NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。第七回から織田信長(染谷将太)も登場し、いよいよ役者がそろってきた。その一方で、主人公・明智光秀(長谷川博己)の主君・斎藤道三(本木雅弘)のライバルとして物語を盛り上げてきた信長の父・織田信秀が、4月5日放送の第十二回でついに最期を迎えた。ここまで信秀を演じてきたのは、これが大河ドラマ初出演となる高橋克典。これまでの撮影で感じたことや、役に込めた思いを語ってくれた。
-大河初出演の感想は?
とても楽しかったです。やはり大河ドラマの現場は、スケールが大きいです。どこへ行っても大掛かりなセットが組んであるので、毎回驚かされました。大勢の出演者やスタッフがいますし、撮影もどんどん進んでいきます。僕にとっては、なかなかない現場だったので、非常に刺激的で、「大河」という名のごとく、大きな河の流れの中に撮影自体もあるような気がしました。今回は4Kでの撮影に加えて、年齢的なことから自分のポジションも今までとは変わってきているので、どんなお芝居が合うのか、模索しながら演じました。
-織田信秀という役柄を、どのように演じていましたか?
プロデューサーからは、「今までの信長のイメージを信秀が請け負ってほしい」と言われていました。その割には、戦に出て行って負け、気持ちを切り替えて勢いよく出て行きながらも、また負ける…の繰り返しでしたが(笑)。信秀は疲れ切っていて、運もなく、体には毒も回ってきている。それを自分でも見切っているんです。それでも力を振り絞って元気に見せていますが、内側はどんどん弱っていき、さらに息子たちを見るとふがいなくて「この運も俺限りかな…」と思っている。あまり剛毅なところを見せられなかったのはやや残念で、もう少し暴れたかったところですが、自分なりに精いっぱい演じたので、それが伝わってくれたらいいです。
-信秀と信長の関係をどんなふうに見ていましたか。
信長にとっての信秀は、もしかしたら越えられない山なのかもしれません。尾張は、周りが幾つもの国に囲まれていて大変だったはず。それでも、金を使うなどいろいろな手を用いて国を守ってきた。そんな信秀は、信長から見たら憧れであり、反面教師でもあったと思います。とはいえ、どんな形でも、父が息子に与えた影響は絶大だったはず。僕は愛情を持って信長のことを見ていましたが、もっとドライで精神的に突き放した冷たさがあってもよかったかなと思っています。「ふがいない」と、信長を諦めているぐらいでもよかったのかなと。
-15、16歳の信長に対して、高橋さんが声を掛けるとしたらどのような言葉を?
「もっと熟慮しろ。熟慮して力を使うべきところに力を使え」ですね。ただ力が強いだけでなく、そういう頭の良さを持ちなさい、と伝えたいです。例えば、第9回で松平広忠(浅利陽介)の首を持ってきたときも、婚儀で手を結んでいる美濃まで厄介事に巻き込むことになるので、「今これをやってしまうと、余計に大変だ」と信秀は落胆するんですよ。だから、「ただ力が強いだけでなく、策も使わないと先に進めない」ということを伝えたいです。
-共演する機会はありませんでしたが、光秀役の長谷川博己さんの印象は?
非常に爽やかで滑舌がよく、歯切れよくせりふが入ってくる俳優さんです。今はまだ若く爽やかな光秀ですが、いろいろなことが周りで起き、彼の中で沈殿していって、最後につながっていくに違いありません。人間を作っていくのは、いろいろな人との出会いや、さまざまな出来事といった経験です。今はそこに至る前の無垢(むく)さをよく演じられていると思います。そういう意味では、光秀のこれからの成長がとても楽しみです。
-第12回をご覧になる視聴者へのメッセージを。
今回、ついに信秀の最期が描かれました。初日に撮影したシーンでしたが、なかなかいい死に方をさせていただきました。信秀から信長へと時代が変わっていく曲がり角で、ここからが新しい時代の幕開けです。そんな信秀の最期を演じることができ、寂しいながらも、とてもうれししく、光栄に思っています。
(取材・文/井上健一)