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映画の撮影では、カメラ位置などの都合で同じ場面を何度も撮りますが、普通は同じ芝居を繰り返すうちに新鮮さが失われていきます。でも彼女は、何回やっても鮮度が変わらない。まるで時間を巻き戻しているかのようでした。だから、北川さんや小栗さんのような安定した役者さんを相手にした場合は、彼女も寸分違わず同じ芝居をする。反対に、毎回芝居が変わる相手の場合はその都度、それに合わせたリアクションを返す。それがまるで、その瞬間を本当に生きているかのように自然なんです。「役を生きる」とは、まさにこのことだな…と。
以前、あるベテラン俳優の方がインタビューで「主役を演じることがあったら何もするな。周りがやってくれるから」と話しているのを聞いたことがあります。まさに今回の平手さんはこれだなと。余計なことはせず、ただ響としてそこに存在する。あとは周りがやってくれる。意識してそうしたのかは分かりませんが…。その意味では、陰の立役者は響の担当編集者・花井ふみを演じた北川さんだったと思います。
北川さんはナチュラルな芝居もできる方ですが、今回は大きく受ける芝居をして、響を立ててくれました。プロレスラーが技を大きく受けて、相手を強く見せるのに似ています。しかも北川さんは、自分がオールアップして、現場に来る必要がなくなった後も様子を見にきてくれたんです。まるで、作家の世話をする編集者の役そのままに「この子は自分が面倒を見るんだ」と言わんばかりで。そのせいか、平手さんは北川さんのことをとても慕っていて、今も連絡を取り合っているようです。
ひょっとしたら僕も、この映画の登場人物のように、響に生き方を救われたのかもしれません。これまで、お客さんやプロデューサーが求めるものと自分のやりたいことの間で、折り合いをつけて映画を撮ってきました。独り善がりにならず、お客さんの求めるものをきちんと見せる。それが自分の持ち味だと思っています。でも今回は、『響 -HIBIKI-』という作品がどうあるべきかということだけに集中して作ることができました。そんな感覚は、誰に頼まれるでもなく映画を作っていた自主製作の頃以来です。こういう作り方を忘れてはいけなかったな…と。それに気付くことができたのは、この作品と響のキャラクター、そして平手友梨奈という女優と向き合ったおかげだと思っています。
(取材・文/井上健一)
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