【インタビュー】舞台「首切り王子と愚かな女」伊藤沙莉 4年ぶりの舞台は「身近なファンタジー」人間の多面性を描く

2021年6月4日 / 08:00

 井上芳雄が主演する、パルコ・プロデュース2021「首切り王子と愚かな女」が6月15日からPARCO劇場で上演される。本作は、劇作家・演出家として高い評価を得ている蓬莱竜太が、5年ぶりにPARCO劇場に書き下ろしたすオリジナル作品。反乱分子を鎮圧するために、彼らの首を次々と斬り落とす“首切り王子”(井上)と、運命的に王子と出会う“愚かな女”(伊藤沙莉)をめぐるダーク・ファンタジーだ。王子に興味を持たれ、召使として仕えることになる“愚かな女”ヴィリを演じる伊藤に、約4年ぶりとなる舞台出演への思いや、本作への意気込みを聞いた。

ヴィリ役の伊藤沙莉 (ヘアメイク:AIKO/スタイリング:吉田あかね)

-キャスト発表時に「目標の一つにしていた蓬莱さんの作品」というコメントを出していましたが、蓬莱作品のどんなところに魅力を感じていますか。

 みんなが経験したことがあるような、ちょっとした古傷や痛みを丁寧に描いているところが好きです。わざわざ触れなくてもいい部分まで描くことで、人間味があってうそがない作品になるんだと思います。へたに優しくしないというのはとてもリアルですし、それが蓬莱作品の魅力の一つかなと思います。

-まさに本作も、ファンタジーでありながら“人間”をしっかりと描いた作品ですよね。

 そうですね。この作品でも一人の人間がきちんと360度描かれているところが魅力だと思います。蓬莱さんが「みんなそれぞれが何かと戦っている。戦っているものやその状況は違っても、必死で戦っているのだから、それをきちんと描きたい」とおっしゃっていました。人間の多面性を届けられる作品だと思います。

-現在、伊藤さんが演じるヴィリをどのような人物だと捉えていますか。

 この作品の中では、一番見ている方に近い存在なのかなと思います。身近だからこそ、その言葉や考えは、今のこの社会に置き換えることもできるんじゃないかな、と。自分にも置き換えられるところや共通点もあるので、投影しながら演じているところもあります。

-例えば、どんなところに共通点を感じているのですか。

 最初に脚本を読んだときに、私は、ヴィリは姉を憎んでいるんだと思ったんです。ですが、蓬莱さんから「ヴィリはシスコンだ」と言われて、改めて読んでみたらスッと物語が入ってきました。確かにヴィリは表面的には「絶対に見下してやる」と言っていますが、姉の視界に入っていたいし、姉に憧れを抱いている。私はかなりシスコンなので、ヴィリのその愛の大きさは共感できました。もちろん、私はヴィリとは違う表現で愛情を示していますが(笑)。

-主演の井上芳雄さんとは今回が初共演ですが、井上さんの印象は?

 まさに「王子」です(笑)。本当にすてきな声の持ち主なので、本読み中もひそかに「いい声」って思っています(笑)。首切り王子は本当は寂しくて繊細な人ですが、井上さんはそういったところまで、丁寧に表現されているので、すごく勉強になります。

-伊藤さんにとっては2017年以来の舞台出演となります。舞台の魅力や舞台で演じることの面白さはどこに感じていますか。

 私たちは、毎回毎回、同じお芝居をしていますが、見に来たお客さまは、その日、そのときしか見られないこともあります。そうすると、そのお客さまにとっては、その日のお芝居がその作品ということになります。そう考えると、絶対にNGは出せないという緊張感があるんです。でも、その緊張感の中で演じることが、生きているという実感をくれます。舞台は生ものなので、その板(舞台)の上で、そのキャラクターたちがきちんと生きているというライブ感がすごく魅力的だと思います。

-9歳での子役としてのデビュー以来、芝居を続けてきた伊藤さんですが、芝居の面白さを強く感じたのは、いつ頃だったんですか。

 ずっとお芝居が大好きですし、楽しいと思わなかった瞬間はありません。ですが、意識が変わったという意味では、ドラマ「GTO」で飯塚健監督と出会ったことが大きいと思います。「女王の教室」というドラマに出演してから、いじめっ子役を演じることが多かったんです。もう誰よりもいじめてきた自信があります(笑)。でも、それに飽き飽きしていた気持ちもありました。「GTO」もいじめっ子役だったのですが、そのときに、飯塚監督から「いじめはやってはいけないことだけど、イジっている感覚がエスカレートして周りから見たらいじめになってしまっている人もいるし、いじめっ子だってテレビを見て涙を流す日もあるかもしれない。心底意地悪なやつがいじめるわけじゃない。だから、いじめっ子なのになぜか憎めないキャラクターにしたい」と言われたんです。それまで、そういう役の作り方をしたことがなかったので、すごく新鮮に感じましたし、私にとって大きなきっかけになりました。そこからは、人を生きるという、お芝居の面白さを改めて感じるようになったと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top