エンターテインメント・ウェブマガジン
第1回の最後に家臣団が殿に詰め寄る場面で、台本には「…」しか書かれていなかったんですけど、いつまでたってもカットが掛からないので、思わず「俺は認めん」と言ってしまったんです。そうしたら、それが完成版で使われていて。殿(松本のこと)や(酒井忠次役の大森)南朋さんから、「あれ、狙ってたんでしょ?」と聞かれたんですけど、何の計算もなかったんです。でもそんなとき、「ちゃんと役を生きられているな」と思うんです。台本を超える瞬間というか、思ってもいなかったところでそういう瞬間が生まれるのが、お芝居の面白さだと思います。
古沢(良太/脚本家)さんはそうやって、僕がやったことをちゃんと引き取り、「山田くんの忠勝はこうなんだね」と書き続けてくださるんです。叔父上(本多忠真/波岡一喜)の形見のひょうたんも、僕が希望してつけ始めたら、ひょうたんで酒を飲むト書きを加えてくださって。それは本当に、ありがたかったです。
実は、クランクイン前に本多忠勝ゆかりの地を訪問したとき、案内していただいた岡崎の武将隊の方が「本多忠勝の肖像画は、本人が8回描き直させているんです。だから、本当は山田さんのように痩せた人だったのかもしれません」と教えてくださったことがあって。その話を聞いて、少しだけ本多忠勝を演じる自信を持つことができたんです。それまで僕も、多くの方が抱く肖像画のような屈強なイメージにとらわれていたところがあったんですけど、本当のところは分からない。そして、疑似的にでも体感できるのは、自分だけなのだから、自分が思う忠勝をやればいいんじゃないかと。そう気付かせてくださった武将隊の方には、ものすごく感謝しています。
忠勝といえば「剛」のイメージが強いですが、実はものすごく繊細で、いろんな人の気持ちを受けとめて戦っていたんじゃないかと思うんです。有名な鹿の角のかぶとは、戦で逃げる途中、道に迷ったとき、鹿が導いてくれたことから、「自分を守るのは鹿だ」と考えたためで、大きな数珠を体に掛けているのも、失った人や自分が斬った相手の思いを全部背負って戦うという意味だそうですから。だとすると、誰かのために涙を流すことも当たり前にできる繊細な人だったんじゃないのかなと。だから今思えば、自分が一言もしゃべらないシーンでも、殿を見つめる目、みたいな細かいところに、ものすごくこだわっていたような気がします。
まずひとつが、先ほどお話しした通り、僕の中で殿を認めた第2回の大樹寺のシーンです。そしてもう一つが、三方ヶ原合戦での叔父上(本多忠真)との別れのシーン(第18回)。あのシーンでは、演じる波岡(一喜)さんと2人で演技プランを提案し合い、「(数多の戦いでかすり傷ひとつ負わなかったと伝わる)忠勝の最初で最後の傷にしたいので、殴ってください」とお願いしたんです。そうしたら本番当日、波岡さんがさらに抱きしめる芝居を加えてきて。その瞬間、僕の頭の中に、演じてもいない幼少期の映像が流れ込んでくるような不思議な感覚になったんです。それはやっぱり、役を生きていないと達することのできなかった瞬間だし、僕はそれこそ、忠勝さんが見せてくれたんじゃないかと思っています。
(取材・文/井上健一)
「どうする家康」(C)エンタメOVO
ドラマ2025年7月5日
-そのほか、撮影を通じて特に印象に残ったことがあれば教えてください。 安田 撮影が終盤に差し掛かった頃、原作者のキム・スジンさんにお目にかかる機会があったんです。キム・スジンさんは、それぞれのキャラクターに、ものすごく細かいバックボーンを作 … 続きを読む
ドラマ2025年7月5日
-松本さんとは初共演ですね。現場での印象は? 「はい、行くよ!」って声をかけて引っ張っていってくださる兄貴肌です。スタッフの皆さんとも積極的にコミュニケーションを取っていらっしゃる姿も見ますし、松本さんの存在で撮影現場全体が活気づいている … 続きを読む
映画2025年7月4日
-陽彩はいわゆる“毒親”の母と2人で暮らすうち、自分の人生に期待を持てなくなってしまった人物です。そういう役と向き合うお気持ちはいかがでしたか。 南 陽彩にとって、親や家族は、居場所であると同時に、自分を縛る呪いのようなものでもあったと思う … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年7月4日
2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。 物語の舞台は歌舞 … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年7月3日
▽長い時を刻む、大衆文化とは異なる魅力 -Kカルチャーが世界で注目される今、今回のような舞台表現はKカルチャーの中にどう位置づけられると思いますか? K-POPや映画などの大衆文化も素晴らしいですが、伝統芸術はそれよりもはるか以前から続い … 続きを読む