【インタビュー】映画『偶然と想像』濱口竜介監督「なさそうだけどあるという、”もう一つの現実”を描いてみたかった」

2021年12月13日 / 07:30

-東京フィルメックスやカンヌ国際映画祭での上映時は、随所で笑いが起きていたようですが、そうした観客の反応をどう思いますか。

 ここで笑わせようと思っているわけではないです。一人一人は真面目にやっているのにそれが互いにズレているというシチュエーションを作っていくと、笑いが起こりやすい印象です。自分の映画は結構そういうことがありますが、この映画は特に打率が高いですね(笑)。偶然をテーマにすると、そうしたズレが起こりやすくなるような気はしました。現実とすごく近いんだけど、何かズレていく。「ありそうなんだけど、ないかも、いやあるかも」という揺らぎがあり、時には「ないだろ!」っていう強烈な突っ込み感情が起きる。そのことが笑いに結び付いている気がします。

-この映画を作る上で、影響を受けたものはありますか。

 一番は先ほども言ったように、エリック・ロメールの映画と、その作り方だと思います。結果として今回、長編でやるよりも短編という形式のほうが、現実離れしたものは扱いやすいという気付きがありました。長編だと、もう少しリアリティーを作り込んでおかないと見ている側も疲れてしまいます。短編はある種の短距離走なので、現実からちょっと浮いたような展開でも、疲れる前に終わるというところがあるのかな、と。「いやいや、そんなことはないだろ」という事態が、ひたすら続いていくと疲れますが、いいあんばいで終わらせると、現実から微妙に浮いたような物語が展開できるというのが、短編の利点だと思いました。

-最後に観客に向けて一言お願いします。

 自分が作った映画の中でも、ひときわ軽みがあって、笑いが起きる、多くの人が楽しめる映画になっています。それは役者さんの演技の力が大きくて、「本当にこんな話はないだろう」というような話なんですが、それを「こんな人いるかもな」というレベルにしてくれているのが役者さんたちの演技だと思います。その役者さん同士の掛け合いの素晴らしさを見ていただけたらと思います。

(取材・文/田中雄二)

「魔法(よりもっと不確か)」 (C)2021 NEOPA / Fictive

  • 1
  • 2
 

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

舞台・ミュージカル2025年7月3日

▽長い時を刻む、大衆文化とは異なる魅力 -Kカルチャーが世界で注目される今、今回のような舞台表現はKカルチャーの中にどう位置づけられると思いますか?  K-POPや映画などの大衆文化も素晴らしいですが、伝統芸術はそれよりもはるか以前から続い … 続きを読む

毎熊克哉「桐島が最後に何で名乗ったのかも観客の皆さんが自由に想像してくれるんじゃないかと思いました」『「桐島です」』【インタビュー】 

映画2025年7月3日

-実際に演じてみて感じたことや、演じる上で心掛けたことや気を付けたことはありましたか。  自分が桐島を演じる上で一番重要だと思ったのは、(偽名の)「ウチダヒロシ」として、1人の部屋で朝を迎えて、窓を開けてコーヒーを飲んでというシーンでした。 … 続きを読む

磯村勇斗&堀田真由、ともにデビュー10年を迎え「挑戦の年になる」 ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」【インタビュー】

ドラマ2025年7月2日

 磯村勇斗主演、堀田真由、稲垣吾郎が出演するカンテレ・フジテレビ系“月10ドラマ”「僕達はまだその星の校則を知らない」が7月14日から放送スタートする。本作は、独特の感性を持つがゆえに何事にも臆病で不器用な主人公・白鳥健治(磯村勇斗)が、少 … 続きを読む

蓮佛美沙子&溝端淳平「カップルや夫婦が“愛の形”を見直すきっかけになれたら」 グアムで撮影した新ドラマ「私があなたといる理由」【インタビュー】

ドラマ2025年7月1日

 ドラマ「私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~」が、7月1日からテレ東系で放送がスタートする。本作は、グアムを訪れた世代が違う男女3組のとある1週間を描いた物語。30代の夫婦(蓮佛美沙子、溝端淳平)、20代の大学生カップ … 続きを読む

風間俊介「横浜流星くんと談笑する機会が増えてきたことがうれしい」蔦重と和解した鶴屋喜右衛門役への思い【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】

ドラマ2025年6月29日

-それが変わってきたということでしょうか。  物事は、ある程度加速がつき、歯車がスムーズに回り始めれば、少ないエネルギーで進んでいくようになりますが、スタートするときは膨大なエネルギーが必要です。この作品もそういう過程を経て、ようやく彼が笑 … 続きを読む

Willfriends

page top