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「由羅は島津家のキーパーです」小柳ルミ子(由羅)【「西郷どん」インタビュー】

 黒船来航に危機感を覚え、幕政改革を画策する斉彬(渡辺謙)だが、島津家内部では前藩主である父・斉興(鹿賀丈史)との不仲が続く。その中で独特の存在感を発揮しているのが、斉興の側室・由羅だ。“お由羅騒動”としてその名を残すなど、悪女として知られる由羅を演じるのは、「琉球の風」(93)以来、25年ぶりの大河ドラマ出演となる小柳ルミ子。撮影の舞台裏や大好きなサッカーに例えた話なども交え、演者ならではの視点で由羅について語ってくれた。

由羅役の小柳ルミ子

-25年ぶりとなった大河ドラマ出演の感想をお聞かせください。

 幸せです。大河ドラマはスケールが大きくて全国にファンの方も多いですし、お芝居に対して、役者はもちろん、スタッフの方も皆さんプロで、プライドを持って真摯(しんし)に取り組んでいます。その現場にまた関われることを、とてもうれしく思っています。今回は特に“チーム西郷どん”という感じがします。その一員として「下手なパスは出せない」という気持ちで、私も誇りと責任感を持ちながらやっています。

-小柳さんはサッカーがお好きだそうですが、“チーム西郷どん”をサッカーに例えると?

 サッカーと共通するところはたくさんあります。まず、演出のスタッフがディフェンダーですね。そして、中盤が現場のスタッフで、フォワードが私たち役者。ディフェンダーが的確な判断と正確なパスで中盤に回さないと、ボールを失ってしまいます。さらに、中盤の現場スタッフがストレスをかけずに、最前線の私たちにパスを出してくれないとゴールを決められず、結果が出せない。みんな一流のプロですが、それぞれを信頼してちゃんとコミュニケーションが取れないと点は取れません。“チーム西郷どん”は、まさしくサッカーと共通しています。

-現場で大河ドラマならではと感じることはありますか。

 他の作品ではさまざまな制約から、リハーサルの時間を十分に取れないことが多いのですが、大河はきちんとリハーサル日を取って、演出家としっかり意見交換した上で本番に臨みます。それは大河ならではですね。

-由羅をどのような人物だと考えていますか。

 私も撮影に入る前に調べてみましたが、非常にキツくて怖い女性だと思っていました。恐らく、多くの方が抱いているイメージと同じでしょう。ただその後、スタッフや地元の研究家の方からいろいろとお話を伺うに連れ、実は非常に愛情の深い、母性愛の強い、純粋なかわいらしい女性だったということが分かってきました。ですから、そういう部分を私なりに表現できたらと思っています。

-由羅を演じて、印象的だったシーンは?

 瓦版で悪評を書き立てられたことに対して、「みんな私を憎むがいい。殿様が無傷ならそれでいいわ。みんな私を斬りにいらっしゃい!」と言う場面(第4回)。自分の命を投げ打ってでも、大事なものを守るというあの強さは印象的です。同じ回で殿(=斉興)から当主の座を奪った斉彬に対して拳銃を向けるシーンも、由羅の感情が爆発していたので、台本を読みながら涙がにじんできてしまいました。どのシーンも一つ一つ大事に、心を込めてやらせていただいています。

-そういった場面を含めて、全体的に由羅は強い女性という印象を受けます。

 そうですね。ただ、その強さは息子の久光(青木崇高)や殿様を守ろうという深い愛情から生まれています。でもそれは、特別なことではなく、母親なら誰でも同じではないでしょうか。時代を超えて今も通じる普遍的なものだと思いますが、由羅の場合は、誤解されて伝わってしまった。だから本当は、由羅が一番時代に翻弄された人だったのではないかと思っています。

-なるほど。

 それと同時に由羅は、久光に対しても溺愛するばかりではなく、ちゃんと駄目なことは駄目だと言えるし、女性らしい優しい心のひだも持っている。演じれば演じるほど、すてきな女性だと感じています。今は親子の悲しい事件がニュースになることも多いですが、だからこそ母の豊かな愛を皆さんに見てもらいたいです。

-演じる上で特に心掛けていることは?

 由羅のせりふには、すごく強い言い回しのものもありますが、根底には相手のことを思う愛情や純粋さがある。もしくは、誤解を招きかねない言動も、決して意地悪な気持ちから出たものではない。常にそういうことを意識して演じています。例えば、ある回で大久保家を訪ねて、「これが家ですか?」と言う場面があります。それだけ聞くと、「なんてきついことを」と思いますよね。でもその後に、「懐かしいわ」と続くんです。つまり、自分が生まれ育った家も、こんなふうに狭い家だったと。意地悪ではなく、素直にふっとそう言える…。だから本当の由羅は、おなかの中にはなにもない真っ白な人だったに違いありません。

-斉興役の鹿賀丈史さん、久光役の青木崇高さんとご一緒の場面が多いですね。

 最初に顔合わせしたときから、殿とはあえて距離感を置きました。ご本人と親しくなり過ぎると、緊張感みたいなものがなくなるような気がして…。逆に久光は、初対面から飛び込んで、距離を近づけました。メールアドレスもすぐに交換しました(笑)。

-ドラマを拝見していると、由羅が斉興を愛している様子がよく伝わってきます。

 私自身、本心からそう思い、その気持ちを全身で表現するようにしています。側室として尊敬し、愛する一方で、いつも憎まれ口ばかりたたく殿が、かわいらしくていとおしい、放っておけない大きな子どものようでもある。そんな気持ちで接しています。

-それでは最後に、サッカーに例えたら、由羅はどのポジションに当たるでしょうか。

 面白い質問ですね(笑)。キーパー…ですかね? キーパーがスーパーセーブをすると、試合が締まるんです。キーパーには時々しかボールは来ませんが、ちゃんと試合の流れを読んでいないと、瞬時に反応できない。飛んでくるときはものすごい勢いで、目を背けるほどですが、それを怖がらずにキャッチする。その度胸と大胆さに加えて、繊細さも必要ですし、自分が守っているからという安心感をチームに与えなければいけない。そう考えると、やっぱり由羅は島津家のキーパーですね(笑)。

(取材・文/井上健一)

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