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「半次郎にとって、西郷先生は神以外の何者でもありません」大野拓朗(中村半次郎)【「西郷どん」インタビュー】

 薩摩軍を率いて討幕を目指す西郷吉之助(鈴木亮平)の下には、数多くの藩士が集まっている。その1人が幼い頃、吉之助に窮地を救われた中村半次郎だ。“人斬り半次郎”と呼ばれるほどの天才的な剣の腕前を駆使して、生涯、敬愛する吉之助と行動を共にすることになる。演じるのは、連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(16)、「わろてんか」(17~18)などで人気を集めた大野拓朗。人間味豊かな演技の裏に込めた思いを聞いた。

中村半次郎役の大野拓朗

-出演が決まったときの感想は?

 学生時代は世界史専攻だったので日本史にはあまり詳しくはないのですが、“人斬り半次郎”と言えば、そんな僕でも知っているぐらいの有名人。しかも、名前からして男らしく、強く、猛々しい役。だから、最初に聞いたときは「僕でいいの?」と驚きました。今まで「わろてんか」では三枚目寄りの役でしたし、「とと姉ちゃん」もとぼけたキャラクターと、どこかかわいらしさを感じさせる役が多かったので。でも同時に、役者としてそういう役を頂けるようになったことに対する喜びも湧いてきました。

-半次郎をどんな人物だと捉えていますか。

 基本的にものすごく厳しく、熱く、真っすぐで、直情的な人です。ただし、敵味方関係なく、根性のある人に対しては優しく、情の深いところもある。調べてみたら、そういうエピソードがたくさん見付かったので、温かい人物のつもりで演じています。

-そういう点は、半次郎が敬愛する吉之助にも似ていますね。

 僕も、西郷先生みたいな男になりたいと思って半次郎を演じています。だから、しゃべり方も勝手に亮平さんをまねてみたり…(笑)。でも、全然同じようにはできません。演説を、その場全体に響かせる声の出し方や、説得力のあるしゃべり方はやっぱりすごいなと。だから、撮影が終わるまでには、少しでもコツをつかんで近づけたら…と思いながら、毎回せりふをしゃべっています。

-半次郎は幼い頃、吉之助に助けられた縁があります。半次郎にとって吉之助は、どんな存在でしょうか。

 神です(笑)。神以外の何者でもありません。「人柄にほれている」というレベルではなく、「頭のてっぺんからつま先まで、僕は全て先生のもの」という感じです。僕が初登場した第27回、西郷先生が、大きくなって再会した半次郎に「よか二才(にせ)になったのう」と声を掛けてくれたときの顔なんかまぶし過ぎて…。とっても神々しかったです。

-吉之助役の鈴木亮平さんの印象は?

 すごい人です、器が大きくて…。いろいろアドバイスを頂きながら芝居を進めていますが、相談すると「こんな感じで」と手本を見せてくれるんです。それが確かにそう見えるので、僕も「やってみます!」と。体作りについても、いいサプリメントや効率のいいトレーニング方法を教えていただいて…。なんでも相談に乗っていただいていますが、今まであれほど器の大きさを感じた人は、ほかには北大路欣也さんしかいません。亮平さんは、それぐらい大きな人。完全に神ってます(笑)。

-話を半次郎に戻すと、かわいらしさも彼の魅力ですね。

 漢字に弱い点や「西郷先生大好き」という忠誠心が前面に出ているところは、かわいらしいですよね。これまで、「とと姉ちゃん」の清は“ウザかわいい”、「わろてんか」のキースは“小ざかしかわいい”と自分で命名していたので、半次郎は“勇ましかわいい”にしようかと(笑)。

-かわいらしさという点では、川路利良(泉澤祐希)とのコンビも、ボケとツッコミのような雰囲気があります。

 対極のキャラクターですからね。川路は感情をあまり表に出さず、冷静で知的なタイプですが、半次郎は突っ走るタイプ。第34回では、西郷先生をたたえようとして言葉が出て来ず、川路が教えてくれたのに、それを自信満々に間違えて突っ込まれる、みたいなシーンがありましたが、本当に漫才をやっているような感覚でした。亮平さんが「笑いをこらえるのに必死だった」と言ってくださったのもうれしかったです。1年間、漫才師の役(「わろてんか」のキース)をやってきてよかったなと(笑)。

-その一方で“人斬り”と呼ばれた半次郎は、殺陣も見せ場になりそうですね。

 初登場の第27回が大きな見せ場でした。「軒先から雨粒が落ちる間に、3回抜刀して納刀した」という逸話のオマージュで、雨粒が落ちる間に、木刀で3人を倒すというシーンがありました。

-練習も入念に?

 僕自身、剣道をやっていましたし、時代劇アクションも経験はありますが、刀を使った本格的な殺陣は今回が初めて。だから、できるだけカッコよく、勇ましくしたいと、殺陣師の先生に教わりながら、自宅でも練習を積み、満を持して本番に臨みました。もっと練習したかったところですが、あの時点でのベストは尽くせたかなと。子ども時代の半次郎(中村瑠輝人)も殺陣がカッコよかったので、みなさんに「あの半次郎が成長して帰ってきた」と思ってもらえるようなシーンになっていたらいいです。

-“人斬り”という言葉には、“勇ましさ”と同時に“冷酷さ”という雰囲気も漂います。そのあたりはどうお考えでしょうか。

 敵に相対したときは、そういうものを出していきたいです。「こいつと目を合わせたら危ない」と思わせるように。そうすれば、普段の“かわいらしさ”とのギャップが出て、よりキャラクターが引き立ちますから。実は半次郎の役作りは、動物のピューマを参考にしているんです。役作りのためにネットでいろいろ調べていたとき、たまたまたどり着いたのがピューマの画像。獲物を狙うときの顔はものすごくカッコいいのに、普段の甘えたような表情はすごくかわいらしい。それを見たら、「これ、半次郎だ!」と思って。それからひたすら画像検索を繰り返して、ピューマが目標になりました(笑)。

-大野さんは「好青年」というイメージが定着していますが、そういう意味では今までと違った表情が見られそうですね。

 それが僕にとって今回の一番のテーマです。“かわいらしさ”は今までも得意な部分でしたが、半次郎として生きる上ではそれ以上に強さがほしい。この役を通してそういうものを身に付け、皆さんに見ていただけるように頑張ります。

(取材・文/井上健一)

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