【インタビュー】映画『ジュディ 虹の彼方に 』レニー・ゼルウィガー 「アカデミー賞の受賞は、ジュディ・ガーランドの物語に心を動かされた皆さんの声が後押しになった」

2020年3月4日 / 16:46

 3月6日(金)から全国ロードショーとなる『ジュディ 虹の彼方に』は、名作『オズの魔法使』(39)で知られる往年のハリウッドスター、ジュディ・ガーランドの晩年にスポットを当てた伝記ドラマだ。47歳の若さで亡くなる半年前、1968年冬に行われたロンドン公演の裏に秘められた彼女の葛藤と苦悩を明らかにする。主人公ジュディに扮(ふん)したのは、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズで知られるレニー・ゼルウィガー。ステージでの歌唱シーンを含め、まるでジュディに生き写しのような入魂の演技は絶賛を浴び、アカデミー賞主演女優賞を受賞するなど、主要な映画賞を独占した。映画の公開を前に、作品に込めた思い、撮影の舞台裏を聞いた。

レニー・ゼルウィガー

-アカデミー賞主演女優賞を受賞した際、スピーチで「キャリアの中でもすごく有意義で、意味深い作品で受賞でき、うれしく思う」と語っていました。その意味を教えてください。

 ジュディがどれほど重要な存在だったのか。私たちはそのことを改めてたたえるため、彼女へのプライベートなラブレターを書くつもりで、クリエーティブな体験を通して、イギリスでこの映画を作りました。それを多くの方が温かく受け止めてくれたことで、彼女の残したものが認められ、彼女が持っていた希望や美しさを、皆さんと共有することができた。そのことに強く心を動かされたのです。

-なるほど。

 この作品は、テルライド映画祭でのワールドプレミアから、観客の皆さんがとても温かく受け止めてくれました。私がアカデミー賞を受賞することができたのは、そんなふうにジュディの物語に心を動かされた皆さんの声が後押しになったからだと思っています。だから、授賞式でステージに上がったときは、思わず涙が出そうになりました。ここに立つのは本来、ジュディであるべきなのに、私が立っている…と。とはいえ、この作品を皆さんが気に入ってくれたのは、ジュディに対する愛故だと思いますし、私たちも彼女を祝福しようと思って作った作品なので、受賞はとてもうれしかったです。

-ジュディ・ガーランドを描く上では、ハリウッドでの輝かしい活躍にスポットを当てるなど、さまざまな切り口があったと思います。その中で、最晩年を選んだことについては、どうお考えでしょうか。

 これは彼女がどうやってスターになったかを描く映画でも、彼女の人生を描いた映画でもありません。スターとは違う、ジュディという一人の人間の葛藤についての物語です。人々が抱くパブリックなイメージの裏で、彼女がどんな状況に置かれていたのか。それを描いた、小さいけれど、とても豊かで大きな物語です。とはいえ、回想シーンも盛り込み、彼女が周囲の人々の選択によって、なぜそういう状況に追い込まれていったのかがきちんと分かるようになっています。

-そういうジュディを演じる上で、どんな準備をしましたか。

 彼女が、どんなふうに自分を表現したのかを徹底的に研究して、習慣化してしまいました。そのためには、彼女がどんなふうに会話をしたのか、パフォーマンスのときに、どの言語を使ったのかなど、考えることはいろいろあります。それらについて、監督や周りの人と話をしたり、YouTubeで映像を見たり…。さらに、いろいろな本に、彼女のちょっとした振る舞いについても書かれていました。悲しいときやうれしいとき、元気なとき、ちょっと酔っ払っているとき、神経質になっているとき、心が乱れているとき、それぞれどんな様子だったのか。そういうものを基に、メンタルの地図のようなものを作るんです。それを自分の中に入れてしまえば習慣化されるので、いちいち考えなくても動くことができるようになるのです。

-歌唱シーンも素晴らしかったです。演じる上で、どんなことを心掛けましたか。

 実は…、何も考えないようにしました(笑)。歌う場面はまとめて撮影しましたが、撮影のスケジュールだけ事前にチェックして、その日のことはひたすら考えないようにして(笑)。

-撮影前の準備は?

 準備自体は、2017年にプロデューサーのデビッド(・リビングストーン)と会った後、少しずつ始めました。でも、あんなふうに歌ったことはないので、全てが初めての経験です。だから、ボーカルコーチのレッスンを受けながら、誰にも聞かれないように、車の中でひたすら歌ったり…。そんなふうに少しずつ積み上げていき、「こんなふうに歌えば大丈夫かな」というところまで近づけていきました。ただ、撮影に入るとスケジュールが厳しくて、あれこれ考えている余裕はありませんでした。でも、逆にそれがよかったのです。考え過ぎずに済んだので。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top