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【インタビュー】「WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て」松本まりか 「殴りたい衝動に襲われた」体当たりで挑んだDVシーンを語る

 松本まりかが連続ドラマに初主演する「WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て」が5月14日から放送される。本作は、ドラマ・舞台・小説の三つのコンテンツで展開されるオリジナルシナリオの連動プロジェクト。昭和60年の東京を舞台に、放火殺人を犯したとされる池松律子(松本)の数奇な人生と、彼女を取り巻く男たちの姿を描く。松本に、律子を演じて感じたことや役作りについて聞いた。

松本まりか ヘアメーク:千吉良恵子(cheek one)/スタイリスト:コギソマナ(io)

-本作は、『ミッドナイトスワン』や「全裸監督」で知られる内田英治監督がメガホンを取った作品です。松本さんは、内田監督とは約15年ぶりだと聞いていますが、久しぶりのタッグはいかがでしたか。

 監督の初長編作品が私の映画デビュー作で、監督が初ドラマを撮ったときに私は初ヒロインをやらせていただいて、監督が『ミッドナイトスワン』で日本アカデミー賞を受賞されたタイミングで私の初主演連ドラも撮っていただいた…と、すごく巡り合わせを感じています。私は仕事がない時期もあったので、映画や連ドラの主演には、口にも出せないぐらいの憧れがありました。ですので、まるで夢のような話で、しかも(自分の)環境が激変していく中で、駆け上がっていく内田監督とご一緒できるのは、運命的なものを感じます。

-松本さんが演じる律子は、夜叉のような女、娼婦のような女など、いくつもの素顔を持つ女性ということですが、どのように役作りをしましたか。

 律子についてどんな女性なのか考えてはみたのですが、この人の奥深さは私には到底分かり得るものではないと思いました。なので、私の中だけの想像よりも、自分の外にあるものを信じようと思いました。私自身は無でいること、考えないこと、ゼロでいること、白でいること。そして、現場で本能的に感じた芝居や、その時に心から湧き出た感情などの衝動的な表現で演じました。 私がやったことといえば、自分が平成や令和という時代を生きてきたことで染み付いた「楽さ」や「生ぬるさ」を排除したことです。今の時代は、物質的に豊かです。でも、劇中ではもっと厳しい環境にさらされて、本能的に生きる姿が描かれています。なので、地をはいつくばって、生きることに必死な状態を作ることが重要だと思いました。いかに深度を深くして、人間そのものを表すかを大切にしました。

-劇中には、律子が松下洸平さん演じる君塚公平を殴るシーンも出てきます。DVシーンを演じることにつらさはありましたか。

 DVシーンは、台本を読んでも、なぜ律子は公平を殴るのか分からなかったんです。でも、実際に公平と初めて対峙(たいじ)したときに、不思議と殴りたい衝動に襲われました。彼はものすごく愛情深い目で見てくれるのですが、その視線に拒絶反応が出るんです。見ないでほしい。だから、手が出てしまうんです。それは、きっと松下さんとの演技だったから生まれたんだと思います。松下さんとは、今回初共演で、現場でもほとんどお話をしていませんが、つねに隣にいてくれました。それが、すごく安心できる反面、こんな私の近くにいないでという気持ちにもさせてくれました。彼がそういう気持ちを引き出してくれた。現場で感じたことを表現できたすごく貴重な現場になりました。

-撮影前には「彼女のことを理解するのは前途多難」だとコメントしていましたが、今では律子と同化していますか。

 いや、私はまだ律子のことは分かっていないと思います。ただ、(演じたことで)その時々に律子がどういう感情になったのかは分かりました。なので、「律子はこれです」と思って演じてはいません。その時々で感じたことを表現したものを撮ってくださった。その場で感じたままを演じました。それは、これまでの作品とは違う表現の仕方だったと思います。ですが、不安で不安で仕方ないというような状態は撮影を終えても長らく続きました。律子の不安なのか、私自身の不安なのかは分からないのですが…。

-本作では、三味線を弾くシーンにも挑戦しました。初めての三味線だったそうですね。

 弾いたことがなかったので、すごく練習しましたが、どんどんできるようになっていくので面白かったです。お稽古にもかなり通って、本当に頑張って練習しました。それで、いよいよ本番となった時、公平と一緒に弾くシーンを撮影したら、松下さんがとてもうまかったんです。それまで、お稽古では、皆さんからよくできてると言われていたので、「私、才能あるのかな」なんて思っていたんですが(笑)、松下さんはたった3回の稽古で私よりも全然上手に弾いていらして…。その瞬間、私、律子を演じることも忘れて驚いてしまいました。あまりにも松下さんがお上手だったので、ショックで(笑)。楽器のお話で言えば、松下さんが現場にあったピアノを弾いてくださったこともありました。その姿が尾崎豊さんみたいだったのでそう伝えたら、「I LOVE YOU」を歌ってくれたんですよ。私、松下さんが歌手でもあることを知らなかったので、歌もうまいし、ギターも三味線も弾けるし、なんなんだろうこの人ってびっくりしました(笑)。でも、私はそれを遠くからぼんやりと見ていて、そのときに、きっとこういう瞬間が律子と公平にもあったんだとも感じました。待ち時間の本当にたわいもない一瞬でしたが、初めて癒やされた瞬間でもありました。

-本作を通して視聴者にどんなメッセージを伝えたいですか。

 きれいごとではないということかな。昭和に比べたら今の時代は全てにおいて洗練されていると思います。人間的な欲求や本能は、実はみんなが変わらず持っているものですが、今はそれが分厚い皮で覆われているように隠されている気がします。そうして隠されている状態が、あたかも本来の自分であると錯覚していて、いいところだけを見ようとしていると感じます。でもこの作品では、きれいなだけではない世界を見せています。この作品を見ることで、今まで目をつぶっていたところまでまざまざと見せつけられると思います。同時に、生きている人間そのものの真の美しさも見てもらえると思います。ズタボロに生きて、何も持っていなくても、人間は美しくいられるということに気付かされます。恋人を殺す女性のどこに共感できるのかと思うかもしれませんが、ズタボロの中でもその美しさを見いだされたら、どんな人のことでも分かってあげられるのかもしれない。今の時代だからこそ、目をふさぎたくなるような作品を見ることにも意味があるんじゃないかなと思います。

(取材・文・撮影/嶋田真己)

「WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て」

 「WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て」は、5月14日から毎週金曜午後11時にWOWOWプライムで放送、WOWOWオンデマンドで配信。TELASAでは、各話放送終了後に配信。

公式サイト https://www.wowow.co.jp/drama/original/mukounohate/

 

 

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