別所哲也「舞台は自分の原点で、一生取り組んでいたいこと」 舞台「マーク・トウェインと不思議な少年」で文豪マーク・トウェインに挑む【インタビュー】

2023年9月2日 / 08:00

ー別所さん自身も自分のイメージと本当の自分が違うことに葛藤することはありますか。

 若かりし頃は“トレンディ俳優”という役柄を担っているところもあったりしましたから、イメージで見られることもありましたし、「本当の自分はそうじゃないんだ」と思うこともありました。それは後日、過ぎた日を振り返った時に感じられるものだと思いますが。

ーでは、作品の見どころを教えてください。

 G2さん、そして出演者、スタッフ全員が、緻密に組み立てていくお芝居になっています。見どころは、やっぱりサム・クレメンズという人間を中心に起きるそのアンサンブルです。多重四重奏とは言いませんが、そんな感覚の世界を楽しんでいただけたらうれしいです。ピアノ1台で奏でられている音楽もものすごく美しいので、そこもぜひご注目ください。ミュージカルとはまた違う、今まで見たことがない演劇体験をしていただけるのではないかなと思います。

ーところで、映画界にも多大な貢献をしている別所さんですが、舞台作品に出演することについては、どのような思いがあるのですか。

 僕は、舞台俳優として大学時代に英語劇でスタートし、その後に舞台、そして映画デビューをしていますので、舞台は自分の原点で、一生取り組んでいきたいことです。サム・クレメンズという人も実業家で、出版社を作ったり、さまざまな会社に出資したり、世界中を旅しながら旅行記を書いたりしている人なので、自分の中ではそうした彼の姿にはとても共感できます。自分も舞台俳優として、一生俳優でありたいという気持ちが中核にあり、その気持ちが映画を作ったり、映画祭を開催したりすることに枝分かれしているという感覚です。もちろん映像も大好きですし、映像作品に携わることもずっと続けていこうと思っていますが、原点は舞台の仕事なのだと思います。

ーそうすると、舞台作品をプロデュースする、舞台作品を作ることにも興味があるのでは?

 もちろんやってみたいという思いもありますが、舞台の演出家やプロデューサーの方を見ていると、俳優の集中力以上にものすごく大変な作業をされていらっしゃるので(苦笑)。本当にあらゆることをやらなければいけないので、大変なことも多いでしょうし、尊敬しています。もちろん、1つのものを積み上げて、作品を作っていくことに興味はありますが。

ーコロナ禍が落ち着いた現在、舞台業界も少しずつ通常運転を取り戻してきたのかなと思います。アフターコロナの今の舞台業界、舞台作品については、どのような思いがありますか。

 人と人がつながれない状況になった時、演劇は何とも脆弱(ぜいじゃく)なものなんだなということを痛感しました。人が集えなければ、何もできないんですよね。一方で、だからこそ、今やることに貴重な意味があるとも感じました。今後、ますますバーチャルやオンラインでできることが増えていくと思いますし、利便性を考えればそれもまた良いことだと思いますが、だからこそ余計に、同じ空間で、同じものを分かち合い、同じ気持ちを味わい、そして笑ったり、触れたりすることがどれほど人間らしくて、大切なことなのかを感じました。そうしたものが凝縮されたのが、演劇体験にあるような気がしているので、これからどんどんかけがえのないものになるのかなと思っています。そう考えると、本当は今のチケット代の10倍くらいの値段の価値があるのかもしれないと思います(笑)。

ー別所さん自身は、舞台の上で芝居をする、舞台に立つことの面白さや魅力は、どういったところに感じているのですか。

  人が集って一緒に息を飲み、呼吸をし、笑い、泣き、拍手をする。そういう体験ができることです。例えば、帝国劇場のような大劇場だと、開幕前に2千人の熱気で緞帳(どんちょう)が押されるんですよ。空気圧でそうなるのですが、お客さまの舞台に対する気持ちが乗って、緞帳のラインをグッと(ステージ側に)押しているんだと思うと、それを見るだけでゾクゾクします。舞台上に立って、何かを一緒に生み出し、分かち合う感覚を共有できた時は、ほかにはない体験ができます。

ーでは、映像作品の魅力はどこにあると思いますか。

 映画というものは、カット割りを考えながら撮影するなどして、緻密に設計して組み立てたものが画面上に出た時に、その画面から派生してお客さまに響く。それもすごいことだなと僕は思います。しかも、それは再現性を持っている。その時代の空気や考え方、その時にいる人間の年齢や俳優のお芝居を真空パックにして何十年も何百年も残るというのは、大きな魅力だと思います。映画は、100年後にも撮影当時の空気感と同じものを見ることができるんです。演劇は逆にその時だけというはかなさがある。もちろんDVDになったり、配信があったりもしますが、劇場という場で感じた体感は、どうやっても再現されないので、そこが魅力です。それぞれに魅力があると思います。

(取材・文/嶋田真己)


舞台「マーク・トウェインと不思議な少年」

 舞台「マーク・トウェインと不思議な少年」は、9月9日~24日に都内・新国立劇場 小劇場、9月30日~10月1日に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで上演。

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第十八回「岐路」女にすがる男たちの姿と、その中で際立つまひろと道長の絆【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年5月11日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日に放送された第十八回「岐路」では、藤原道長(柄本佑)の兄・道兼(玉置玲央)の死と、それによって空席となった関白の座を巡る道長と藤原伊周(三浦翔平)の争いが描かれた。  妻・定子(高畑充希 … 続きを読む

【週末映画コラム】映画館の大画面で見るべき映画『猿の惑星/キングダム』/“お気楽なラブコメ”が久しぶりに復活『恋するプリテンダー』

映画2024年5月10日

『猿の惑星/キングダム』(5月10日公開)    今から300年後の地球。荒廃した世界で高い知能と言語を得た猿たちが、文明も言語も失い野生化した人類を支配していた。そんな中、若きノア(オーウェン・ティーグ)は、巨大な帝国を築く独裁 … 続きを読む

「場所と人とのリンクみたいなのものを感じながら見ると面白いと思います」今村圭佑撮影監督『青春18×2 君へと続く道』【インタビュー】

映画2024年5月9日

 18年前の台湾。高校3年生のジミー(シュー・グァンハン)はアルバイト先で4歳年上の日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会い、恋心を抱く。だが、突然アミの帰国が決まり、落ち込むジミーにアミはあることを提案する。現在。人生につまずいた3 … 続きを読む

田中泯「日本の政治に対する僕自身の憤りに通じる部分も多かった」世界配信となる初主演のポリティカル・サスペンスに意気込み「フクロウと呼ばれた男」【インタビュー】

ドラマ2024年5月9日

 あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、社会の陰に隠れて解決してきたフィクサー、“フクロウ”こと⼤神⿓太郎。彼は、⼤神家と親交の深かった次期総理候補の息⼦が謎の死を遂げたことをきっかけに、政界に潜む巨悪の正体に近づいていくが…。先 … 続きを読む

海宝直人&村井良大、戦時下の広島を舞台にした名作漫画をミュージカル化 「それでも生きていこうというエネルギーをお見せしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年5月9日

 太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々の姿を淡々と丁寧に描いた、こうの史代氏による漫画「この世界の片隅に」がミュージカル化され、5月9日から上演される。主人公の浦野すず役をWキャストで務めるのは、昆夏美と大原櫻子。すずが嫁ぐ相手の北條周作を … 続きを読む

Willfriends

page top