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北方謙三のハードボイルド小説『抱影』を映画化した『影に抱かれて眠れ』が9月6日から丸の内TOEI2、横浜ブルク13他全国順次公開中だ。舞台は横浜の野毛。硲冬樹(加藤雅也)は、数軒の酒場を経営しながら抽象画家として活躍していた。だがある日、冬樹は裏社会に飲み込まれた少女を救出するNPOの活動をめぐって、ある事件に巻き込まれていく…。長年「相棒」シリーズを手掛けてきた名匠・和泉聖治監督の下、加藤雅也、EXILEの松本利夫らが集結した本作は、数多い近年の日本映画とは一線を画す「男」の物語だ。その中で、主人公・冬樹と純愛で結ばれた人妻・永井響子を演じて一際強い輝きを放つのが中村ゆり。撮影の舞台裏や自身が感じた作品の魅力を語ってくれた。
とても新鮮でした。今まであまり触れてこなかったジャンルの作品でしたが、やはりハードボイルド=男のロマンなんだな…と。アウトローな男たちの物語でありながら、社会的な弱者を描いている点にも魅力を感じました。
まず考えたのは、主人公の冬さん(=硲冬樹)にとって、どういう存在であるべきか、ということ。彼にとって響子は、自分の理想を具現化したような女性です。どこにも属さず、孤独を好んで生きている冬さんが安心できる、包み込むような存在。そこには、母親のような部分が求められるでしょうし、娘を思わせる一面もある。そういう意味では、「もしかしたら、実在しないのかも…」と思わせるぐらいの、象徴のような存在でいいのかな…と。
同性としては、響子はちょっと「あざとい」と感じる部分もありました。でも、和泉監督が「大丈夫だから」とおっしゃってくれて…。和泉監督とは以前、別の作品でもご一緒したことがあります。そのときも切ない男女の物語だったのですが、「男っぽいけど、人間の感情の機微をよく見て、色気のある大人の物語にしてくださる方だな」という印象がありました。だから今回も、「監督がそう言うなら大丈夫だろう」と信じて演じました。
雅也さんが私を相手役としてとても大切にしてくださったので、好きになる対象として、スッと入り込むことができました。響子を見る目が、いつも優しく、いとしげで…。こういうふうに男性から見られると、やっぱりうれしいんだな…と。女性としては、幸せな時間でした(笑)。
雅也さんも私も関西人なので、初対面でも気楽に、いろいろな話をすることができました。近所のお兄ちゃん的な感じのざっくばらんとした方なので、距離を感じることもなく…。おかげで、安心してお芝居することができました。意外だったのは、雅也さんがとてもシャイだったこと。本番中に、本気で照れる瞬間があるんです。でも、それがすごくチャーミング。その上、とても繊細な優しさを持っている。そういう雅也さんが、いい意味で年齢を重ねて醸し出す少し枯れた雰囲気が、ものすごい色気につながっていて…。冬樹という役も、そんな雅也さんがやるからこそ、説得力が生まれるな…と。
きれいごとかもしれませんが、プラトニックな関係だったということで、罪悪感は消えていたのかもしれません。男女の関係には、いろいろな形があるでしょうし…。大人になればなるほど、セクシュアリティなものだけではない愛情が大事になってくるというのも、すごく分かります。ただ、響子の旦那さんはちょっとかわいそうですけどね(笑)。
野毛は好きな場所で、今までも何度か行ったことがあるんです。ノスタルジックな雰囲気がとてもすてきですよね。ただ、この作品ではそれだけでなく、アウトローな人たちや体を売って生きる女性たちが暮らす場所としても描かれています。そういう弱者が生きていける環境が、今はどんどん減っていますが、野毛にはそういう人たちを「肩寄せ合って生きていていいんだよ」と優しく包み込む空気があるな…と。映画に関わる以上は、そういうことから目をそらしてはいけないと思っているので、私にとってはすごく大事なことでした。
私が女優になったばかりの頃、初めて大きな役をくださったプロデューサーの方が「日の当たらない人に光を当てるような映画を作りたい」とおっしゃっていたんです。その言葉が、とても心に残って…。「こんな志を持って仕事をする大人がいるんだ」と感動して、以来、私も女優という表現に関わる仕事をしているのであれば、そういう志を持っていたいと思うようになりました。もともと、中学生の頃からドキュメンタリーを見ることが好きでしたし、社会を知るのは、とても重要なことですから。
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