチーフにした作品で、れいこには三島監督自身の思いが色濃く投影されているということで、前田さんが出演を決意するまで、1カ月ほど悩んだそうですね。

前田 三島監督でなければ断っていたと思います。監督ご自身のつらい体験に基づく作品ということで、自分がその思いを背負いきれるのか、だいぶ自問自答しましたから。

三島 自主映画なので、当初は製作費のめども立たず、配給も公開日も決まっていなかったんです。そんな状況でわれわれと同じ思いでこの作品に向かってくださる方は…と考えた時、真っ先に思い浮かんだのが前田さんで。

前田 そういう作品に対する三島監督の思いもお聞きして、ここでご一緒できることにも意味があるのかなと。三島監督とご一緒することは、以前から同じ女性としても大きな目標でしたから。というのも、女性の映画監督でこれほど力強く歩んでいらっしゃる方は少ないですし、ご一緒したことのある役者の皆さんから、すてきな監督だと伺っていたので。

三島 私も元々、前田さんとご一緒したいと思っていたんです。出演作を拝見し、インタビューなどを読む中で、前田さんは映画だけでなく、映画制作に携わる人まで愛している方だと感じて。一緒に悩みながら作るって映画では大事なことかと思います。

前田 さんざん悩んだ結果、その間、変わらずに待っていてくださった三島監督の広い懐に飛び込んでみようと、最終的にお引き受けしました。

三島 でも私も最初は、前田さんに引き受けてもらえる自信はなかったので、とにかく台本をお渡しして、お願いしてみよう、という感じでした。それこそ、プロポーズするような気持ちで(笑)。

前田 本当ですか!?

三島 実はそうだったんです(笑)。

-れいこが過去の性被害とその心情を告白するシーンは、胸が詰まる思いでした。撮影現場はどんな様子だったのでしょうか。

前田 現場で撮影前、監督が心をオープンにしていろんなことをお話ししてくださったんです。

三島 私が実際に被害に遭った現場で撮影したのですが、れいこは私自身とは異なるフィクションの存在なので、劇中のれいこがどんな体験をしたのか、1時間ほどかけてお話しさせていただきました。

前田 そのとき受け取ったものは、ただお芝居するのではなく、できるだけリアルに伝えないといけないなと思っていました。

三島 気が付いたら、前田さんが私の手を握ってくださって、2人で手をつないで歩きながら話をしていたらしいんです。ただ、私たちはそれを覚えていなくて。

前田 あとで「手をつないで歩いていましたよ」と言われ、「そうだっけ?」という感じで。

-おニ人の思いが重なった瞬間だったのでしょうか。

三島 つないだ手の中に、れいこが生まれたのかもしれませんね。それを見たスタッフや坂東(龍汰/トト役)くんが、「この映画にとって大事なものを、おニ人の姿から発見できました」と言ってくれたのは、うれしかったです。編集していた時もみんなが「れいこが心情を吐露するシーンは、2人の呼吸がそのまま映っているので、切れません」と。

前田 「お芝居していることを忘れたい」と思って挑んだシーンでしたが、そんなことを考える必要もないくらいで。

三島 あの時間を作ってもらえて、本当にありがたかったです。普通は、現場で説明に1時間もかけることは許されませんから。

前田 大切な時間をいただくことができました。

-劇中、れいことトトの会話に『息子の部屋』(01/カンヌ国際映画祭最高賞受賞作)という映画が登場しますが、これも意味のあるモチーフですね。

三島 『息子の部屋』は、息子を亡くしたカウンセラーが主人公です。この映画も「大切なものを失った人たちの物語」なので、その象徴として『息子の部屋』を引用しました。また、れいこと出会うレンタル彼氏のトトも、れいこにとってある種のカウンセラー的な役割を果たすので、その点も意識しています。

前田 監督に教えていただき、撮影前に『息子の部屋』を見ましたが、とてもセンスのいいすてきな映画でした。しかもそれが、亡くなったれいこの元恋人が好きだった映画ということで、そんな男性と付き合っていたれいこを理解するヒントにもなりましたし。

『一月の声に歓びを刻め』(c)bouquet garni films

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

二宮和也「子どもたちの映画館デビューに持ってこいの作品です」『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』【インタビュー】

映画2025年5月17日

 テレ東系で毎週月~金、朝7時30分から放送中の乳幼児向け番組「シナぷしゅ」の映画化第2弾。番組のメインキャラクター「ぷしゅぷしゅ」と相棒「にゅう」が、バカンスで訪れた「どんぐりアイランド」を舞台に繰り広げる冒険をオリジナルストーリーで描き … 続きを読む

【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

映画2025年5月16日

『サブスタンス』(5月16日公開)  50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによってレギュラー番組を降ろされたことから、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、禁断の再生医療「サブスタンス= … 続きを読む

新原泰佑、世界初ミュージカル化「梨泰院クラス」に挑む「これは1つの総合芸術」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月16日

 世界中で大ヒットを記録した「梨泰院クラス」が、初めてミュージカル化される。主人公のパク・セロイを演じるのは小瀧望。日本・韓国・アメリカのクリエーターが集結し、さまざまな人種が混じり合う自由な街・梨泰院で権力格差や理不尽な出来事に立ち向かう … 続きを読む

グレッグ・ターザン・デイビス「とにかく、ただ純粋に面白い映画を撮ることだけが、自分たちに与えられたミッションでした」『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』【インタビュー】

映画2025年5月15日

 トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第8作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が、5月23日の公開に先駆けて17日から先行上映される。前作『ミッション:インポッシブル/デッ … 続きを読む

研ナオコ、認知症のおばあちゃん役で9年ぶりの映画主演「主演女優賞を狙ってます(笑)」岡﨑育之介監督「研さんの人生の奥行きがにじみ出た」『うぉっしゅ』【インタビュー】

映画2025年5月12日

 人生に迷いながらソープ嬢として働く若い女性・加那と、彼女に介護されることになった認知症の祖母・紀江の交流を明るくポップなタッチで描いたユニークな映画『うぉっしゅ』が絶賛公開中だ。  本作で、加那を演じる若手注目株の中尾有伽と共に、紀江役で … 続きを読む

Willfriends

page top