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米倉涼子さん、ブロードウェーミュージカル「CHICAGO(シカゴ)」に主演

稽古中の米倉涼子

米倉涼子さんが7月、ブロードウェーでロングラン上演中のミュージカル「CHICAGO(シカゴ)」に、主人公ロキシー・ハートとして出演することが決定した。ブロードウェーで日本人女優が非アジア系アメリカ人を演じるのは史上初。渡米前に日本で稽古に励む彼女が、現在の心境を語ってくれた。

 やっていて楽しいという気持ちが、今は大切

Q 今の自分に必要なもの

A すべて、満遍なく必要です。あえて言うなら、スタミナ? 考えたことないですね。今回のレッスンは、歌、踊り、せりふをばらばらにやって、それをくっ付けている作業なので、歌がうまくなれば踊りがうまくなる、というのではなく、全部がちょっとずつうまくならないと、全体もうまくならないと思っています。

 Q では、今の自分に欠けているものはなんですか。

A うーん、そんなふうにマイナスに考えたことはないですね。やる気。やっていて楽しいという気持ちが、今は大切だと思っています。足りないことはたくさんあるし、今日が良くても明日は駄目になるかもしれないし、向上心がたくさん必要なんだと思います。

 Q ブロードウェーに立つためのレッスンで、新しい発見はありましたか。

A 私は音楽家ではないので、詳しくは説明できませんが、ひとつの音の中で言える言葉の数が、日本語と英語とでは違うんです。日本語のように歌うと、英語では歌えない。英語が作られた意味や日本語との違い、英語だから表せる歌い方とか、(ひとつひとつのせりふが)どうしてこういう言葉になったのかを分析しながらやれて楽しかった。

 Q レッスンの成果はいかがですか。

A 最初は、本当にひどかった。歌詞を覚えるのも大変だったし、歌詞を覚えても発音が難しいですし、ひとつひとつの単語は発音できても、言葉にするとできなくなったりしました。ひとつの歌を完成させるまでに、あっ、完成はまだしてないかもしれないですけど、単語の意味から調べなくてはなりませんでした。皆さんが思っている以上に大変でした。

 Q 英語で演じることについて

A 明らかに英語の方が言いやすいとか、発散しやすいせりふはあります。そもそも英語を話す人から始まった物語なので、音楽はもちろん、日本語では訳しきれない英語の表現―韻を踏んでいたりとか、アメリカンジョークが隠されていたりとか、日本語では伝わらないことがたくさんあります。それらを気兼ねなく言えるのが楽しい。何よりも、オリジナルを演じることができるのが一番の幸せなのかなって思います。

稽古でも真剣な表情を見せた

英語で演じることによって、私のロキシーが見えてきた

Q 英語で新しい視点を得たということで、演じるロキシーに対する解釈が変わったということはありますか。

A 全然違いました。一般的な日本人が考える“かわいらしさ”とか“セクシーさ”は、(欧米人と)求めていることが違うと思う。日本だとガーリーで、目をパチパチさせたり、守ってあげたくなるような女性を見て“かわいい”と思うかもしれませんが…。外国人の子どもって、小さいときから髪をかき上げるしぐさひとつとってもセクシーでしょ。日本版のロキシーを演じていた時に、一生懸命内股にして、声もちょっと高めにして「こわぁい」なんて、私ではあり得ないようなキャラクター作りに徹していたんですけど、今回はそれをやめてみて、アラフォーの大人らしく、それなりに“自分は女なんだ”っていうものをアピールすることによって、すごく解放されて、歌と踊りとせりふと芝居がすごく楽になって、肩の荷が下りました。こうしなきゃいけないというのはない。いくら私が日本版的なロキシーを演じても、ただの若い子にしか見えないから、私らしいロキシーを演じてもいいのかなって思えるようになりました。それからは、すごく楽しくなりました。いろんな方が演じたロキシーがありますが、私にとってのロキシーがカチッとはまった感じがしています。ただ、ニューヨークへ行ったら、すべて崩されてしまう可能性もありますけどね。

Q 英語の発音を正しくするためにやっていることを教えてください。

A 初めは、とにかく、言う。今では、何が苦手なのか分かっているので、HERとかAREとか、子どものころから言っている簡単な単語なのに駄目。LもRも大変なんですけど…。アムラさん(ヴェルマ・ケリー役のアムラ・フェイ・ライト)が、私のためにダビングして録音したものをずっと聞いていました。

Q ブロードウェーの舞台に立つ日も近づいてきましたが、イメージできていますか。

A イメージトトレーニングはしたいんだけれども、どうも苦手で、やっていません。

Q 演じるのではなかったけれど、実際にブロードウェーの舞台に立ったことがあるんですよね。

A 2年前に1回だけ、5分ぐらいですけどね。すっごく、狭く感じました。日本のアクトシアターでやっていた時に比べたら、バックステージがすごく狭くて、自分がふらふらするような場所がないんですね。本当はいろんな所から(上演中の舞台を)のぞいたりしたいんですけど、自分の出番のぎりぎりまでどこにいたらいいんだろう、舞台上にいるときはいいけれど、はけているときはどこにいたらいいんだろうという不安はあります。

Q 観客のレベルとか、厳しい意見も覚悟していると思いますが…

A いま、それを考えても仕方がないので、実際に舞台に立ってシーンとしていたら“あー、私の舞台は、まだまだなんだな”って思うし、まぁ、そうならないように頑張っているんですけど…、覚悟はしています。でも、せっかく出られるんですし、人生においてこのようなチャンスが得られるのはなかなかないことですし、無駄にしないように、カッコよく言えば謳歌したい。緊張するのは百二十%なので、緊張する中で今までやってきたことが無意識に出せるように、練習するしかないんです。やったことのないことですから。リハーサルとかゲネプロ(公開稽古)とか(現地で)やらせてもらえないみたいだし、全体を通して演じるのは、ほぼ、ぶっつけ本番のようなので、誰が何役なのか分からないまま演じなくてはならない状態。舞台に立ったら、頭の中が真っ白になってしまうかもしれないけど、そうならないようにしたい。私のど根性でやるしかない。自分のことだけを考えて立ちたいと思います。

躍動感あるダンスも披露した

ブロードウェーに立つことは、ラッキーなチャンス

Q 日本人女優がブロードウェーの舞台に立つのは、54年ぶりのことですが、どう思いますか。

A ラッキーなことだと思います。落ち着いて考えてみると、なぜ私なのか分からないんです。私は、リクエストはしましたが、ミュージカルはシカゴしかやったことがなくて、ミュージカル自体がなんなのか分かっていないのに、ラッキーだなって思う。せっかくこういうチャンスを与えてくれたんだから、私だけの力ではないので、スタッフ皆さんの日本からシカゴを愛する気持ちとか本当に重なって、このように実現できているので“失敗はしない”とは言い切れないんですけど“やれたね”っていう証だけは残したいと思っています。野茂(英雄)さんがメジャーリーグに行った時、本当に大変だったんだろうなって思いました。そういう人たちって、なんか背負わなきゃいけないことってあると思うんですね。私は、ハリウッドを目指しているわけでも、何かを目指しているわけでもないんですけど、なんでも初めてっていうのは大変なんだねって。もちろん、アメリカ側もブロードウェーでシカゴは1975年から上演されてきたわけだし、プライドとかいろんなものがあると思うから、なぜゆえ日本人なんだっていう気持ちもどこかしらあると思うんですよね。だから、そういう扉が少し開き始めたことがすごいことだし、うれしいことだし、やりがいのあること。なんですけど、閉じかけられるところもたくさんあるので、そういうこともいい経験にして楽しんでます。嫌なこともたくさんあるけれど、私からもガーガー言うし、周りからも言われるし。でも、だからこそ出来上がっているのがいまの形なんだと思います。

Q そうとうシカゴにほれ込んでいるんですね。

A 上には上がいると思うけど“あー、しばらくは(シカゴは)いいかな”って思ったことは一度もない。すごく、それが、うれしいなって思うんです。

Q 会見の時の涙が印象的だったのですが。

A いまでも、こうして話をしているだけでもうるうるしてしまうんですけど、その理由が私にも分からないんです。

Q ブロードウェーの舞台に立ったら分かるかもしれませんか。

A さあ~、分かったらいいなって思います。でも、分からなくてもいいかな。単純に好きっていうだけだから。森光子さんが『放浪記』をやり続けているじゃないですか。やっぱり、好きじゃないとできないと思うんですよね。いくらお金があるからって、いくら人から称賛されているからって、やっぱり自分が好きじゃなきゃ、あんなに長くはできないと思うんです。ブロードウェーに立っている人たちだって、私の何百倍もやっている。今もやり続けているし、やり続けたいんだと思います。それは、やはり好きだからなんだと思います。好きっていう気持ちは、いろんなことに作用してくる感じがして、嫌いなのにやっていたら、人から「いいね」という評価はしてもらえないと思います。

Q ブロードウェーに立つことは、女優米倉涼子にとって何をもたらすのか。

A 立ってみないと分からないですね。ひとつの作品に対して、本来はみんなでやるものなのに、こんなに孤独に、ずっと独りでレッスンをしていて、こういう状態って苦手なんですね。周りに人がいて、それを意識して、切磋琢磨(せっさたくま)していくのが好き。誰もいない中で独りでやるのは、ちょっとしんどくて…。本格的なレッスンを始めたのは、今年の3月ぐらいからですが、すごくいい経験だと思っています。しかも、私がずっと、ずっとやりたかった演目で、いま自分がすごく興味がある舞台で、しかもミュージカルで、さらにシカゴ。やったら、すごく悔いが残ることはたくさんあると思うんですね。ああすればよかった、こうすればよかった、あれはもうちょっとできたかもしれないとか…。あると思うんですけど、これをやれたっていうだけで、ぶっちゃけ、この現実に悔いはないです。やればまた、欲は出てくると思うんですけど。

………もう、女優を辞めてもいいかも…っていうぐらいうれしいことですね。辞めないとは思うけど、そのぐらい大きな喜びなんです。

最後に、インタビューの締めといえば恒例の“10の質問”に答えていただきました。

●米倉涼子さんに10の質問

1.好きな言葉

ガッツ

2.嫌いな言葉

諦めること

3.あなたのテンションを上げてくれるものは

人と会っているとき

4.あなたを凹ませるものは

人が変なことを言うとき

5.好きな音

シカゴのサウンドトラック

6.嫌いな音

黒板のキーキー

7.今の仕事以外でやってみたい職業は

ないかも

8.どうしてもやりたくない職業は

お掃除屋さん

9.今の自分は何点

78点ぐらい。高過ぎる?

10.(寿命が尽きて)あの世で神様に会ったら、何と言ってほしい

ちょっと、晩酌でもしようか。これからのことを話したいと思います。

ミュージカル「CHICAGO」のポスター

●日本凱旋公演決定

<キャスト&スタッフ>

 出演:アメリカ招聘カンパニー、米倉涼子(ロキシー・ハート)

 作詞:フレッド・エッブ

 作曲:ジョン・カンダー

 脚本:フレッド・エッブ&ボブ・フォッシー

 初演版演出振付:ボブ・フォッシー

オリジナル・ニューヨーク・プロダクション演出:ウォルター・ボビー

 オリジナル・ニューヨーク・プロダクション振付:アン・ラインキング

8月30日から9月16日、赤坂ACTシアター(東京都)

英語上演(字幕スーパー有り)

問い合わせ:キョードー東京 0570−064−708

公式ホームページ:http://www.chicagothemusical.jp/

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