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【インタビュー】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』宮川一朗太 アメリカ人から「何でマイケル・J・フォックスが日本語をしゃべっているんだ」と言われたことが心の支えに

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の製作35周年を記念して、「バック・トゥ・ザ・フューチャー トリロジー 35th アニバーサリー・エディション 4K Ultra HD + ブルーレイ」が10月21日から発売される。今回は、マイケル・J・フォックス演じる主人公マーティ・マクフライの吹き替えを担当した宮川一朗太に、マイケルへの思いや、吹き替えの裏話を聞いた。

マイケル・J・フォックス演じる主人公マーティ・マクフライの吹き替えを担当した宮川一朗太

-宮川さんのマイケル・J・フォックスの吹き替えというと、ドラマ「ファミリータイズ」(日本では1986年から放送)のイメージが強いのですが、あれが最初の吹き替えでしたか。

 そうですね。あれは20代前半のときです。吹き替えの仕事は初めてでしたので、果たして僕の声が本当にマイケルに合うのだろうかと、とても不安に思いながら始めました。また、当時のマイケルは超人気者でしたから、彼のファンから不評を買うのではないかと心配しましたが、実際は好評を頂きまして、ホッとしたのと同時に、「これでいいんだ。受け入れてもらえたんだ」と感じて、肩の荷が降りたことをよく覚えています。それからは自信を持ってやれるようになりました。

-その後、数多くの作品でマイケルの声を吹き替えてきましたが、なぜか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の吹き替えだけは最近(2014年)までなかったのですね。

 僕も「当然いつかはできるだろう」と思っていたのですが、それが何年たっても声が掛からない…。なので、僕は「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけはやっていない。マーティをやりたい。やらないと死ねない。死んでも死に切れない」と言い続けてきました(笑)。ただ、そうは言っても、「夢は夢のままで終わるのかな」という諦めの気持ちもありました。ところが、6年前にBSジャパンさんからお話を頂いて、そのときは「ついに来た」と、もう震えました。そしてBSジャパンの担当者の方が、「ファミリータイズ」からずっと僕のファンでいてくださっていて、いつか僕の声でマーティをやってほしいと思いながら、ずっと働いてきたと。そして、いよいよ責任のある立場になれたので実現させた、という話を聞いて、とても感激しました。ですから、本当にいろんな方々の尽力で実現した、僕にとっては感無量の作品になりました。

-今回のセットでは、三ツ矢雄二さん、山寺宏一さん、そして宮川さんと、3人のマーティの声を同時に聴いたり、同じせりふを聴き比べたりもできるわけですが…。

 三ツ矢さんと山寺さんに比べたら、僕はやっぱり下手なんです。もちろん声優としての力量はお二人の足元にも及びませんし、僕は声優にはタブーとされている、せりふの途中や語尾に息を混じらせたり、息を漏らす、ということをやっています。これは役者の発生法で声優さんはやりません。漏らさないでちゃんと有声音で止めます。でも、それが、マイケルのへたれさや情けなさ、いいかげんさにはすごく合うんです(笑)。僕のマーティは、「こういうへたれなやつ、いるよね」とか、「あいつに似ているね」というように、一番身近に感じてもらえるマーティだと思います。そういう目と耳で楽しんでいただければ、僕にとっては幸いです。

-宮川さんの声の裏返り方も面白いのですが、それも意識的にやっているのですか。

 もちろんそうです。これは「ファミリータイズ」のときに無意識にやっていたのですが、3話目か4話目のときに、「マイケルの声って裏返らせるととても効果的だな」と気が付いたんです。彼は身振り手振りが大きいので、これに合わせて声に強弱や高低を付け、それに加えて、声をひっくり返らせることで、彼の適当さや、いいかげんな感じが、とてもよく出ることに気付きました。それからはずっと、いかに効果的にそれを使うかが、僕にとっては重要なチェックポイントになっています。

-今の自分よりも随分若いマーティの吹き替えは大変だったのではありませんか。

 マイケルが主演した「スピン・シティ」(96~02)の吹き替えのときに、プロデューサーから「ちょっと子どもっぽい。もう少し青年ぽくやってくれないか」と言われました。それからは「マイケルも年を取ったので、それなりのイメージにしなければ」と思いながらやってきたのに、6年前に、この約30年前のマイケルの声を吹き替えるとなったときは、僕自身も「思い出さなきゃ」というところで悩んだ記憶はあります。それに、ずっと「やりたい」と言い続けていた作品がついに来たけど、今度は「失敗できない」というプレッシャーがのしかかってきました。「あそこまで言い続けたやつが、やってみたら大したことなかった」と言われたら最悪です(笑)。だからもう気合を入れて、この『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけは、原盤と台本をもらって、家で自分の携帯に全部声を合わせて入れて、画面に合わせながら再生して聴いて、細かい部分をチェックして、もう一度録り直して、また聴いて…。つまり自分で一度収録したんです(笑)。1作につき、10時間ぐらい作業しました。3作だから全部で30時間ですか。それぐらい全身全霊を懸けて臨んだ作品です。

-では、ご自身の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への思いは?

 僕は、前半に伏線をちりばめておいて、それを後半で見事に回収していくというタイプの作品が大好きなのですが、これはその究極の作品だと思います。しかも、SFであり、冒険活劇であり、ラブストーリーであり、コメディーであり、ヒューマンドラマでもある。ぜいたくな幕の内弁当みたいです。それで、なぜ日本人がこんなにこの映画のことが好きなのかと考えたら、最近分かりました。この映画は、ちりばめられた伏線が、最後に一気に“倍返し”で解決するんです。つまり、最後に全部がつながるあの爽快感は「半沢直樹」によく似ていると思いました。落語のように、最後にちゃんと「なるほど」という落ちが付く、というパターンが日本人は好きですから。それに、この映画を何度も見ると、最初は気が付かなかった小ネタに気が付いたりもします。

-最後に、宮川さんにとってマイケル・J・フォックスとは、どういう存在ですか。

 僕は今54歳ですが、二十歳過ぎから、人生の半分以上、マイケルを演じているわけです。ですから、半ばもう同一人物のような(笑)…。前世では兄弟だったんじゃないかと思うぐらい、本当にもう他人とは思えないんです。これはよく話すエピソードなのですが、あるドラマでご一緒した俳優さんのアメリカ人の友だちが、日本に来たときに、たまたま「ファミリータイズ」を見て、「何でマイケル・J・フォックスが日本語をしゃべっているんだ」と言ってくれたそうです。その言葉は僕の心の支えになりました。今は、とにかく、マイケルの復帰を心から願っています。彼が復活してくれないと、僕も彼の新作の吹き替えができないので…。1日も早く復帰して、また僕に演じさせてくださいとお願いしたいです。

(取材・文・写真/田中雄二)

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