小出恵介「人を引き込む映画の魅力を改めて感じました」本格的主演復帰作は映画愛あふれる物語『銀平町シネマブルース』【インタビュー】

2023年2月10日 / 08:00

 時代遅れの小さな映画館を舞台に、くすぶる青年と映画好きの愛すべきばか者たちの奮闘を映画愛たっぷりに描いた『銀平町シネマブルース』が2月10日から公開となる。主人公・近藤猛を演じたのは、これが本格的な主演復帰作となる小出恵介。作品の魅力や撮影の舞台裏を聞いた。

小出恵介 (C)エンタメOVO

-本格的な主演復帰作とのことですが、オファーを受けたときの気持ちは?

 2021年の夏頃、お話を頂いたんですけど、ちょうど僕が復帰して初めて出演した連ドラの直後で、映画にも復帰したいと思っていたところだったので、非常にうれしかったです。ただ、その時点ではまだ脚本はなく、僕の主演で、映画を題材にした作品と決まっていたぐらいで。具体的なイメージとして挙がっていたのが、ハーベイ・カイテル主演の『スモーク』(95)やビム・ベンダース監督の『パリ、テキサス』(84)といった映画でした。「さすらいの男」の雰囲気や、「下町にたむろする人間たちの群像劇」といったイメージですね。その城定(秀夫)監督版みたいなものを想像して、面白そうだなと。

-小出さん自身も学生時代に映画を撮ったことがあるそうですが、当時の思い出が映画好きの近藤役に投影された部分もありましたか。

 僕が高校時代に8ミリで撮ったのは、短いミュージッククリップみたいな作品ですけど、演じている中で、意図せずそういう自分の記憶がフラッシュバックする部分はありました。しかも近藤は、一度挫折して映画の世界から離れていた過去があるわけですが、僕自身もそういう経験をしたので、そこは素直に、自分が学んだり、感じたりしたことを役に昇華できたらと思っていました。ただ、僕は役柄に対して自分を投影できる部分があれば、どんどん投影していきたいと思っているので、今回はそういう1ページが投影された気がします。

-近藤が世話になる映画館「銀平スカラ座」には支配人の梶原(吹越満)をはじめ、個性的な人物が集まってきます。それを演じる共演者の人たちも持ち味を発揮して、物語を盛り上げていますね。

 手だれの役者さんたちが多く、いろいろ芝居を提案される方もいれば、かなりキャラを作り込んでくる方もいらっしゃったり、本当に皆さんそれぞれでした。それを城定監督が見て、うまくバランスをとって調理する感じで。「まず芝居を見る」ということも含めて、非常に役者を尊重して、信頼してくれる監督だなと。

-城定秀夫監督は『アルプススタンドのはしの方』(20)や『夜、鳥たちが啼く』(22)などで近年注目を集めていますが、印象はいかがでしたか。

 ご本人はとても穏やかで優しい方ですけど、現場では判断が早く、迷いなく采配して、限られたスケジュールの中できちんと撮り収めるんですよね。皆さんがよくおっしゃるように、すご腕の職人のような方で、すごいなと。

-完成した映画を見た感想は?

 城定監督らしい味わいはかなり表現されていると思いました。「城定監督は長回しが多い」とは聞いていたんですけど、ワンシーンワンカットで撮って、他にスペアのカットもないのに、よくこうして作品になったなと。現場で無駄なカットは撮りませんし、テイクも重ねない。それでもつながってみると、妥協して撮った感じもなく、きちんと成立している。そこが本当に素晴らしいなと。改めて、城定監督のすごさを思い知りました。

-ハリウッドの巨匠クリント・イーストウッドを思わせる撮影スタイルですね。

 そうですね。撮り方のスタイルが、もはや巨匠のレベルですよね。

-この作品にあふれている映画愛についてはどんな印象を持ちましたか。

 そういう“映画愛”みたいなものは、言葉にしなくても漏れてくるものなんだなと思いました。今回、出演者も監督も、ものすごく映画好きな方が多かったんです。皆さん、現場でも映画の話をしていましたけど、中島(歩/売れない役者・渡辺役)さんや、日高(七海/映画館のアルバイトスタッフ・大崎役)さんは、僕ですら付いていけないぐらい濃い話をされていて。そんなふうに、全員からあふれてくる映画愛が作品に焼きついて、強く画に残った感じがします。

-そんな本作で一際印象に残るのが、撮影後に亡くなった映写技師・谷口役の渡辺裕之さんと小出さんが社交ダンスを踊るシーンです。

 今振り返ってみると、ちょっと不思議なシーンになったな…と。衣装合わせから現場まで、ことあるごとに渡辺さんが「小出くん、やろうか」と声を掛けてくださって、ずっと一緒に練習していたんです。本当に熱心で、すごく真面目に取り組んでいらっしゃったのが印象的でした。現場ではワンシーンワンカットで撮って、ものすごくたくさん回ったので、「目が回る」と大変そうでしたけど(笑)。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

映画2025年5月16日

『サブスタンス』(5月16日公開)  50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによってレギュラー番組を降ろされたことから、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、禁断の再生医療「サブスタンス= … 続きを読む

新原泰佑、世界初ミュージカル化「梨泰院クラス」に挑む「これは1つの総合芸術」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月16日

 世界中で大ヒットを記録した「梨泰院クラス」が、初めてミュージカル化される。主人公のパク・セロイを演じるのは小瀧望。日本・韓国・アメリカのクリエーターが集結し、さまざまな人種が混じり合う自由な街・梨泰院で権力格差や理不尽な出来事に立ち向かう … 続きを読む

グレッグ・ターザン・デイビス「とにかく、ただ純粋に面白い映画を撮ることだけが、自分たちに与えられたミッションでした」『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』【インタビュー】

映画2025年5月15日

 トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第8作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が、5月23日の公開に先駆けて17日から先行上映される。前作『ミッション:インポッシブル/デッ … 続きを読む

研ナオコ、認知症のおばあちゃん役で9年ぶりの映画主演「主演女優賞を狙ってます(笑)」岡﨑育之介監督「研さんの人生の奥行きがにじみ出た」『うぉっしゅ』【インタビュー】

映画2025年5月12日

 人生に迷いながらソープ嬢として働く若い女性・加那と、彼女に介護されることになった認知症の祖母・紀江の交流を明るくポップなタッチで描いたユニークな映画『うぉっしゅ』が絶賛公開中だ。  本作で、加那を演じる若手注目株の中尾有伽と共に、紀江役で … 続きを読む

【週末映画コラム】パディントンの愛らしさが全てを救う『パディントン 消えた黄金郷の秘密』/負け犬ヒーローたちの敗者復活戦『サンダーボルツ*』

映画2025年5月9日

『パディントン 消えた黄金郷の秘密』(5月9日公開)  ロンドンに住むくまのパディントンは、「老グマホーム」で暮らすルーシーおばさんに会いに、ブラウン一家と共に故郷のペルーへとやって来た。しかしルーシーおばさんは、眼鏡と腕輪を残して行方不明 … 続きを読む

Willfriends

page top