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心に失調をきたし、妻・純子(奈緒)と2人で東京から故郷の函館に戻ってきた和雄。病院の精神科を訪れた彼は、医師に勧められるまま、治療のため、街を走り始める。その繰り返しの中で、和雄の心は徐々に平穏を取り戻していくが…。現在公開中の『草の響き』は、『そこのみにて光輝く』(13)、『きみの鳥はうたえる』(18)などに続く函館出身の作家・佐藤泰志の小説を映画化した人間ドラマである。本作で主人公・和雄を演じた東出昌大と斎藤久志監督が「意見をぶつけ合った」と語る撮影の舞台裏を明かしてくれた。
東出 生意気なことを言うようですけど、最初に頂いた脚本が本当に素晴らしかったんです。書いてあるせりふと、原作から増えたシークエンスと、増えた関係性というものが、すんなりおなかに落ちてきて。だから、出演を決めるときは、そんなに悩みませんでした。
斎藤 東出さんに決まり、初めて事務所で会った瞬間、「この映画、勝ったな」と思ったんです。ランニングに行くようなラフなスタイルに、高い身長を恥じるかのように前屈みで、目を合わさないで脚本に対する質問をしてくる。確か脚本には線が引いてあったように気がします。そうかと思うと、じっとこちらを見て目をそらさないで返答を待っている。こちらからするとスターなわけで、どんな気取りを見せてくるかと思って身構えていたんですが、それを見事に裏切って、むき身で向かってくる。ナイフみたいでしたね。それがどこまで本心なのかはその時点では判断できなかったですが、ものすごく熱いものを心の奥に潜ませている感じがしました。「あ、佐藤泰志だ」って思いましたね。
東出 ただ、衣装合わせのときは細かく一つずつ決めていきました。例えば、ランニングウエアを決めるときは、「この時はまだ靴は素人っぽいよね」というところから、「お金が欲しいときだから、こんな華美な服は買わないと思う」とか、場面ごとに監督と確認しながら。
斎藤 この作品は、ほぼ脚本の順番で撮っているんです。それも時系列順に。つまり、東出さんと大東(駿介/和雄の親友・研二役)さんの2人の回想シーン、和雄がパニックを起こして、研二を頼ってきたシーンを一番最初に撮影している。そこは和雄の症状が最も重い場面なわけです。事前に東出さんとは自律神経失調症について話し合ってはいるのですが、どこまでその重さを表現していいのかこちらも分からない。東出さんは作ってきたものを提示してくれるんだけど正直判断できない。まだ普段の和雄の状態を撮影していないのに、いきなり映画のトーンを決める重要なシーンなわけですよ。そこで大東駿介なわけですよ(笑)。
東出 大東くんには助けられましたね。
斎藤 最初、大東さんがものすごく心配する芝居をしていたんですね。「そんなに気を使わず、友だちならもっとフラットに」って言ったんです。心配されるっていうのは、される側からしたらプレッシャーにもなる。心配はしているんだけど、心配してるぞ、と相手に分かるアピールはしないでほしいって大東さんに要求した。下手するとただの冷たいヤツになる可能性もあったんですが、そこを大東さんは絶妙なバランスで存在してくれた。そうなると東出さんの芝居も変わってくる。大東さんが自然に存在してくれることがこのシーンのキーになってOKが出せた。じゃないと最後まで分からずに、他のシーンを撮ってからじゃないと分からないと助監督に進言してこのシーンをリテイクしていたかもしれない。
東出 最初だったので、監督も大東くんに「あまりボディータッチしないように」とか、いろいろ言っていましたよね。そこで突然、僕が苦しくなって屈み込むと、大東くんが「タクシーを拾いに行く」と言っていなくなる。その時点では引きの画だったんですけど、そこで「はいOK!」と言った後、監督が「そのままで。カメラ寄るから!」と大声でおっしゃって。それから急いでカメラの位置を変え、「この精神状態をずっと崩さないまま、はい行くよ、よーい、ハイ!」と言ったとき、ちょうど上空を飛行機が通ったんです。それが本当にすぐ頭の上だったので、思わず「えっ?」と見上げる芝居になって。
東出 そうしたら、監督が「OK!」と。確かに、苦しんでいても、何か大きなものが頭上を通れば、絶対に見ちゃいますよね。その後、監督に「こういうことでしょうか?」と聞いたら、「僕も分からない」とおっしゃっていたんですけど(笑)。ただ、僕らが目指すべきなのは、そういうリアリティーなんだろうなと。
斎藤 それは、撮影に入るまでに「今回は、共犯で行こうよ」と東出さんと築き上げてきた関係があればこそですね。その瞬間、うそをついてほしくないというのが一番で、その感情を大切にしたかった。だから、あの瞬間それがうそではなかったのでOKを出した。基本フィクションですから全部うそなわけですよ。でもその瞬間の感情だけはうそであってほしくない。だから偶然とか好きなんですよ。心が動きますから(笑)。最終的に、その瞬間がこの映画のポスターになったわけだし、間違いでなかったということで。
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