高橋和也「出会うべくして出会った映画」自分自身の感情と重なり、人生を振り返る好機に『追想ジャーニー』【インタビュー】

2022年11月11日 / 08:00

 スターを夢見る18歳の高校生・文也(藤原大祐)は母親と口論の後、勉強もせず居眠りを始める。やがて目覚めると、目の前に現れたのは中年の“謎の男”。状況を飲み込めないまま文也は、その男に導かれ、なぜか恋人との出会いや結婚など、自分が将来迎える人生の分岐点に次々と直面することに。果たして文也は正しい選択をして、ばら色の人生を歩むことができるのか。そして、謎の男の正体とは…。11月11日から公開される『追想ジャーニー』は、人生の選択をめぐる独創的なファンタジーだ。謎の男を演じた高橋和也が、作品に込めた思いを語ってくれた。

高橋和也(ヘアメーク:鎌田順子(JUNO)) (C)エンタメOVO

-高橋さん演じる謎の男と主人公・文也との軽妙なやりとりに笑わされながら、物語にグッと心をつかまれました。まずは、本作に出演を決めた理由を教えてください。

 脚本を読んだ時点で、文也と謎の男の掛け合いがすごく面白かったので、直感的に「これはきっと面白い映画になる」と思ったんです。でも、実際に演じてみたら、文也役の藤原大祐くんのセンスがよく、すごくスリリングなお芝居ができたこともあって、想像以上に深い体験になりました。おかげで、「人生に後悔なんてない」と思っていたんだけど、「自分にも後悔はあるな」と改めて気づかされて。

-今までは後悔なく生きてきたと?

 後ろを振り向かず、とにかく前だけ向いて生きてきた人間なので。でも、それなりにいろんな経験をしてきたので、この映画をきっかけに、ふと思い返してみたら、「あんなことを言わなければよかった」、「あんなことをしなければよかった」と、改めて感じたことがたくさんありました。

-人生を振り返るきっかけになったわけですね。

 特に、謎の男と娘との関係が明らかになるシーンは、自分の実人生とすごく重なりました。娘に「なぜあんなことを言ってしまったんだろう?」と、傷つけてしまったことに対する後悔をものすごく感じて。親だったら誰でも、少なからずそういう後悔はあると思うんですけど、そんな感情が湧き上がってきて、涙が止まらなかったです。

-そんなことがあったんですか。

 ただそれは、俳優としては至福の時間で、悲しいシーンだったけど、同時にすごく幸福感があるんです。演技をしていて、自分の人生に重なる瞬間って、俳優にとって実はすごく幸せな瞬間なんです。何年かに一本、そういう経験ができるかどうかで、そこまで自分自身の感情と重なるシーンって、なかなかないですから。それがこの作品にはあったんです。

-高橋さん演じる謎の男は、文也が将来迎える人生の分岐点に立ち会いながら、「よく考えろ」とアドバイスをしていきます。高橋さん自身が、若い頃の自分に「よく考えろ」とアドバイスしたい人生の分岐点はありますか。

 僕自身は、自分がしてきた選択は間違っていないと思っているので、「もう一度戻ってあそこからやり直したい」とはあまり思わないんです。一見失敗したように思えることでも、実はそれが世界を広げてくれたり、新しい人との出会いになったりしているので。

-その一方で、謎の男は、売れないまま長年、役者を続けてきた男ですが、そういう生き方も否定しないと?

 そうですね。売れなくても、夢を捨てられない、諦め切れない人たちを僕もたくさん見てきました。でも、スターの人たちより、そういう人たちからたくさんのことを教わりましたから。

-興味深い話です。

 俳優やミュージシャンなど、厳しいショービジネスの世界で成功するのは何万人に一人で、みんながみんな、才能や運を持っているわけじゃない。圧倒的に多くの人は、自分の夢に向かってもがき続けている。でも、挫折を知った分、人間的により優しく、魅力的になれる気がします。それぐらい、人間的に味わいのある魅力的な人がたくさんいますから。

-なるほど。

 大切なのは、成功することじゃないんです。挑戦すること、やり続けることに人生の価値や意味がある。「成功したからよかった。いい人生だ」ではないと僕は思うんです。

-おっしゃる通りですね。

 この映画のいいところはそこです。「人生を失敗した」、「後悔だらけの人生だ」と思っている人に向かって、「そうじゃない。捨てたもんじゃないよ、あんたの人生」と肯定してくれる。僕もそういう考え方がすごく好きです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

堤真一、三宅唱監督「実はこういうことも奇跡なんじゃないのということを感じさせてくれる映画だと思います」『旅と日々』【インタビュー】

映画2025年11月6日

 三宅唱監督が脚本も手掛け、つげ義春の短編漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』を原作に撮り上げた『旅と日々』が11月7日(金)から全国公開される。創作に行き詰まった脚本家の李(シム・ウンギョン)が旅先での出会いをきっかけに人生と向き … 続きを読む

【映画コラム】俳優同士の演技合戦が見ものの3作『爆弾』『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』

映画2025年11月1日

『爆弾』(10月31日公開)  酔った勢いで自販機を壊し店員にも暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男(佐藤二朗)。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。  やがてその言葉 … 続きを読む

福本莉⼦「図書館で勉強を教え合うシーンが好き」 なにわ男⼦・⾼橋恭平「僕もあざとかわいいことをしてみたかった」 WOWOW連ドラ「ストロボ・エッジ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 福本莉⼦と⾼橋恭平(なにわ男⼦)がW主演するドラマW-30「ストロボ・エッジ  Season1」が31日午後11時から、WOWOWで放送・配信がスタートする。本作は、咲坂伊緒氏の⼤ヒット⻘春恋愛漫画を初の連続ドラマ化。主人公の2人を軸に、 … 続きを読む

吉沢亮「英語のせりふに苦戦中です(笑)」主人公夫婦と関係を深める英語教師・錦織友一役で出演 連続テレビ小説「ばけばけ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」。明治初期、松江の没落士族の娘・小泉セツと著書『怪談』で知られるラフカディオ・ハーン(=小泉八雲)夫妻をモデルに、怪談を愛する夫婦、松野トキ(髙石あかり)とレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ) … 続きを読む

阿部サダヲ&松たか子、「本気でののしり合って、バトルをしないといけない」離婚調停中の夫婦役で再び共演 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月31日

 宮藤官九郎が作・演出を手掛ける「大パルコ人」シリーズの第5弾となるオカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」が11月6日から上演される。本作は、「親バカ」をテーマに、離婚を決意しているミュージカル俳優と演歌歌手の夫婦が、親権を … 続きを読む

Willfriends

page top