【インタビュー】映画『truth ~姦しき弔いの果て~』堤幸彦監督「この映画を撮って、視界がすっきり晴れた」ヒットメーカーがコロナ禍中のコメディー映画で新境地に開眼!

2022年1月7日 / 11:48

 亡き恋人の部屋で鉢合わせをした3人の女性が繰り広げる抱腹絶倒のマウント合戦とその意外な結末を描いたコメディー『truth ~姦しき弔いの果て~』が公開中だ。監督は、『TRICK』や『SPEC』などの大ヒットシリーズを手掛け、最近は『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM Record of Memories』でも知られる堤幸彦。本作がちょうど監督50作目に当たるが、企画の成り立ちは、これまでとだいぶ異なり、そのキャリアの中では異色作ともいえる。世界各地の映画祭で高評価を得た本作の舞台裏や作品に込めた思いを聞いた。

堤幸彦監督

-「堤幸彦監督50作品目」とのことですが、どんなふうに捉えていますか。

 ある種の通過点というだけで、「50」という数字に意味はないです。なぜなら、50本のうち3分の1ぐらいはテレビドラマから派生したものだし、原作がないと成立しなかったものもたくさんある。オリジナルで作った映画は数本しかありませんから。エンタメでも社会派の問題作でも、「自分の問題意識を映画にする」ということをやらない限り、映画監督を名乗るべきじゃない、というドグマは僕の中にあるので。

-というと?

 1980年代に映画を始めた頃は、「沖縄の小島が独立して、村長が大統領になる」みたいなものを作ったこともあるんです。でも、当時のオウム事件とかぶって配給が降りるなどの問題があり、反省して“売れ線スタイル”みたいな形でずっとやってきました。それ故、今のような感じになっていますが、本来、映画監督の立ち位置としては、50本だろうが60本だろうが、世界に訴える作品を供給するようなことをやらないと駄目だろうなと。分かりやすい例としては、ポン・ジュノさんや(クリント・)イーストウッドさんのような方たちですね。

-なるほど。ただ今回は、プロデューサー兼出演者として参加している俳優の広山詞葉さん、福宮あやのさん、河野知美さんの3人が、コロナ禍で失われた表現の場を作り出すため、自ら企画を立ち上げ、文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」の助成を受けて製作されたインディーズ映画という側面もありますね。

 その点に関しては、このコロナ禍で本当に潮が引くように、仕事が延期や中止、あるいは分断という形になる中、「この原作でやらなきゃいけないんだよ」みたいなことではなく、「私たち、映画を作りたいんです」という本当のオリジンの気持ちに対して、何十年もやってきたノウハウを提供することができました。この不健康な状況の中で、そういう非常に健康的な取り組みができたことに関しては、意味があると思っています。僕は今66歳で、何作までいけるかは分からないけど、今後に向けたある種の“一里塚”にはなったんじゃないかなと。

-そもそも、最初に話がきたときは、監督の依頼ではなかったとか。

 逆ですね。広山さんと何かの折に電話で雑談していたとき、「こんなものを進めているんです」という話を聞き、「だったら、僕に撮らせてよ」と僕からオファーした形です。

-そこにはどんな思いが?

 去年の4月以降、コロナでいろんな仕事が中止、あるいは寸断する厳しい状況の中、実は僕、夏場に転んで大けがをし、手術して入院していたんです。そんな踏んだり蹴ったりの状態の上に、当面の大きな仕事もなく、本来ならスタッフの皆さんが衣食住に困らないものを保証していく責任があったのに、そのすべもない。そういう大変つらい状況の中でこの話を小耳に挟み、コロナで被害者意識にとらわれた人が多い中、「やっぱり女性は強いな」と思いつつ、その心意気が素晴らしいじゃないかと。

-その後、3人との打ち合わせを経て映画化に至ったわけですね。

 打ち合わせの席でキャラクターの住み分けと、「1人の男を愛した3人の女が葬式の日に出会う」というストーリーの出発点がなんとなく降ってきました。最初は「短編でいい」ということだったんだけど、「どうせなら、長尺にしてちゃんと上映できる形に」という話も僕の方からして。だから、その場で脚本家の三浦(有為子)さんに電話して、「こんなアイデアがあるので、付き合ってほしい」とお願いしました。三浦さんは昔、僕の劇団にいた方で、『2LDK』(02)や『明日の記憶』(05)の脚本も書き、僕が何を面白がるのか、よく分かっていますから。

-その結果、完成した映画は英国のノースイースト国際映画祭で最優秀長編コメディー賞を受賞するなど、各地の映画祭で高評価を受けました。製作期間2カ月、撮影2日間という低予算の映画ですが、そういう台所事情を感じさせない見事な会話劇となっています。撮影には苦労も多かったのでは?

 不思議なもので、僕はこれまで50本の映画を作る中で、「どうすれば予算を掛けずに面白くできるか」というノウハウを蓄積してきたんだな、としか言いようがないんですよね。撮影の前に立稽古みたいなことも3、4回やりましたが、始めから終わりまでどう動くか、ということもふっと湧いてきましたし。カット割りも割と複雑に見えますが、ぜいたくにも低予算でカメラを2台借りることができたので、2日で撮り切る計算は立ちました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

ドラマ2025年9月12日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、ついに『アンパンマン』の誕生にたどり着いた。 … 続きを読む

中山優馬「僕にとっての“希望”」 舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~の再始動で見せるきらめき【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年9月11日

 中山優馬が主演する舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~が10月10日に再始動する。本作は、天藤真の小説「大誘拐」を原作とした舞台で、2024年に舞台化。82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、百億円を略取した大事件を描く。今 … 続きを読む

Willfriends

page top