NHKで好評放送中の連続テレビ小説「らんまん」。“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、明治から昭和へと激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波乱万丈な生涯を描く物語だ。万太郎は変わらず植物学にまい進する一方、厳しい家計を支えるため、妻の寿恵子(浜辺美波)は料亭の女将である叔母の笠崎みえに助けを求める。久しぶりの登場となったみえを演じる宮澤エマが、寿恵子との再会の舞台裏や今後の見どころを語ってくれた。
-みえが久しぶりに再会した寿恵子を抱き寄せた瞬間は、視聴者の共感を呼ぶシーンだったと思います。演じる上で心掛けたことは?
久しぶりの登場で突然の訪問だったので、どうアプローチしたらいいのか、すごく悩みました。前回の登場から、劇中では10年くらいの時間が経っていますが、結婚する時、母親のまつ(牧瀬里穂)さんが寿恵子に「困ったら、みえ叔母さんのところに行きなさい」と伝えていたように、完全に関係が途切れていたわけではありません。でもどうやら、2人はずっと会ってなかったらしいと。さらに抱き寄せる直前、だいぶ厳しい口調で寿恵子に正論を突きつけ、高藤様を振って万太郎と一緒になったことに対して、「かんかんに怒っている」と言いながらも、本当のところどう思っているのかは分かりませんし。
-そうするとお芝居は?
リハーサルのとき、「抱き寄せるのは難しいかも」と感じた瞬間がありました。監督も「難しければ、手を握る形でやってみましょうか」とおっしゃってくださったんですけど、「それもちょっと違うな」と。「もっと早く来なさいよ」というせりふもあったように、これだけ時間が開いたけど、「ようやく頼ってきてくれた」という思いの方が強いはず。だから、最初は叱るような感じになるけど、やっぱり本心では、会った瞬間に抱きしめたいという感情が彼女の中にあったんだろうなと。
-抱き寄せた時、どんなことを感じましたか。
抱きしめた瞬間、この小さな体で、万太郎と子どもたちを支えてきたのか…と。体に触れると、温かさを感じて、芝居の感じも変わってくるんですよね。触れ合った瞬間にパッとほどけるというか…。普段は正座して、腕を組んで、みたいな場面が多いんですけど、そうすると感情を発散することが難しくなっていくんです。でもあのシーンは、それくらいドラマチックなことが起きているので、抱きしめた瞬間、自分の中から自然な感情が溢れ出てきて、「これで正解だったな」と思いました。
-とてもすてきなお芝居でした。
でも、言いたいことは言わなくちゃいけないし、言った方が2人ですっきり話ができると思っているあたりは、みえらしいですよね。「家族の縁は、切っても切れない」といいますが、なんだかんだいってもこの2人は家族なんだなと。「よかった、生きてる」と実感できる素晴らしいシーンでした。
-ところで、寿恵子役の浜辺美波さんの印象は?
浜辺さんは、2人で打ち合わせをしたわけでもないのに、こちらが打ったものをしっかりキャッチして、きちんと投げ返してくださるんです。うそがなく、すごく素直な方です。おかげで、まっすぐ見つめられると、叔母としては、「やっぱりかわいい姪(めい)だな」という人間味みたいなものが、おのずと出てきてしまって。だから、再会のシーンでああいう瞬間を作り上げてくださったのは、浜辺さんのおかげだと思っています。
-みえは当初から料亭の女将(おかみ)という設定でしたが、以前は寿恵子の家に時々やって来る「世話焼きな叔母さん」という印象でした。今回の再登場では「料亭の女将」の部分がきちんと描かれていますね。
再登場するとは聞いていましたが、台本を読んで、「こんなに大きな料亭を仕切る女将さんなんだ!?」と驚きました(笑)。でも、あれから10年近く経っていますし、商売上手な人なので、少しずつ手を広げ、今の地位を築き上げたんだろうなと想像しました。
-現在のみえを演じる上で心掛けていることは?
以前登場した頃はもう少し声のトーンも高めで、チャキチャキした感じを意識していました。でも、今や大きな料亭の女将さんです。だから、どっしりと構えて、芯があって腰の据わった感じ、でも相変わらず言う事は言うし、新しいもの好きなところも変わっていない、そんなことを意識しました。そういう意味では、「ときどきやってくる叔母さん」だった頃より、頼りになる雰囲気が増したのではないでしょうか。
-長田育恵さんの脚本の魅力をどう感じていますか。
長田さんの脚本は、時代性と描きたいメッセージ性を絶妙なあんばいで織り交ぜていらっしゃいますよね。いくら新しい世になったとはいえ、寿恵子と万太郎は、当時の価値観からすると、かなり型破りなキャラクターです。だから、彼らがあまりにもうまく行きすぎたり、周りがすんなり共感したりすると、うそっぽくなってしまい、「こんなことはありえない」と言われかねません。でも、長田さんは周りの人間でしっかり説明してくださるんです。それぞれのキャラクターに、それぞれのボキャブラリー、それぞれの正義があることも忘れていませんし。そういう意味では、どのキャラクターも愛を持って描いてらっしゃるんでしょうね。
-最後に、今後の見どころを教えてください。
久々の登場になりますが、物語が終盤に向かう中、みえとの再会を機に、寿恵子に大きな動きが生まれます。万太郎と共にさまざまな試練を乗り越え、大人になった寿恵子が、新たなステージに進むきっかけになる時間を一緒に過ごしていきます。そこが大きな見どころですが、同時に、寿恵子と一緒に料亭で働く仲居さんたちも、個性的なキャラクターがそろい、居心地の良さを感じさせるシーンも多いので、併せて楽しんでいただけたら幸いです。
(取材・文/井上健一)