【インタビュー】映画『夕方のおともだち』村上淳×菜葉菜 「廣木監督は、“安定”の壊し方が絶妙」

2022年2月2日 / 10:00

 『あさってDANCE』『BLUE』『レッド』などで知られる鬼才漫画家・山本直樹。その伝説的な作品『夕方のおともだち』が、“エロチシズムのマエストロ”の異名を持つ廣木隆一監督によって映画化され、2月4日から公開される。主人公のドM男・ヨシオを演じるのは、廣木組常連の村上淳。SMの女王様・ミホには、近年勢いを増す菜葉菜。恋とも友情ともつかない男女の奇妙な関係性を、全身で体現した2人のトークを届ける。

菜葉菜(左)と村上淳

-過激な内容ですが、出演に抵抗はなかったですか。

村上 全然。僕が感じ取ったのは、普遍的な恋と友情がうまくブレンドされている物語だなと。しかも、見る人に委ねているので、けりがついていない。それは映画としてエンターテインメントとして好きな部類に入るので、むしろ楽しみでした。

菜葉菜 原作を読ませていただいて、強烈なイメージはありましたけど、描かれているのはそういうところだけじゃなくて、読み終わった後、読む前と全然印象が違って爽やかなお話だったし、描写も繊細に感じたので、SMだったり、脱ぐことだったりは重要な問題じゃなかった。

村上 廣木隆一という監督が、映画を成すために、純愛を描くために、SMというものをエッセンスとして使わない人。ちゃんと理解をして踏まえた上で、リスペクトをして扱っている。人だから性癖があって当たり前だよね、というキャパシティーで撮られているので、全然。

菜葉菜 監督への信頼もありました。そこだけを売りにして作る人じゃないという。廣木監督だから、ということが一番大きかったです。

-それでも、SMの描写は驚くほど生々しい。むちやろうそくは苦痛ではなかったですか。

村上 撮影用のむちを使っているので、そんなには痛くない。ゼロではないですけど、芝居ができないような痛みではないんです。少なくともM男が快楽を覚えるゾーンまでくるような痛みではない。逆にろうそくの方は、SMプレーで実際に使うろうそくなので、あれが愛のある熱さなのかな、と。

菜葉菜 私はやるだけですけど、村淳さんは基本的に痛みに強そう。

村上  強いんだけど、それより好奇心の方が先にくる。もちろん、やっていて無理だと思ったら、言います。でも、僕の体を捧げて、それがフィルムに焼き付いたら勝ちですし、安全対策は周りにいるプロの方たちがしっかり考えてくれているので。そこは信頼関係です。

菜葉菜 はい、村淳さんだから。

-お二人とも廣木監督の作品には何度も出演していますが、廣木作品の魅力とは?

村上 面白いもので、ピンク映画でレロレロやっていた人が、20年たったらキラキラ映画の第一人者になっていた。

菜葉菜 ホントですね(笑)。

村上 日本アカデミー賞の授賞式にも出ている。だから、何を撮っても、どんな題材でも、カッコいいんです。廣木さんはもう60代ですけど、ヌーベルバーグもATGもオンタイムで見てきて、当時の映画は今よりもずっとカッコよく、カッコいい時代を過ごしてきた。そのアウトプットによって、映画的に人間の業や煩悩を肯定して描く。これはこぼれ情報ですけど、どの世代の俳優・女優に会っても、「最近、何聴いてるの?」って音楽の質問をする。

菜葉菜 確かに。音楽が大好きですもんね。

村上 で、すぐその映画に採用するんですよ。

菜葉菜 廣木さんの作品は、この仕事を始めて見るようになって。最初は『ヴァイブレータ』で、そこから前の作品をさかのぼって見たり、追っ掛けるようになって。1ファンとしては、すごく女優さんたちが魅力的だなと。廣木監督の世界の女性って、表面的なきれいさだけじゃなくて嫌らしい部分、嫉妬だったり女性に特有のものってあるじゃないですか。そこを描きつつもドロドロさせない。女性のそういう部分もかわいいと思ってくれているんだろうなと。女性を見る目が温かくて、映画の中でも嫌らしいだけで終わらない描き方をされているところが、女優としては出てみたい一つの要素。あとは、いろんなキラキラ映画を撮っていて、今おっしゃっていた「今、どんな音楽を聴いているの?」というのもそうだけど、廣木監督の中で作品はブレずに、新しいことに挑戦しようとする。廣木さんの今を生きている感じが作品に出ているのも魅力の一つだなと思いながら見させてもらっています。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】俳優同士の演技合戦が見ものの3作『爆弾』『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』

映画2025年11月1日

『爆弾』(10月31日公開)  酔った勢いで自販機を壊し店員にも暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男(佐藤二朗)。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。  やがてその言葉 … 続きを読む

福本莉⼦「図書館で勉強を教え合うシーンが好き」 なにわ男⼦・⾼橋恭平「僕もあざとかわいいことをしてみたかった」 WOWOW連ドラ「ストロボ・エッジ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 福本莉⼦と⾼橋恭平(なにわ男⼦)がW主演するドラマW-30「ストロボ・エッジ  Season1」が31日午後11時から、WOWOWで放送・配信がスタートする。本作は、咲坂伊緒氏の⼤ヒット⻘春恋愛漫画を初の連続ドラマ化。主人公の2人を軸に、 … 続きを読む

吉沢亮「英語のせりふに苦戦中です(笑)」主人公夫婦と関係を深める英語教師・錦織友一役で出演 連続テレビ小説「ばけばけ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」。明治初期、松江の没落士族の娘・小泉セツと著書『怪談』で知られるラフカディオ・ハーン(=小泉八雲)夫妻をモデルに、怪談を愛する夫婦、松野トキ(髙石あかり)とレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ) … 続きを読む

阿部サダヲ&松たか子、「本気でののしり合って、バトルをしないといけない」離婚調停中の夫婦役で再び共演 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月31日

 宮藤官九郎が作・演出を手掛ける「大パルコ人」シリーズの第5弾となるオカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」が11月6日から上演される。本作は、「親バカ」をテーマに、離婚を決意しているミュージカル俳優と演歌歌手の夫婦が、親権を … 続きを読む

高杉真宙「見どころは、何よりも坂口健太郎さんと渡辺謙さんの演技だと思います」『盤上の向日葵』【インタビュー】

映画2025年10月30日

 『孤狼の血』で知られる柚月裕子の同名小説を映画化。昭和から平成へと続く激動の時代を背景に、謎に包まれた天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)の光と闇を描いたヒューマンミステリー『盤上の向日葵』(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松 … 続きを読む

Willfriends

page top