草なぎ剛「お父ちゃんとお母ちゃんが、子どもを抱き締めてさえいれば、子どもは強く大きく育っていくんだと思いました」 映画『サバカン SABAKAN』【インタビュー】

2022年8月12日 / 07:00

 1986年の長崎を舞台に、“イルカを見るため”に冒険に出る2人の少年(久田と竹本)のひと夏の友情を描いた『サバカン SABAKAN』が8月19日から公開される。本作で、大人になった久田を演じた草なぎ剛に話を聞いた。

草なぎ剛 (C)エンタメOVO

-この映画に出演することになった経緯を教えてください。ラジオドラマがきっかけだったとか。

 そうなんです。そのラジオドラマは、5年ぐらい前に、事務所を退所して「新しい地図」を立ち上げてからの初めての仕事だったので、すごく気合を入れてやりました。しかも、台本を読んだら、とてもいい作品でした。全員のキャラクターを、僕が一人でやったんですが、ブースの中でも、涙があふれてきました。それで金沢(知樹)監督に「ちょっと待って、感動し過ぎてこれ言えない」と。そんなことがありながらも全てやり切ったのですが、そうしたら何かボツになってしまって…。まあ、いろいろと事情もあるので、しょうがないかなと。

 それで忘れかけた頃に、「映画化が決まった」ということで声が掛かりました。ラジオドラマで読んだときにとても良かったので、これが映像になったらどうなるのかなと思って、それなら、一度自分が読んでいるし、もちろんやりたいと。実は、映画での僕の役はラジオドラマのときはなかったんです。監督が、僕に読ませてボツになったので、悪かったという気持ちで役を作ってくれたみたいです。

-映画の脚本を最初に読んだときの印象は?

 脚本を読んだときは泣きませんでした(笑)。でも、すごくいいなあと思いました。監督とはほぼ同年代なので、何か80年代に子ども時代を過ごした気持ちがよく分かりました。とはいえ、実はそこのところをピックアップしている場面はそれほどなくて、じっくりと読んでいくと、じんわりとした人情が、こんなにも伝わるものなのかと感じました。リアリティーがあるし、そういう時代だったなという思いもあるし、僕自身もそうですが、世間の方でも、あの時代が基盤になっている人は多いのではないかと思いました。

-映画の時代設定が1986年。草なぎさんは74年生まれなので、映画の子どもたちと同い年ぐらいですね。

 だから本当に彼らの気持ちがよく分かるし、それが故に、ラジオドラマのときにジンときたのでしょう。今、大人になっても、この時代はよかったんだなと思います。

-その頃は、もう芸能活動はしていたのですか。

 僕は13、14歳ぐらいから始めたので、この映画の久ちゃん(番家一路)と竹ちゃん(原田琥之佑)の、1、2年後には仕事をし始めている感じです。ちょうどこの世界に入る前だったので、その頃のことはとても鮮明に覚えているし、僕も田舎で育ったので、自転車を乗り回して、毎日友だちと一緒に泥だらけになって遊んだことをすぐに思い出すことができます。その頃に触れたもので、今も生きているという感じがします。

-この映画は、作家の主人公が少年時代を振り返り、その時代だけが持つ濃密な友情やちょっとした冒険が描かれます。何か『スタンド・バイ・ミー』(86)の日本(長崎)版という感じもしましたが。

 そうですね。和製の『スタンド・バイ・ミー』みたいなところはあるなと僕も思いました。『スタンド・バイ・ミー』もリバー・フェニックスたちが線路を行ったり来たりするところがあって、彼らたちにしか出せないような雰囲気がありましたが、それをこの映画では久ちゃんと竹ちゃんが出していて、すごくいいなあと思いました。演技をしたことのない2人にとっては、大挑戦だったと思います。

-その子役たちの演技を見て、どう思いましたか。

 彼らのような、演技をしたことがない子たちが、画面から漂わせる雰囲気とかを見ていると、演技って経験じゃないなと。いい意味で、いろんな可能性を秘めていると思いました。だから僕も、何も考えなくてもいいんだなと。だって、演技をしたことがないあの2人が、あんなにできるのだから、何もしなくてもいいじゃないかと。それが演技なんだなと思いました。逆に、いくら経験を積んでやっても、そんなものは関係ない。そういうことなんだなと思いました。

-よく、子役には勝てないといいますね。

 そうですね。動物と子役には勝てないと。だから、これからは、僕はもう台本を読み込まなくてもいいかなと。読み込んでもしょうがないなと。改めてそんな気持ちになりました(笑)。

-前回の『ミッドナイトスワン』(20)とは180度違う役でしたが、いろいろな役をやることには、どんな思いがありますか。

 役は、やっぱり出会いというか、神様から頂くプレゼントみたいな感じがします。実際にその役をやると、長いものなら半年とか付き合うわけで、自分自身の人生においても、大きな影響が起きるので、役との出会いは、人生のタイミングだなと思います。いいきっかけになってくれるというか、前に進めてくれるような役もあり、楽しませてくれる。そんな感覚ですかね。

 どういう経緯で僕にその役が来るのかは定かではありませんが、やっぱり何か縁があって、もしかしたら他の人が断って僕のところに来たのかもしれませんが、でもそんなことは関係ないわけで、頂く役というのは、とても楽しみだし、人生における出会いでもあるので、これからも、いい役に巡り合えたらと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top