【インタビュー】映画『あの夏のルカ』エンリコ・カサローザ監督&アンドレア・ウォーレンプロデューサー「この映画の中で、友情についての問い掛けを掘り下げたいと思いました」

2021年6月16日 / 06:55

 イタリアの小さな港町ポルトロッソの住民たちは、海の世界に住むシー・モンスターを恐れていたが、シー・モンスターも地上に住む人間を恐れていた。だが、好奇心旺盛なシー・モンスターの少年ルカは、海のおきてを破り、親友となったアルベルトと共に、ポルトロッソへやってくる。北イタリアの美しい港町を舞台に描くディズニー&ピクサー最新作『あの夏のルカ』が、6月18日(金)から​ディズニープラスで独占配信される。エンリコ・カサローザ監督とアンドレア・ウォーレンプロデューサーに話を聞いた。

エンリコ・カサローザ監督(左)とアンドレア・ウォーレンプロデューサー (C)2021 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

-少年たちのひと夏の経験を描いた本作は、ピクサー史上初の「夏」を題材とした作品だと聞きました。アメリカには「ボーイズ・オブ・サマー」という言葉があり、『スタンド・バイ・ミー』(86)のような映画も作られていますが、なぜ、こうした題材を描こうと思ったのですか。

カサローザ 確かに、今回は『スタンド・バイ・ミー』や『ヤング・ゼネレーション』(79)からもインスピレーションを得ました。そうした映画のように、今までも夏や友情は映画の美しい題材になってきましたが、ピクサー作品の多くは、パーソナル(個人的)な体験から物語を築いていきます。ですから、今回も僕自身の体験が基になっています。それから、これまでのピクサーの作品では、子ども同士の物語や子どもの視点だけで描かれたものはあまりないと思ったので、それもこの作品を作ろうと思った理由の一つです。子どもの世界で時間を過ごすのも面白いのではないかと思いました。

 あとは海です。僕は運のいいことに、イタリアの海岸沿いの街で育ちました。子どもの頃は、仲間と一緒にずっと海から上がらず、自分たちが魚になったような気がしていました。そこで、この映画のアルベルトのモデルとなった親友と出会いました。そんな中で、友情がいかに互いを成長させていくのか、友情がどのように自分を変えるのか、あるいは、そうした友情や出会いがなければ、果たして今の自分はいたのか…。そうした問い掛けを、この映画の中で掘り下げていきたいと思いました。

-ルカとアルベルトの友情は、相手を大切に思ったり、嫉妬したりと変化しますが、2人の関係性を描く際に、最も気を配った点はどこでしょうか。

カサローザ この映画を、僕の自伝的なものではなく、普遍的なものにするためには、チームの皆との対話が重要でした。皆それぞれに、ルカやアルベルトのような友人がいたり、いろいろな経験をしています。ですから、皆で、友だちからどんなことを学んだのか、新しいことにチャレンジするために、互いにどのように励まし合ったのか、といった話をたくさんしました。僕は、友情の中心にあることは、一人ならやらないようなことに挑戦するきっかけを作ってくれることだと思います。その鍵となるのは、友情がどのように自分を変えるのか、自分の成長にどのように役立っているのかということだと思います。なので、今回は、2人の出会いと、気持ちが通じ合う瞬間を描くことがとても重要だと思いました。それから、2人がそれぞれ孤独だったということも描きたかったのです。互いに寂しいし、相手を必要としているという。その点でも、誰もが共感できる友情が描けたと思っています。

-この映画は、イタリアの歌、ジェラート、パスタ、ベスパ、『ローマの休日』のポスター、マルチェロ・マストロヤンニの写真、サッカー、もともと音楽はエンニオ・モリコーネに頼むはずだった…など、イタリア色が満載でした。最近のピクサー作品は、『リメンバー・ミー』のメキシコ、『ソウルフル・ワールド』のニューヨーク、そして今回のイタリアと、とてもローカル色が強いと思うのですが、何か意図があるのでしょうか、それとも単なる偶然なのでしょうか。

カサローザ 映画の舞台を選ぶときに、初めからその場所にフォーカスしようと意識しているわけではありません。その場所を正確に、具体性を持って描きたいという思いがあるので、ディテールにこだわるのはその結果だと思います。また、物語は普遍性があるものにしたいと思うので、どうすればその舞台にフィットするのかを考える中で、そうなっていくのだと思います。

 ただ、この映画の場合は、僕のイタリアへのラブストーリー、ラブレターのようなところもあります。僕が去らなければいけなかった場所だし、皆さんをそこに連れていきたいという気持ちもありました。それは、先ほどお話した、ピクサーではパーソナルな物語をつづる、というところからきているのだと思います。もちろん、この映画はファンタジーなので、全てがリアルというわけではありませんが。それから、一つ訂正があります。モリコーネの話はウィキペディアに勝手に書かれたもので、根も葉もないうわさに過ぎません。僕はどちらかと言えば、ニーノ・ロータの方が好きです(笑)。

ウォーレン この映画は、エンリコ監督自身の歴史に沿った物語なので、イタリアにしっかり根差しているのは正しいと思いました。また、ピクサーでは、常に描く場所や土地を大切にするという姿勢があります。観客の皆さんには、そこに連れていってもらったような感覚を持ってほしいと思っています。今回も、実際にリサーチ旅行をし、建物や水の反射、通りの感じなどをじっくり研究しました。ですから、ローカル色が強いと感じるのは、イタリアのリグーリアのニュアンスをしっかりと取り込んだ結果なのだと思います。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

染谷将太 天才絵師・歌麿役は「今までにない感情が湧きあがってきた」 1年間を振り返る【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語も、残すは12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」の … 続きを読む

「べらぼう」ついに完結! 蔦重、治済の最期はいかに生まれたか?「横浜流星さんは、肉体的にも作り込んで」演出家が明かす最終回の舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月14日

 NHKの大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」を持ってついに完結し … 続きを読む

稲垣吾郎「想像がつかないことだらけだった」ハリー・ポッターの次は大人気ない俳優役で傑作ラブコメディーに挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月13日

 稲垣吾郎が、2026年2月7日から開幕するPARCO PRODUCE 2026「プレゼント・ラフター」で傑作ラブコメディーに挑む。本作は、劇作、俳優、作詞、作曲、映画監督と多彩な才能を発揮したマルチアーティスト、ノエル・カワードによるラブ … 続きを読む

DAIGO「クリスマス気分を盛り上げてくれる作品なので、『パーシーのクリスマス急行』にぜひ乗車してください」『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』【インタビュー】

映画2025年12月12日

 イギリスで最初の原作絵本が誕生してから80周年を迎えた人気児童向けアニメ「きかんしゃトーマス」の劇場版『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』が12月12日から全国公開された。シリーズ初のクリスマスムービーと … 続きを読む

高橋克典「これは吉良の物語でもあるのだと感じていただけるような芝居をしたい」 堤幸彦「『忠臣蔵』は、演劇的に言えば1丁目1番地的な作品」 舞台「忠臣蔵」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月10日

 元禄時代に実際に起こった仇(あだ)討ちを題材に歌舞伎などで取り上げられて以来、何度もドラマ化、映画化、舞台化されてきた屈指の名作「忠臣蔵」が、上川隆也主演、堤幸彦演出によって舞台化される。今回、吉良上野介を演じるのは、高橋克典。高橋はデビ … 続きを読む

Willfriends

page top