【インタビュー】『タロウのバカ』大森立嗣監督 驚異の新人YOSHI、菅田将暉、仲野太賀共演作で「『生きる』ということを見つめ直してみようと思った」

2019年9月5日 / 12:00

-というと?

 この映画には、普段から歌やダンスをやっているダウン症の女の子だけでなく、より重度の障害者の子たちも出ています。そういう子たちが、こうやって映画を通じて社会参加していくことは、どんどんやった方がいい。彼らが「菅田くんに会える!」と喜んだりするところは、本当に普通です。僕としては、障害者の人も健常者の人も、なるべく一緒に生活できることが、国として最も豊かな状態だと思っています。だから、一日も早くそういう社会が実現してほしい。それはもう、ずっと願っていることです。

-ところで、本作の脚本は20年以上前に書かれたものだそうですが、それを今、映画化した理由は?

 やりたい気持ちはずっとありましたが、内容的にハードなこともあり、なかなか機会がありませんでした。それがこのところ何本か映画を作る中で、環境が整ってきたので、「やってみようか」と。だから、特にこのタイミングを狙ったわけではありません。ただ、当時とは世の中が大きく変わる中で、僕自身、これを撮りたいのかどうか、心境の変化があるのではないかとも思いました。3.11のような災害が起きた後ですから、「生」に対する日本人の捉え方も、高度経済成長期から続いた豊かな時代とは変わるのではないかと。でも、それほど変わらなかった。それどころか、ものすごい勢いで3.11を忘却していこうとしているようにすら感じられた。であれば、この脚本でまだやれるだろうと。

-そう考えると、平成の30年間で、「生きる」ことに対する日本人の考え方が大きく変わらなかったということかもしれません。そうすると、ちょうど時代が令和に変わった今、平成を振り返るような作品になるのでは…という印象も受けますが。

 そんな大それたつもりはありませんが(笑)。ただやっぱり、平成の時代は、あらゆる都合の悪いものを排除しようとする動きが行き過ぎていたのではないかと。その思いは今も変わりません。それに対して、ちょっとやり過ぎではないか、異様な世界になってきてはいないか、という感覚はあります。

-お話を伺うと、この映画には「排除が続いた平成の時代にピリオドを打ち、新しい世の中に向かっていこう」という願いも込められているように感じます。

 どこそこの会社の部長だとか、映画監督だとか、そういう肩書きも生きていく上ではもちろん必要です。でも、人を見るときは、それとは違う、人そのものを見つめる力、人間が「生きている」ということそのものに触れていこうとする姿勢が必要ではないでしょうか。そういう感覚があると、これから問題になっていく高齢化社会などに対して、日本の社会がどう対応するべきかという哲学が持てるのではないかと。この映画が、そういうことを考えるきっかけになってくれたらうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2019 映画「タロウのバカ」製作委員会

 

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

田中真弓「70歳、新人のつもりで頑張っています」憧れだった朝ドラレギュラー出演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年7月26日

-「女の幸せ」という稲の一連のせりふは、田中さんご自身の生き方と相反するようにも感じますが。  友人たちから「真弓が絶対に言わない言葉だな。お前は絶対に反対側だな」という連絡がいくつもきましたし、自分でもそう思いました。女性は結婚や出産を機 … 続きを読む

真彩希帆、憧れの「モーツァルト!」でコンスタンツェ役 「この作品を見に来て良かったと感じていただきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年7月26日

-では、真彩さんのこれまでの歩みも聞かせてください。2012年に宝塚歌劇団に入団し、雪組ではトップ娘役を務めました。その後、21年に退団し、現在は俳優として活動されています。まず、宝塚をめざしたきっかけを教えてください。  子どもの頃から東 … 続きを読む

【週末映画コラム】歴史の「if」を描いた2本『もしも徳川家康が総理大臣になったら』/『お隣さんはヒトラー?』

映画2024年7月26日

『お隣さんはヒトラー?』(7月26日公開)  1934年の東欧のある町。幸せそうなポーランド系ユダヤ人一家の日常が映る。一転、1960年の南米・コロンビア。ホロコーストで家族を失い、ただ一人生き延びたポルスキー(デビッド・ヘイマン)は、町外 … 続きを読む

鈴木梨央「特撮映画の魅力を実感しました」子役時代から活躍してきた若手俳優が、ファンタジー映画に主演『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』【インタビュー】

映画2024年7月25日

-ご自身が演じた時宮朱莉役に対する思いをお聞かせください。  朱莉と同世代ということで、家族に対して素直になれない部分など、自分にも当てはまる部分もあり等身大で演じることができました。 -鈴木さんは子役時代から数多くの役を演じてきましたが、 … 続きを読む

児玉すみれ、『怪盗グルーのミニオン超変身』で声優初挑戦「アグネスになりきれるのが楽しかった」【インタビュー】

映画2024年7月24日

-一番難しかったシーンは?  スーパーで叫ぶところが難しかったです。あまり普段の生活で叫ぶことがないので、どうやって叫んだらいいのか分からなかったですし、タイミングも合わせなくてはいけないので。でも、そこが一番楽しいシーンでもありました。 … 続きを読む

Willfriends

page top